↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色王子のバラ色観察日記  作者: こさか りね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/46

27

 王宮へ到着したローレンス様は、休む間もなく動き始めた。


 救出した子供たちを医者に診せる手配に、第一王子への報告書の作成。今回の事件についても、早急に対応しなければならないことが山積みらしい。

 そんなローレンス様の邪魔をするわけにもいかず、私はレノンさんに声を掛けた。


「レノンさん、特殊部隊へ報告して参ります」

「承知いたしました。こちらはお任せください」

 そうして私は、自分の所属する特殊部隊室へと向かったのだった。


 扉を開けて室内に入ると、窓際のデスクで書類仕事をしているヴィンセルの姿が目に入った。


ちょうどいい。

 私は彼のそばまで歩み寄り、隣に立った。

「ヴィンセル、お疲れ様。この二日間で、何か引き継ぎとかある?」

「――ひっ!!?」


……え?

今、悲鳴が聞こえなかっただろうか。

 不思議に思って顔を覗き込むと、ヴィンセルは目を見開き、見るからに動揺していた。

「なっ!? なに!? なんの用なの!?」

「……え?」

いや、何その反応。

 いつもなら、もう少し普通に会話できるはずなのだが。

 しかも、慌てふためくあまり、手元の書類をぎゅうぎゅうと握り潰しているではないか。


……それ、仕事の書類だよね?

「……えっと、その書類は平気?」

 私が指摘して、ようやく気付いたらしい。

 ヴィンセルは自分の手元を見下ろすと、頭を抱えた。

「……っ、くそ……!」

 いや、そこまで落ち込まなくても。

「私も手伝おうか?」

「いや、いい。大丈夫だ」

「そう?」

「ああ。……だから、どっか行ってくれる?」

…………。

……はい?

私は思わず首を傾げた。

 先日のヴィンセルは優しかった。だから、これからは上手くやっていけそうだと思っていたのに。


たった二日で、どうしてこうなった?

……私、何かしたかな?


 記憶を探ってみるが、これといって思い当たる節はない。

 とはいえ、本人が話したくないのなら、無理に聞き出すことでもないだろう。


……まぁ、いいや。

私は早々に考えることを放棄した。

「……そっか。じゃあ、また」

 ヴィンセルに軽く手を振り、その場を離れる。

……背後から、何やら苦悶の声が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。

◇

 そのまま団長室へ向かい、扉をノックする。

「入れ」

「失礼します」

 室内に入ると、師匠は書類から顔を上げた。

「おう、アレンか。どうした? 茶でも飲むか?」

「いただきます」


 返事をすると、師匠は自らお茶を淹れてくれた。

 私はありがたくそれを受け取り、一口飲む。

 温かいお茶で喉を潤してから、ようやく本題を切り出した。


「実は昨日、ローレンス様と一緒に、もう一度ダントン伯爵が借りていた古い屋敷へ行ってきたんです。その報告に参りました」

「…………は?」

 師匠の動きが止まった。

 そして、ゆっくりとこちらを向く。

「……なぜ、ローレンス殿下が一緒なんだ?」

 目を丸くする師匠に、私は昨日の出来事を順を追って説明した。

 ローレンス様が同行することになった経緯から、子供たちを救出したこと、その後の対応まで。

 一通り話し終えると、師匠は深々とため息をついた。


「……お前も、その侍従も、いいように転がされてるだけじゃねーか」

「い、いえ、そんなことは……」

【ありません!】

……と、言い切りたい。

言い切りたいのだが。 何故だろう。

 どうしても、そう断言できない自分がいる。

 私が黙り込んでいると、師匠は呆れたように続けた。

「いいか? まず、お前がすべきことは何だ?」

「……師匠への報告、です」

「そうだろうが。結果的に何もなかったからよかったものの、もし何かあったらどうするつもりだった? お前一人で責任が取れるのか?」

「……取れません」

「だろうな!」

 ぐうの音も出ない。

 師匠は腕を組み、さらに念を押した。

「次からは、ちゃんと報告しろ。分かったな?」

「……はい」

「よし」

 ひとまず説教は終わったらしい。

 私はほっと息をついた。

――が。

「それと、話は変わるが」

 師匠が、何でもないことのように言った。

「潜入調査中に、ヴィンセルに女だとバレたんだって?」

「――っ!?」


うそでしょ!?

 思わず声が出そうになった。


なんで、私より先に師匠へ報告してるの!?

ヴィンセル……!

