大切なことなので二度言います 天災が少ない事だけ自慢です
秋田は、天災にぎりぎり免れてきた土地だ。
秋田中部地震と、数年前の大雨による内水氾濫──
それ以外は、奇跡のように静かな大地である。
その静けさの中で、俊と涼香の滞在は、
東北の未来を変える新しい構想へと繋がっていく。
五菱・安倍・南部──
国内の三つの巨大企業が手を組み、
既存の巨大AI企業とは異なる“専門特化型データセンター”を築こうとしていた。
そして、俊と涼香の秋田滞在が、
その構想をさらに一歩進めることになる。
秋田市での会議を終えた俊は、
五菱・安倍・南部の三社連合が進める
“専門特化型データセンター構想”の資料を読み返していた。
巨大AI企業のように
一般ネット民へ生成AIを提供し、
有料課金で収益を上げるモデルでは勝てない──
三社は早々にそう見切っていた。
代わりに彼らが選んだのは、
専門性の高いプロジェクトを早期に実現するための
集合知を取りまとめる機能に特化したデータセンターだった。
通常のインターネット回線に加え、
専用回線を用いたプロジェクト協力者限定の情報アクセス権を付与する仕組み。
その深度化によって、国内の医療機関・研究機関から
膨大なデータを安全に集約することが可能になった。
すでに杜氏メソッドの下、
免疫と生活医学研究のための専用システムは実用化されており、
医療データの解析速度は国内最高レベルに達していた。
さらに、電子デバイス、自動車、船舶用エンジン、ドローンなど、
日本の基幹産業向けの専用システムも稼働を始めていた。
三社連合は、
“技術立国日本の再生”をデータセンターから始める
という壮大な構想を描いていた。
その夜、涼香がふと呟いた。
「秋田って……天災が少ないですよね。
地震も大雨も、ぎりぎりで免れてきた感じがします」
俊は笑った。
「ええ。秋田中部地震と、数年前の内水氾濫くらいです。
それだけは自慢できる土地ですよ」
涼香は窓の外の静かな夜空を見つめた。
「だからこそ、こういう研究施設やデータセンターには向いているのかもしれませんね」
俊は頷いた。
「実は──その話なんですが」
俊は新しい資料を涼香に見せた。
そこには、
秋田県内各所に薬草・機能性食品の研究所を設立する計画が記されていた。
出資者は、
ある漢方薬メーカーと、
秋田に縁のある企業数社。
「秋田の自然を活かして、
免疫に効く薬草や機能性食品を育てる研究所を作るんです。
五菱・安倍・南部のデータセンターと連携して、
生活医学の新しい産業を起こす」
涼香は目を輝かせた。
「……すごい。
秋田の自然が、未来の医療に繋がるんですね」
「ええ。
龍角散が佐竹藩の藩薬から世界へ広がったように、
秋田の土地から“免疫ブランド”を作るんです」
俊の声には、確かな熱があった。
「涼香さんが十二所で言ってくれた
“秋田の未来を一緒に考えたい”という言葉──
あれが、僕の背中を押してくれました」
涼香は少し照れたように笑った。
「私も……秋田の未来を見たいです。
俊さんと一緒に」
二人は静かな秋田の夜景を見ながら、
新しい産業の芽がこの土地から生まれる未来を思い描いた。
秋田は静かな土地だ。
天災に免れ、自然に恵まれ、
人々は穏やかで、誠実で、勤勉だ。
しかし──
秋田の県民性で心配なのは「足引っ張り」だ。
誰か優れた人が活躍しようとすると、
前例を打破して新しい施策を議会で通そうとすると、
必ず反発や揶揄・反対・批判が起きる。
変わらないことを守ろうとする勢力が、
一定数、生まれてしまう。
そのエネルギーを発展に向けて使えば良いのに──
反対ばかりでなく、
「どうしたら懸念を解決できるか」という
建設的な提言をすれば良いのに──
毎日、同じ方々が同じことへ、
すごい熱意で反対しているのを見聞きすると、
どうしてもそう思ってしまう。
だからこそ、俊と涼香のように、
外から来た視点と、内から生まれる情熱が交わることが、
秋田の未来を変える力になるのだろう。
次話では、
新しい研究所構想がどのように形になっていくのか──
そして柳貞明が語る“生活医学の次のステージ”を描いていく。




