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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
21/28

20_詩の発表5月

日々を過ごしているうちにあっという間に月末はやってくる。

いよいよやって来たこの日に私は少しの緊張感を抱えて教室の自分の席へと向かった。

少し離れた位置にいるクローヴィスへと視線を向けると彼もまた視線だけを私へと向けて、すぐに前へと向き合った。


「それでは今月も詩の発表をしてもらおう。 クローヴィス、今月は君にも発表してもらうからな」

「……」


前回詩の発表をすっぽかしていたことを覚えていた先生から釘をさすように言われているクローヴィスに隣の席のジズ様は苦笑していた。

そして今回も家格に乗っ取り、ジズ様から発表が行われた。


「夜の道、つづく小路にひびく足音。 つないだ手はすでに遠く……」


静かな口調で読み上げられる詩の内容。

額面通りに受け止めるならばこれは夜の詩なのだけれど、私はそうは思っていなかった。

ジズ様は王弟。 それも本来なら今の国王よりも家柄も優れ、王位を継ぐことを期待されていた立場だ。

けれど、ジズ様は兄弟間での王位継承権を巡る争いの中、今の国王の飲み物に入れられた毒を自分で飲み昏倒した。

それ以来体調を崩しやすくなったジズ様は自ら継承権を手放し、それで今はこうやって貴族の子弟たちと一緒に学校に通えている。

だから、彼が語る「夜の道」というのはジズ様自身が今抱えている周囲の期待を裏切ったことへの不安感なのだろう。

私は先月よりは大分リラックスしてジズ様を見つめていた。

彼はそんな悩みなどまるで表情には見せず、詩の発表を終えると一度お辞儀をしてから席へと戻っていった。


ジズ様が席につくとクローヴィスが溜息交じりに立ち上がった。

周囲はあのはじまりの宰相の子孫が詩を読む、ということに固唾を飲んで見守っていた。

けれど、クローヴィス本人はその視線が疎ましいものでしかない、と言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。

そう、私は既に知っているけれど……。


「落ちる水、凍る水、氷となってくだけていく」


……クローヴィスは、詩が下手なのだ。

周囲では動揺がはしり、小声で耳打ちをしているものまで出ている。

オルフェウスやロベリアのような幼馴染、そして親戚でもあるジズ様はクローヴィスが詩を苦手としていることを理解しているだけに何も言わずにいたけれど、周囲は違う。

あの月の詩を作った宰相の子孫がこんなに下手なはずがない、手を抜いているのだろう――そうやって決め付ける視線にクローヴィスは何も言わず、ただ席へ戻っていった。

そしてオルフェウスが席を立つとそのざわめきは落ち着いていった。

オルフェウスがごく当たり前のように丁寧に読み上げていく詩の内容に他の生徒たちはすぐに夢中になって、さっきまでの小声での悪態など綺麗さっぱり消えてしまった。

今回はクローヴィスによる中断もなく授業が続いていき、リーメイも今回はきちんとこちらの様式にあわせて詩を読んでいた。

そして、いよいよ私の番だ。


一度、深呼吸をしてから私は立ち上がった。

しっかりと教室の床板を踏みしめて教卓の前に立つと瞬きをしてから真っ直ぐに前を見据えて、私は唇を開いた。


「屋上にきみはいない もういない

 過ぎ去った季節は遠い青

 あたしはひとりだ

 本当は気づいていたんだ きみだって

 あたしのとなりに

 いやしないってことを」


懐かしい。 10年も前に書いた詩だ。

それに第一、お姉ちゃんの歌に合わせるために作った詩だから、ロベリアのような貴族の娘が読むには違和感だってある。

けれど私はお姉ちゃんと一緒になって朝まで動画を編集していたときのことを思い出しながら詩を読んでいった。

けれど、サビにさしかかる手前で強くテーブルを叩いて、アリアが席をたった。


「それは、あたしの詩よ!」


アリアが突き出したのは詩の提出用紙だった。

この間はお姉ちゃんの曲を演奏していたけれど歌詞の方は今日提出するつもりだったのか、と私は眉をよせた。

先生は急いで手伝いの上級生に私とアリアの提出用紙を確認するよう告げ、そして上級生たちは口元に手をあてて驚いた顔をしていた。


「まったく同じです」

「間の取り方も言葉選びも、2人とも同じです」


教室はさっきの比ではないくらいにざわめきで包み込まれた。

ロベリアかアリア、どちらかが盗作したことに間違いはない。

けれどアリアはすぐに私の方を指さした。


「ロベリアさんが私の詩を盗んだんです!」

「ちょっと! 言うにことかいて何を言ってるの!」

「卑しい平民の詩をロベリア様が盗むなんてありえないわ!」


すぐにイライザとスザンナが非難の声をあげた。

この2人はゲーム本編でもそうだったけれど、とにかくロベリアに対して絶対的な信頼を示している。

実際周囲の反応も侯爵令嬢であるロベリアがわざわざアリアの詩を盗作するとは思えない、といった空気だった。

するとアリアは今度は泣き落しのように両手で自分の顔を覆った。

この女、同性に嫌われるタイプだろうな、と私は考えていた。


「私の詩です……この詩は、本当は歌なんです」

「そうだろうな、この詩はロベリアが10年前に作ったものだ」


突如、それまで沈黙を貫いていたクローヴィスが立ち上がり、私の隣へと歩いてきた。

彼は冷ややかな紫色の瞳をすがめると、泣き落しにうつっているアリアを見据えた。

ああ、そういえば感情を理解しかねているクローヴィスは泣き落しなどの感情に訴えて相手を黙らせる行動をすると好感度が下がるキャラだった。


「10年前……そんなはず、だって、あの動画がアップされたの、そんなに前じゃなかったもん」

「ほお? 自分が作ったものではなかったのか」


思わず、アリアは口を滑らせていた。

それを見逃すはずもなくクローヴィスは即座に指摘した。

動画やアップ、なんてクローヴィス本人にさえわからないだろう言葉だけれど、「された」という受動態を作者本人が使うことにある違和感を彼は見逃さなかった。

教室の中はもはやアリアがロベリアの詩を盗作した上に濡れ衣を着せようとした、という騒ぎでもちきりだった。


「落ち着きなさい、とにかく、アリア。 君の詩は後日改めて提出してもらうよ」

「そんな……違います! これは私の詩だもの」


アリアはまだ諦めていないかのように叫んでいたがもはや周囲の空気も先生の判断も変わることはなかった。

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