54.
ピピピ…
前よりも随分静かになったアラームが耳元で囁くように朝を伝える。
肺いっぱいに朝の秋風を吸い込むように私は大きくあくびを一つ。夏に比べて幾分か厚くなった布団がふんわりと膝を擦った。
頭を越えた先においてあるスマホを肘を曲げて私は取る。画面を開くと六時を指す時計と十月二十日という日にち、そしてカレンダーアプリからの通知から「文化祭」と書かれている。
私は柔らかい服の繊維をつまむように撫でた。
歯の奥を引き締め、私は布団を折りたたみながら私の体から剥がした。
カーテンを開くと、よく晴れていて、紺色に染まった薄い雲が水で薄めたみたいな青藍色の上に引き伸ばされている。手の届きそうな下の空はもう水だけで白に近かった。空の下地はこんな色なのか。
しばらく朝の陽にまどろんだ体を溶かしながら目を覚まさせていたが、半分ほど目が開いたところで部屋を出た。軋む古い階段を降りながらリビングへ進む。
「ミサキさん、おはよう。」
寝起きの口の端がくっついた乾いた唇でミサキさんに挨拶をする。
ミサキさんは髪を結びながら、私に「ミクおはよう」と返した。
「お弁当用意しておいたよ、台所に。」
「ありがとうございます」といって私は台所へ進む。そこにはちゃんと包まれた小さなお弁当箱がおいてあった。ついでにその隣には朝ごはんまで用意されている。
私はその朝ごはんを手に取った。
「そうだ、ミクの劇、一時からでしょ?」
私はミサキさんの問いに頷く。細い棚を引いて端を取り出す。
「私は裏方だから出番はないけどね。」
そう言うとミサキさんはふ、と小さく笑って結んでいたゴムをべちっと離した。
「いいの。ミクが頑張ったやつを見たいから。」
私は机にご飯を置いて先に顔を洗ってから身だしなみを整える。
すると先にミサキさんが少しだけ仕事があるようで家を出ていった。
静かになった部屋の中で両手を合わせる。少しだけ冷めた卵焼きはやっぱり私の好きな味だった。




