SNS対策
名声とは、得るよりも守るほうが難しい。
とくに、SNSという“誰でも石を投げられる広場”では、
一つの噂が、瞬く間に人の人生を揺さぶる。
杜氏俊と涼香──
秋田での研究構想が進み、
二人の名前は世間一般でも知られるようになっていた。
しかし、名声が高まるほど、
それを妬む者も増えていく。
ここでは、
SNSに突如現れた「元妻」を名乗る人物による誹謗中傷と、
それに対抗する“財閥のネット戦術”を描く。
ある日の午後、五菱+安倍の開発公式チャンネルの広報担当が、
俊に一本の連絡を入れた。
「……SNSで、少し厄介なスレッドが立ちました」
俊は眉をひそめた。
「またか……?」
広報担当は苦い顔で頷いた。
「“杜氏俊の元妻”を名乗る人物が、
あなたの名声を否定する投稿をしています」
俊はスマホを受け取り、画面を見た。
そこには、
毒のような文章が並んでいた。
◆「元妻」を名乗るスレッドの内容
いまの俊の成功は、財閥の娘と結婚した“コネ”の産物にすぎない。
かつての俊は、五菱電気が総力を挙げて支援した開発さえ失敗させた無能力者。
現在の妻は“欠陥品”。
俊はその弱みにつけ込んで口説き落としたに違いない。
そして財閥の力で名声を得たのだ。
俊は、画面を見つめたまま動かなかった。
胸の奥が、
冷たい手で掴まれたように痛んだ。
(……涼香のことまで……)
怒りよりも、
悲しみが先に来た。
◆反論の声
しかし、スレッドにはすぐに反論がついた。
二人をよく知る者だが、馴れ初めは逆だ。
小瀬川家のほうが俊を気に入り、
合コンまで用意してアプローチした。
涼香さんは“欠陥品”どころか、
俊が献身的に支えている素晴らしい女性だ。
さらに、
五菱+安倍の開発公式チャンネルが声明を出した。
杜氏俊は、涼香夫人の病状を理解し、
その生活を支えるために研究を続けてきた。
二人の関係は、互いの尊敬と献身によって成り立っている。
しかし──
反論が出ても、炎上は止まらなかった。
妬み、嫉み、反発。
匿名の悪意は、火に油を注ぐように増えていく。
◆財閥のネット対策業者の“逆張り戦術”
そのとき、安倍コンツェルンが抱えるネット対策業者が動いた。
彼らが取った手法は、
一見すると奇妙だった。
ネガティブなスレッドに、
あえて賛同するふりをして罵詈雑言を重ねていく。
しかも──
その文面は、
常識では考えられないほど下品で、
偏見に満ち、
論理が破綻していた。
「杜氏俊は宇宙人に洗脳されてる」
「涼香は妖怪。人間じゃない」
「財閥は日本を乗っ取る気だ」
「秋田県民は全員陰謀論者」
捨てアカウントから、
次々と“狂気じみた賛同”が投稿されていく。
すると──
不思議なことが起きた。
スレッドの空気が、
急速に冷めていったのだ。
「いや、さすがにこれは……」
「ここまで言うと逆に引く」
「このスレ、変な人ばっかりになってきたな」
人は、
中立を装った主張には騙されることがあるが、
あまりにラジカルでヒステリックな言説には忌避感を覚える。
その結果──
俊叩きのスレッドは、
数日で自然消滅した。
◆俊の心境
俊は、対策業者の報告を聞きながら、
複雑な気持ちになっていた。
「……こんな方法があるんですね」
「ええ。
“過激派が味方につくと、一般人は離れる”という心理を利用した手法です」
俊はスマホを見つめた。
(涼香を傷つける言葉は、もう見たくない)
その思いが、
胸の奥で静かに燃えていた。
SNSは便利だが、
その匿名性は時に人の心を蝕む。
名声が高まれば、
必ず妬みや嫉みが生まれる。
しかし、今回の出来事は、
杜氏俊と涼香の絆を揺るがすことはなかった。
むしろ、
彼らを支える人々──
小瀬川家、五菱、安倍、そして秋田の仲間たち──
その存在の大きさを再確認する出来事となった。
次の章では、
SNS騒動の余波と、
涼香の体調、
そして俊が抱き始めた“秋田での未来”について描いていく。