 さっきの挙動不審ぶりといい、いったい何を考えているのだろうか。

「えーっと……はい。報告が遅くなって、すみません」

 しどろもどろになりながら答えると、師匠は二度目のため息をついた。

「状況は、全部ヴィンセルから聞いている。斬られたんだってな」

「……はい」

「……大丈夫か?」

 思いがけず真剣な声で尋ねられ、私は少し面食らった。


……あれ? 怒ってない?

 先ほどまでの説教を思えば、もっと厳しく追及されてもおかしくないと思っていたのだが。

「はい。大丈夫です。怪我もありません」

「そうか。それならいい」

 師匠は短く頷いた。

「ヴィンセルにも、俺から口止めしておいたからな」

「ありがとうございます」

 そこまではよかった。

 問題は、その次だった。

 師匠は何かを思い出したように、ふっと口元を緩めた。

「……それと、お前の裸は、ガキには刺激が強かったみたいだぞ」

「ぶっ――!!?」

 口に含んでいたお茶が、盛大に飛び出した。

「げほっ、げほっ……!」

「うおっ!? おい! 茶を吹き出すな! 汚ねぇだろ!」

「師匠が変なことを言うからでしょう!?」

 私は慌てて口元を拭いながら、抗議した。

「というか、裸って何ですか!? 私、裸になんてなってませんよ!」

「いや、そう言われてもな……」

師匠は飛び散ったお茶を拭きながら、呆れたようにこちらを見た。

「ああ。ヴィンセルが、服を切られたって話してたぞ」

「服を切られたのと、裸なのは全然違います!」

思わず身を乗り出してしまった。

「少しですよ! 少し! あれは断じて、裸ではありません!」

「分かった、分かった。そんなにムキになるな」

 師匠は適当に頷いている。


……絶対、分かっていない。

「まぁ、そんな感じだから、とりあえず頑張れよ」

「……え? 何をですか?」

 今の話の、どこに頑張る要素があったのだろう。

 眉を顰める私に、師匠は意味深な笑みを浮かべた。

「そのうち分かる」

「…………?」

 まったく意味が分からない。

 けれど、師匠はそれ以上説明する気がないらしい。

「ほら。昨日のことを、もっと詳しく話せ」

 そう言って、あっさりと仕事の話へ戻ってしまった。


……結局、何だったのだろう。

 釈然としないまま、私は任務の詳細を改めて報告することになったのだった。

◇

 報告を終えて団長室を出ると、特殊部隊室にはもうヴィンセルの姿がなかった。


……裸なんて見せた覚えはないのに。まったく、何てことを言いふらしているんだ。

 私は頬を膨らませ、心の中でぶつぶつと文句を言いながら、執務室へと戻った。

 すると、部屋の中ではローレンス様とレノンさんが何やら話し込んでいた。

「アレン、今いいか?」

 私に気付いたローレンス様が声を掛けてくる。

「はい」

 私はレノンさんの隣まで歩み寄り、二人の話に耳を傾けた。

「先ほど、医者から報告があった」

 ローレンス様は落ち着いた声で説明を始めた。

「ルーナは打撲で、骨に異常はないそうだ。テオについては、やはり精神的なものが原因らしい。声が出せるようになるまでは、時間がかかるだろうと言っていた」

「そうなんですね……。承知しました」

 ルーナに骨折がなかったのは、不幸中の幸いだ。

 けれど、テオのことは心配だった。

 あの子が再び安心して話せるようになるまで、どれほどの時間が必要なのだろう。

 焦らせることなく、ゆっくりと心を癒やしていける環境が必要なのだと思う。

 私はふと、疑問に思っていたことを尋ねた。

「それと、子供たちは今、どこにいるのでしょうか?」

「ああ。客室で三人一緒に過ごしている。話を聞くにしても、心身ともに落ち着いてからになるだろうな」

「……そうですね」

 まずは、あの子たちが安心して過ごせることが一番だ。

 これ以上、怖い思いをさせるわけにはいかない。

 そう考えていると、不意に扉をノックする音が響いた。

「失礼いたします」

 レノンさんが扉を開けると、そこには侍従が立っていた。

侍従は一礼し、用件を告げる。

「ローレンス殿下。レオナード殿下がお呼びです」

「分かった」

 ローレンス様はすぐに頷き、こちらへ視線を向けた。

「では、行こうか」

「はい」

 そうして私たちは、第一王子レオナード殿下の執務室へと向かったのだった。


――ダントン伯爵の屋敷で見つかった子供たち。

そして、その背後に潜む人身売買の組織。

救出はできたものの、事件の全容はまだ明らかになっていない。

第一王子への報告によって、次に何が動き出すのか。

私はまだ、その先を知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。