涼香の回想 ― 秋田の日々は宝物 ―
後日。
涼香は、秋田での体験入隊の日々を、
まるで宝物を扱うように語ったという。
「初日から、全くストレスを感じなかったんです」
そう言って、涼香は微笑んだ。
「空気が綺麗で、食事が美味しくて……
人が、みんな優しくて。
秋田は、私の身体が“安心していいんだよ”って言ってくれる場所でした」
彼女は、東京での生活を思い返すように、
少しだけ視線を落とした。
「東京は……ずっと警戒していないといけない街です。
すれ違う人、声を上げる人、振り返る人……
その全部を、私は“敵かもしれない”って思ってしまう」
それは、彼女の病の本質だった。
免疫が“敵かもしれない”と誤認して暴走するように、
彼女の心もまた、
“敵かもしれない”と世界を誤認してしまう。
「秋田では、それがなかったんです。
誰も私を傷つけようとしない。
誰も私を値踏みしない。
ただ、そこに居るだけでいいって……
そんな場所、初めてでした」
涼香は、少し照れたように笑った。
「横田一佐も、隊員の皆さんも、
本当に優しくて……
私、あの数日で、人生が変わった気がします」
そして、彼女は静かに言った。
「もし、私の命がまだ続くのだとしたら……
それは、秋田での生活のおかげです。
あの空気と、あの食事と、あの人たちが……
私の身体を、守ってくれたんです」
その言葉は、
聞いた者の胸に深く刺さった。
秋田の空気は、
彼女の免疫を静めた。
秋田の食事は、
彼女の身体を満たした。
秋田の人々は、
彼女の心を守った。
そして――
そのすべてが、
彼女の命を少しだけ延ばした。
涼香は、最後にこう言ったという。
「秋田は、私の“第二の故郷”です。
あの場所で、私は初めて……
生きたいと思えました」




