25
私とローレンス様は、西日が差す廊下を進み、問題の部屋へと向かう。
「開けるぞ」
ローレンス様が扉を開けると、子供達が一斉にこちらを見た。
そして、見た事のない私達に怯えている。
私は、怖がらせないように、一定の距離を保ち、話しかけた。
「怖がらなくて大丈夫。
君達を助けに来たんだ」
そう伝えたのだが、恐怖で顔がひきつっている。
やはり、余程酷い目にあったのだろう。
どう声を掛けていいのか悩んでいると、ローレンス様が口を開いた。
「お前達はアーデンヴァルト出身だろう?
上手くいけば、親元へと帰してやれる。
それとも、ここに居たいのか?」
すると、一番大きい男の子が口を開いたのだ。
「けど、帰ったって、また、売られる」
そう言って、俯いた。
「お前達は攫われて来たんじゃないのか?」
・・・・。
男の子はそのまま黙り込んでしまった。
すると、少し小さい女の子が口を開いた。
「偉い人が子供を集めに来るの。だから、帰っても、すぐ連れて行かれちゃう」
・・・どういう事だろう。
5歳くらいの女の子はそう言うと、空の魔石に黙々と魔力を込め始めた。
そして思った。
今ここで、解決出来るような内容ではないと。
だから、私は話題を変えたのだ。
「ねぇ、お腹空いてない?
私達と一緒に、ご飯を食べようか?」
「でも、終わらせないと怒られちゃう」
そう、不安そうに言う女の子に安心するように話し掛けた。
「大丈夫。
君達に酷い事をしていた人達は、やっつけたから、もう怒られる事はないよ。だから、魔石に魔力を込める必要もない」
「・・・本当?」
「ああ。本当だ。
だから、足枷を外そうか」
すると、黙ったままだった、一番大きい男の子が口を開いた。
「・・・ねぇ、本当に信じていいの?」
円らな青い瞳でジッと見つめてくる。
そして、その瞳の中には小さな光が宿っていた。
するとローレンス様が口を開いたのだ。
「俺は、この国の王子だ。
君達を保護し、安全を確約しよう。
それと、君達の現状に気付くのが遅くなり、すまなかった」
まさか、ローレンス様が謝るとは思わなかったので、思わず凝視してしまった。
ダントン伯爵がやった事であって、ローレンス様は関係ないのに・・・。
そんな風に思っていると、女の子が『かくやくってなに?』と私に聞いてきた。
「約束するって事だよ」
すると、三人は頷き、私達は足枷を外していったのだ。
そして、さっきから一言も話さない男の子に話しかけた。
「もう、大丈夫。外まで歩ける?」
すると、コクンと頷いた。
それを見ていた、一番大きい男の子が教えてくれたのだ。
「テオは喋れなくなったんだ」
「・・・前は話せたの?」
「うん。ここに来て、急に話せなくなったんだ」
もしかしたら、精神的ショックか、喉の病気か何かだろう。
「帰ったら、お医者様に診てもらおうか。
喉は痛い?」
すると、首を振ったので、前者が濃厚だろう。
「行けるか?」
と、ローレンス様の声に振り向くと、ローレンス様が女の子を抱えている。
「どうしたんですか!?」
「右足を強く打たれているようだ。
医者に見せるまでは、歩かせない方がいいだろう」
「私が抱えます」
すると、首を振り、指示を出された。
「いいや、いい。
アレンは二人のサポートを頼む。
では、行こう」
そう言って、颯爽と歩き出すローレンス様に、私達も続いた。
そして、レノンさんに子供達を託し、私達は再度屋敷へと戻り、魔石を運び出した。
全てを持ち帰る事は出来ないので、持ち帰れないものは川へと捨てたのだ。
日も暮れている為、レノンさんが手配してくれた宿へと行く。
目撃情報が出るとマズイので、三人には荷物の袋へと入ってもらう事にした。
そうして、無事に宿へと到着したのである。
子供達は、何日もお風呂に入ってないそうで、食事を手配してもらう合間に、レノンさんが風呂へ入れると言い出したのだが・・・。
「あの、レノンさん?
その子は、女の子ですが・・・」
見た目は5歳くらいだが、知らない男の人に裸を見られるのは嫌だろうと思い、声を掛けたのだ。
「何を言っているのですか?
例え、主人が成人女性だとしても、そういう目で見ないのが、侍従ですよ!
ですから、アレンさんより、私の方が安全なのです」
・・・・・・。
こういう時に女って言えない事が辛い。
そして、レノンさんは、公私混同なんてしません!って顔で言い放っているのだが・・・。
では、何故今ここに居るのかを問いたくなった。
潜入調査は侍従の仕事ではありませんよ。と。
でも、男に成りすましている私は、これ以上は食い下がれないので、レノンさんを信じ、任せる事にしたのである。
すると、ローレンス様が口を開いた。
「レノン、その子は、右足を怪我しているから動かさないように頼む」
『かしこまりました』と返事をし、レノンさんが、三人を連れて部屋から出て行った。
それから私は、ローレンス様に聞いてみたのだ。
「さっきは、何故、子供達に謝ったのですか?
ローレンス様は何も悪くないですよね?」
「悪い、悪くないの問題ではないんだよ。
ダントン伯爵は、ハインデルト王国の貴族であり、他国の者に危害を加えたんだ。
であれば、王家の私達にも、少なからず責任はある。
謝って許される事ではないが、誠意を見せるのが、王族としての務めだ」
・・・なるほど。
貴族の頂点に立つのが王族だ。
そして、爵位の叙任や解任も王族が決める。
その貴族が他国相手に問題を起こせば、任命責任があるという事なのだろう。
自分の浅慮な考えに、恥ずかしさを覚えた。
「アレン。さっき子供達が話していた事だが、国へ帰ってもまた売られるって言っていただろう?
アーデンヴァルト王国の事は知っているか?」
「衰退した国と聞いておりますが、詳しくは知りません」
すると、ローレンス様が詳しく教えてくれたのだった。
・・・豊かな魔法の国か。
今は、その面影もないんだな・・・。
「俺の情報もそんなに新しい物ではないからな。
一度、調べる事も視野に入れた方がいいだろう。
あと、子供達を医者に見せる件だが、明日、王宮へ着いてからにしようと思う」
私が『分かりました』と頷いた時に、レノンさんと子供達が帰って来た。
三人とも見違える様に綺麗になって、薄汚れていた髪色もハッキリと分かるようになった。
それからは、部屋で食事を取り、軽く話したのだ。
一番大きい男の子が8歳で名前はリオン。
女の子が6歳で名前はルーナ。
そして、一番小さい男の子が5歳で名前がテオだと言う。
食事が終わり、三人とレノンさんで同部屋。
そして、まさかのローレンス様と私が一緒になった。
レノンさんに、代わってもらうようにお願いしたのだが。
「アレンさん。
護衛の貴方が、ローレンス様から離れてどうしますか!
それに、ルーナさんだって、知らない男と一緒では、眠れませんよ?
その点、私は湯浴みを許された身。
私の方が安心でしょう」
・・・・・・。
言っている事は分かるのだが、なんだが納得が出来ないのは、私だけだろうか・・・。
レノンさんは、そう言い切りローレンス様の湯浴みを終えてから、退室して行ったのであった。




