新幹線が変形するロボット作品
涼香が好きだと俊が思い込んでいた漫画──
新幹線が変形してロボットになる、あの作品。
第1話の合コンで、女子メンバーがそのファンだと語っていたのは、
俊にとってはただの偶然に思えた。
しかし、SNS騒動が落ち着いた頃、
俊はふとした違和感に気づく。
「あの合コン……本当に偶然だったのか?」
その疑問は、
小瀬川家の“影”へと繋がっていく。
SNS騒動が沈静化したある日の午後。
俊は、五菱のラウンジでコーヒーを飲みながら、
幹事だった佐藤を呼び出した。
「ところでさ、佐藤。
小瀬川家で“合コンをお膳立てした”って、どういう意味かな?」
佐藤は一瞬、目を泳がせた。
俊はその反応を見逃さなかった。
「いや、先輩……僕は何もしてませんよ。
ただ、先方から“落ち着いた大人を一人入れてほしい”って頼まれただけで」
「ふ〜ん」
俊はコーヒーを置き、
佐藤の顔をじっと見つめた。
「でもさ、あの合コン……妙に出来すぎてなかったか?」
佐藤は苦笑した。
「出来すぎって……何がです?」
俊は指を折りながら言った。
「まず、女子メンバーが全員“あの漫画”のファンだった。
涼香が好きだって言ってた、新幹線が変形するロボットのやつ」
佐藤は「ああ」と頷いた。
「それから、席順。
俺と涼香が自然に向い合せになるように、
最初から配置されてたよな?」
佐藤は肩をすくめた。
「まあ……そうですね」
「さらに、あの時の店。
小瀬川家のグループ企業が経営してる店だった」
佐藤はついに観念したように、
深く息を吐いた。
「……先輩。
あれ、全部“向こうの指示”ですよ」
俊は眉をひそめた。
「向こうって……小瀬川家?」
「ええ。
特に……お祖母様。
“俊くんを一度見てみたい”って言ってたらしいです」
俊は言葉を失った。
佐藤は続けた。
「女子メンバーのうち数名は、
小瀬川家の関係者でした。
“涼香さんと俊先輩を自然に引き合わせる”って目的で
合コンを組んだんです」
俊は椅子にもたれ、
天井を見上げた。
(……全部、仕組まれてたのか)
しかし、次の瞬間、
ふっと笑ってしまった。
「まあ……結果的には、ありがたかったけどな」
佐藤も笑った。
「ですよね。
あの時の俊先輩、めちゃくちゃ楽しそうでしたし」
俊は照れくさそうに頬をかいた。
「涼香が“こまちが変形するロボットが好き”って言った時、
なんか……嬉しかったんだよな」
佐藤はニヤニヤしながら言った。
「それ、先輩が好きなだけじゃないですか?」
俊は苦笑した。
「かもしれん」
しかし、心の奥では──
涼香と出会ったあの日の“仕組まれた偶然”に、
静かに感謝していた。
◆☆☆☆ 東京駅 ☆☆☆
体調の回復を確認して、
秋田へ向かうのは新幹線こまちを使うことにした。
ホームに降り立つと、
涼香はE6系こまちの真っ赤な先頭車の傍で、
まるで子どものように上機嫌だった。
新幹線を選んだ理由は、
飛行機に比べて前後の行程が楽なこと、
そして容体が急変した場合に途中下車が可能な点も大きかった。
だが──
俊はもう一つ、
大切な理由を胸に秘めていた。
涼香が“新幹線が変形するアニメ”のファンであることを、
改めて思い出したからだ。
「どうして、そんなにあの作品が好きなんだ?」
俊が尋ねると、
涼香は少し照れたように笑った。
「え?どうしてでしょう。
私、身体がこんなんだから……
昔から変身したり、変形したりする作品が好きなのかも??」
涼香自身も、
うまく言語化は出来ないらしい。
だが、ポケモンよりも変身・変形ものの作品が好きなのは確かだった。
「じゃ、トランスフォームする洋画は?」
「恥ずかしいんですけど……大型トラックのファンです」
俊は思わず吹き出した。
「なるほどな。
じゃあ、俺も今度一緒に観るか」
二人に、
新しい共通の話題が出来たようだった。
ホームに流れる発車メロディ。
こまちの赤い車体に反射する朝の光。
そのすべてが、
二人の未来を静かに照らしているように見えた。
今度の秋田行は、
もしかすると永住を視野にしなければならないかもしれない。
しかし──
その切迫感は、
どこかに霧散してしまっていた。
こまちの車体に触れながら笑う涼香を見ていると、
俊はただ、
「この人を守りたい」
という思いだけを強く感じていた。
人の縁というものは、
時に誰かの意図によって静かに結ばれる。
俊と涼香の出会いは、
偶然ではなく、
小瀬川家が丹念に敷いた“舞台”の上で始まったものだった。
しかし、どれほど周囲が仕組んだとしても、
二人が惹かれ合った瞬間だけは、
誰にも演出できない。




