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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
24/28

23_セーブ&ロード

初めての外出日を終えて目を覚ました時、私は息を飲んでいた。

私が目覚めた場所、それは女子寮の特別室ではなく、ロベリアの屋敷の部屋だった。


「どういうこと……」


見渡すと初めて目を覚ました時と同じ、多くの使用人たちが着替えを手伝い、ぶち抜きの大きな窓の外にはトピアリーが並んでいる。

私が眠っている間に何があったの、いいえ、そもそもどうしてこんな場所にいるのか。

納得できずに沈黙している私へとお目付け役の侍女が唇を開いた。


「本日から学園都市へ向かうこととなりますので、制服をお召しくださいませ」

「本日、から……?」


私は自分の背中を冷たいものが落ちていくのを感じていた。

初めての外出日は6月のイベント、けれど本日から学園に通うのは1年目4月、冒頭のイベント。

時間が戻った? どうして、なんで、そう戸惑う私の前で1度目と同じ会話、同じ流れが行われている。


「まさか、ロードしたの?」


アリアがゲーム開始時にセーブしたデータをロードして、オルフェウスについてしまった悪印象をなかったことにしたのか、と私は馬車の中で口元を覆った。

つまり、アリアがお姉ちゃんの歌を盗作したことも、私にインクをぶちまけたことも無し、完全に新しい4月からのスタートに戻ったんだ。


「こんなの、どうやって攻略しろってのよ……!」


私は膝の上で自分のスカートを握り締めた。

他人に自分のデータを上書き保存される状態なんてどうやって攻略してもアリアの意思で簡単にロードされてまたやり直しになる。

けれど、私はひとつの気付きを思い出した。

クロ―ヴィスの声優は1作目とそれ以降で違う、そしてこの世界は……


「オリジナル、無印のころだ!」


長いシリーズになるゲームにはありがちだけれど、『太陽の詩』も発売当初は便利なシステムが無く、後続の作品で改善されていったパターンだ。

例えば、クイックセーブ&ロードのようにボタンひとつでデータを遡ることはできない。

シーンスキップ機能や既読スキップといった機能も2作目から追加された。

そして、他の後続シリーズにはなかった無印だけのシステムがひとつある。


エンディングがスキップできない。

卒業パーティーのある3月を迎えると強制的にシステムセーブが行われ、どんなエンディングだろうと終了するまではメニュー画面が開けなくなるからデータの上書きやロード、スキップが行えない。

つまり、あの女がどれだけやり直したとしても3月になればそこからのやり直しはできない。

アリアに気付かれないように攻略対象たちとの好感度を調整して3月に入れば、アリアを出し抜くことができる。


その考えが頭に浮かんだとき、私は自分の唇が吊り上がるのが分かっていた。

無論、この世界はゲームじゃない。

原作と違ったイレギュラーが起こることはあり得るけれどアリアが使ったやり直しが私の就寝後に発生してることからいってもクイックセーブ&ロードは使えないということが明白だ。

1作目の頃は1日の終わりにしかメニュー画面が開けなかった不便さを思い出しつつ私は笑みを浮かべていた。


「向こうも同じミスはしないだろうけど、私も本気で攻略してやるわ。 どっちがゲームを攻略しきれるかの勝負ね」


私は馬車を降りて汽車へと乗った。

また最初の時と同じように貴族専用車両の個室、そして今となってはもう見慣れた金色の髪と優しい眼差しの彼へと声をかけた。


「オルフェ」

「ロベリアか、かけるといい」


オルフェウスの表情はやはり初めの頃と同じ。

ロベリア、悪役令嬢、散々彼を困らせてきた幼馴染の傲慢な少女。 扱いに困る、といった空気が漏れている。

けれど私はそれに不満を感じている余裕なんてない。

もうすでに、攻略は開始されているんだから。


「オルフェ、私ね学園に行ったらどうしてもやりたいことがあるの」

「ほお、君がそういったことを話すのは珍しいな。 何かあったのか?」

「少しね。 詳しくは離さないけど……これは私の夢で、何があっても叶えなくっちゃいけないことなの」


一瞬、オルフェウスの表情が真面目なものに変わった。

オルフェウスルート攻略のポイントは彼の夢に肯定的に接すること。

元々詩の才能があったオルフェウスは誰かに打ち明けられない夢を抱えていること、そして周囲から反対されるであろうことの板挟みになって苦しむストーリーになっている。

だから、幼馴染みで婚約者のロベリアが夢を持っていることを知れば関心を向けるに決まっている。


「ロベリア、もしその夢を誰かに反対されたらどうするんだ?」

「そんなの知らないわよ。 私がやりたいと思ったことですもの、私がやりとげなくちゃ誰も叶えてはくれないわ!」

「そう、だな……しかしな、また問題を起こすようなことをするんじゃないぞ、君は10歳の時にも」

「庭の植木をだめにしちゃったのは悪く思ってるわよ!」


はい、ファンディスク「夢みる星のオルゴール」ネタいただきました。

私のやりこんできた知識がロベリアとして生かされている。

正直な話、私がアリアに勝てる要素があるとすればこのやりこみによる知識量だ。

アリアは正規のヒロインだしヒロイン補正で何かと有利になれるパラメータ補助だとかアイテムを使える。 今回のロードにしたってそう。

けれど私には伊達にやりこんできたわけじゃないという自負がある。

ロベリアとしての立場で使えるもの全てを使ってでも、私は全員を攻略して見せる。


トンネルを抜け、真っ白な街並みが見えてくるなか、これから向かう学園を見据えて私は決意を新たにした。

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