バックアップセンター 天災が少ない事だけは自慢
秋田の未来は、過去の境界線と、今の選択の上に立っている。
民間企業による巨大データセンター構想が頓挫した直後、
五菱と安倍グループに“東北の新たな拠点”としての打診が舞い込む。
そこへ参画を希望したのは、東北の巨人──南部敏行。
陸奥と羽陰。
戊辰戦争以来の“境界の記憶”は、今も東北の人々の心に残る。
俊はその記憶を懸念するが、
南部が語ったのは、過去ではなく未来を見据えた言葉だった。
秋田市での会議が終わった日の夕方、
俊は安倍グループの会議室で、南部敏行と向かい合っていた。
民間企業が進めていた秋田県での巨大データセンター構想は、
つい先週、正式に“白紙撤回”となった。
理由は表向きには「採算性の再検討」だったが、
実際にはもっと深刻だった。
・公的助成金ありきの計画で、国の審査で不適切な算定が露呈
・10年後に追加の税金投入が不可避と試算され、県議会が難色
・地元自治体が“雇用創出数の水増し”を指摘
・電力会社との契約が不透明で、再エネ比率の虚偽申請疑惑が浮上
俊は資料を見ながら、思わずため息をついた。
「……これでは、頓挫して当然ですね」
南部は静かに頷いた。
「だからこそ、五菱と安倍に声がかかった。
“本物の国内企業”に任せたいということだろう」
その言葉に、俊は少し複雑な気持ちになった。
「南部さんが参画を希望されるのは、ありがたい話です。
ですが……陸奥としては、本意ではないのでは?
戊辰戦争の記憶は、今も……」
俊はあえて藩名を口にしなかった。
しかし南部は、静かに笑った。
「俊さん。あなたは歴史をよく知っている。
だからこそ、そう思うのでしょう」
南部は窓の外、夕暮れの秋田の街を見つめた。
「確かに、十二所と仙岩峠では、直近でも少し揉め事があった。
境界の土地というのは、いつの時代も難しいものだ」
俊は黙って耳を傾けた。
「だがな──」
南部はゆっくりと俊の方へ向き直った。
「未来を見据えるなら、
陸奥と羽陰の境など、もう関係ないんだよ」
その言葉は、重く、しかし温かかった。
「戊辰の頃のわだかまりを、
そして最近の政治に扇動された小競り合いを、
これからの世代が引きずる必要はない。
むしろ、岩手・青森側から秋田へ協力することで、
東北全体の未来を開けると私は思っている」
俊はその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……南部さんは、十二所のことも仙岩峠のことも、
全部わかった上で、協力を申し出てくださったんですね」
「当然だ。
東北の未来を作るのは、東北の人間だ。
誰かが境界を越えなければ、何も変わらない」
俊は深く頷いた。
「……わかりました。
五菱と安倍、そして南部グループ。
三つの力で、秋田のバックアップセンターを作りましょう」
南部は満足そうに微笑んだ。
「それでいい。
東北は、まだまだ捨てたものじゃない」
俊はその言葉を胸に刻みながら、
新しいプロジェクトの資料を閉じた。
秋田の未来は、
過去の境界線を越えて、静かに動き始めていた。
東北には、境界の記憶がある。
しかし、未来を作るのは、境界を越える者たちだ。
民間データセンター構想の頓挫は、
秋田にとって痛手でありながら、
新しい可能性の扉でもあった。
南部敏行の言葉は、
過去ではなく未来を見据えた東北の姿そのものだ。
次話では、俊と涼香がこの新プロジェクトに
どのように関わっていくのか──
そして柳貞明が語る“東北の医療と未来”を描いていく。




