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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
20/28

19_私の詩

『奈々、ちょっとこの曲聞いてよ! 今度のは絶対最高だから!』

『お姉ちゃんいつもそれだよねー、あたしこの間の歌結構好きだったんだけど』

『今度のはね、あんたに歌詞をつけて欲しいの!』

『ええっ、あたしやったことないよ、曲も作れないのにムリだって!』

『無理じゃない! やるの! やる!』


『奈々、お姉ちゃん……もう曲作るの疲れちゃったや』


寮の特別室のベッドに横たわったまま、私は涙を流していた。

久しぶりに元いた世界の夢を見ていた。

あちらの世界では私はどうなったんだろう、結局死んでしまったのだろうか。

ぼんやりとしながら顔を上げて私は自分の頬を軽く手のひらで打った。

詩の発表は5月末の授業だからまだしばらくの間がある。

この間にしっかりと当時の詩を書いて、読む練習をしておこう。

4月の発表の時は初めてのことに照れてしまって自分でも上手く読めたかは思い出せないけれど……とそこまで思い出して、私はハッとした。

アリアも、ゲームとは違う詩を読んでいた。

もしかしてあの女、4月の発表でも別の誰かの作品を自分の詩として発表してたんじゃないか、と考えると私はやるせなさに拳を握りしめていた。

真実は分からない。

もしかしたら、ピアノの演奏のようにアリア本人の技術なのかもしれないけれど、自分が作ったのだといって姉の曲を奪ったあの女のことを私は好意的に解釈することができなくなっていた。

今まではまだ腹のたつ女、くらいにしか思ってなかったけど今の私は彼女を憎んでいる。

10年前、姉が懸命に作っていた姿も傷つく姿も見てきたからこそ私はアリアを許さない。


ノートに詩を書いて、改めて見つめる。

少し恥ずかしいくらいに真っ直ぐな恋の歌だった。

当時はそういう歌が流行ってたし、お姉ちゃんも私も乙女ゲームが好きだったから自然とそういう歌になっていたんだろう。

メロディを覚えてるから歌うこともできるけど、今歌ったらきっとアリアの歌に感化されたなんて思われかねないから私は歌うことはしなかった。


「昨日、途中で走っていっただろう。 大丈夫だったか?」


授業の始まる前に、オルフェウスが私に声をかけていた。

そういえば彼はアリアの演奏にどんな詩をつけていたのだろう。

あの時は姉の曲を奪われたことに夢中で聞けなかったけれど、せっかくの彼の新規ボイスだったのだから少し惜しく思えた。


「ええと、ちょっと人酔いして……」

「人酔い? お前が?」

「あー……」

「ロベリア、具合が悪かったなら言ってくれ。 ……いや、気付けなかった俺の落ち度か。 すまない」


オルフェウスは至って真剣な顔をして私に謝ってきたので、私は思わず慌てて顔の前で手を振った。

オルフェウスが悪いわけじゃない。

それに、詩を披露している最中に突然ロベリアを追いかけたりしたら周りは騒然としかねなかったのだから彼が動かなかったおかげで私はいま、アリアへ復讐するための作戦を実行できるのだ。


「オルフェ、あなたが謝ることなんてないわ。 それより、その、あなたの詩をちゃんと聞けなかったのが心残りで……良かったら、今度聞かせてくれない?」

「それは構わないが……本当に大丈夫か? 具合が悪いなら保健室に付き添うが」

「大丈夫よ、ほんと! お祭りで浮かれちゃって、少し酔っただけだったの」


オルフェウスはまだ何かを言いたげではあったけれど、それ以上追求して私を逆に傷付けることを避けたのか静かに息を着いた。

教室に入るとアリアの席の周囲には数人の生徒が集まっていた。

フラワーフェスティバルの間に仲良くなった子がいたのだろうか、なんて考えてみたけれどアリアを見てるとイライラしてきそうで、私はオルフェウスの腕を掴み、教室の前の方の席に向かった。


「オルフェ、今日の授業の予習してきてるでしょ? 少し教えて欲しいことがあるの」

「構わないが……珍しいな、ロベリアが歴史に興味を持つなんて」

「いいでしょ、たまには。 教科書を読んでて疑問に思ったんだけど」


私はそんなことを話しながらごく普通の学生のようにオルフェウスと隣合って座り、彼のノートを覗き込むようにしながら肩を寄せて話をしていた。

その後ろから、アリアが冷たい目で私を見下ろしていることに気付きもせずに。

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