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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
22/28

21_借り物の立場

「ロベリア、10年前に君が詩を作っていたのか?」


騒ぎの後、オルフェウスが心配するように私に声をかけてきた。

もちろん、ロベリアが10年前に詩を作っていたなんて設定はゲームの中ではないし、むしろロベリアはゴーストライターの作品を自分のものだと言って提出していたのだから。

どう説明したらいいか、ひとまず私は息を整えてからロベリアの仮面を被った。


「その頃、仲の良かった娘がいてその娘にせがまれたのよ。 曲を作ったから歌詞をつけて、て」

「しかし、なぜ君が作った詩をアリアが知っていたんだ」

「それはその……歌だから、誰かが歌ってるのを聞いたんでしょう?」


言いながら私は目線をさまよわせた。

アリアは「あの動画がアップされたのはそんなに前じゃなかった」と言っていたわけだし、お姉ちゃんが活動を辞めたあとも転載はされ続けた動画を見たということだろう。

心のうちがささくれ立つのを感じながらもそれを表面に出す訳には行かない、そんな葛藤をしているとクローヴィスが私の肩を掴んだ。


「話がある」


真っ直ぐに見下ろしてくる紫の瞳を見上げながら、私は彼に従って中庭へと向かった。

丁寧に手入れをされた並木とベンチが並ぶ中庭でクローヴィスはベンチに座ろうともせず、ただじ、と私を見てくる。

なんで? クローヴィスとの好感度イベントを探っても中庭でのイベントはなかったはずだし、何より好感度があがって見つめてくるなら専用立ち絵に切り替わるからこんな無表情で見下ろされることは無かったはず。

私が沈黙に耐えきれずに唇を開きかけた瞬間、クローヴィスの方からようやく声がかけられた。


「お前は誰だ」


その表情は至って真面目、恋愛イベントでもおどけてる訳でもないのは明白だ。

私は勘違いをしていた。 合理主義のクローヴィスならば幼馴染が別の人間に入れ替わられている、なんて発想はしないと思い込んでいた。

けれど実際にはその反対だ。 合理主義だからこそ、ロベリアに違和感があればクローヴィスは中身が変わっているという可能性を確かめにきたんだ。

私は背筋に冷たいものが流れ落ちていくのを感じた。


「私は……」

「お前はロベリアではない」


自分はロベリアだ、と言いかけた矢先にクローヴィスは言葉を重ねてきた。

ダメだ、口先の嘘は通用しない。 私は震えそうになる手に力を込めていた。


「入学した頃から違和感はあった。 だが確信を持ったのはこの一件でだ。 お前とアリアはこの国とは違う文化に馴染んでいる」


そう、『太陽の国』では動画といえばまだ映画の時代で個人宅にテレビなんてものはない。

それでも会話の中の単語からそこまで推測を固められたクローヴィスに私はやはり言い逃れはできないと唇を噛み、その後にようやく口を開くことが出来た。


「私は……奈々。 ここじゃない国で死んだはずだった。 けど、気が付いたらロベリアになっていて、ロベリアの記憶もあるの」

「前世、というものか。 確か東の国ではそうした信仰もあったな」


流石にこの世界がゲームの中である、ということは言わなかったしクローヴィスも考えなかったみたいだった。

クローヴィスは他人の秘密を言いふらす様なキャラクターではない。 けれど、幼馴染が他人に入れ替わられていることを知った時の反応なんてゲームでは無かったから、どんな行動に出るのか予想がつかず私は冷や汗を浮かべていた。


「別段、このことを吹聴して回るつもりは無い。 しかし、覚えておくといい……お前の今の立場はすべてロベリアのものであるということを」


言われて、私は目を見開いた。

私はアリアに自分とお姉ちゃんの作った作品を奪われて怒ったけれど、今の私の立場そのものがロベリアのものを自分のものだと言い張っている状況じゃないか。

クローヴィスはそれだけを言い切ると関心を失ったように背中を向けて歩き始めていた。

私は足を進められないで、ただ呆然と中庭に立ち尽くした。


「いえ、それだけじゃない……」


クローヴィスは私を前世といって、ロベリアの中に元々あった記憶が蘇ったと思ったみたいだけど、実際にはそうじゃない。

私は日本でごく普通のOLをしていて、『太陽の国』のプレイヤーだったのだから当然ロベリアの前世なんかじゃないし、ロベリアは実在しない存在だ。

なら、私がロベリアになっている今、本物のロベリアはどこにいるの?


そこまで考えついて私は自分の口元に手を当てた。

1番考えられるのはロベリアもアリア同様にプレイヤーキャラになったことで人格が失われた、ということだけれどロベリアは元々プレイヤーキャラではないルートなしのお邪魔キャラだからそれにも違和感はあった。

今はまだ答えを出せるような情報は何も無いだけに私は落ち着かない気持ちを抱えていた。

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