17_後夜祭
お祭りの後というのはいつだって寂しいものなのだけれど、今日だけはまだお祝いムードが続いている。
中庭に運び込まれたオルガンで女の子たちがピアノを弾いて、男の子たちはその伴奏に合わせて即興で女の子に詩を送る。
上手くできる子は少なくて、ほとんどの男子はハミングで誤魔化したりしているけれどそれだって誰も茶化さない。
屋台で売られていたお菓子をテーブルにおいてそれぞれがお喋りに興じていた。
「ロベリア様は演奏はなさらないんですか?」
「私、ピアノは苦手なの」
これは本当。
音楽が好きで自分で作曲までしてた姉とは違って私は音楽は聞くのが専門。
歌ったりくらいならできても、それだって本格的に歌うことは出来ない。
「残念だな、ロベリアの曲なら俺が詩を送れたんだが」
「は、オルフェウス。 お前はいつでも勝手に詩を読んでるだろうが」
お祭りの場というのに相変わらず喧嘩腰のクローヴィス、そしてオルフェウスは呆れたように肩を竦めている。
この2人はいつだってこんな具合だ。
「ねえ、貴方はなにか弾けないの?」
「よしなさいよ、平民なんかに音楽の教養なんてあるわけないでしょ」
からかうように金組の少女たちがアリアに声をかけているのが見えた。
確か、原作では強引にオルガンの前に引きずり出されたアリアが演奏ができないことでからかわれ、なんとか演奏しはじめてもからかいの言葉が投げられて泣き出してしまうんだけれど、さてゲーム通りにあの女が動くのか、と私が見ているとアリアは不敵な笑みを浮かべた。
「演奏すればいいんですね? 私の作った曲でよければ演奏します」
そういうとアリアは堂々とオルガンの前へと向かっていった。
あの子、作曲なんてできるのか、と私が驚いているとアリアはオルフェウスへと視線を向けた。
「オルフェウス様、どうか詩を付けてはいただけませんか!」
指名をされてオルフェウスは驚きつつも、彼女に恥をかかせては行けないと判断したのか椅子から立ち上がり、オルガンの側へと向かっていった。
別段、私は詩を付けることそのものは気にしないけれどアリアがどんな曲を演奏するのか気になった。
「自作、といっていたが作曲の心得があったのか?」
「はい、お聞かせするには拙い曲ですが」
アリアは少し恥じらうようにしてからオルガンに指を置いた。
その指の動きはごく滑らかで、彼女はアリアとしてではなく本当に音楽をやっていたのだと感じ驚いた。
けれど、その驚きはすぐに私の中で衝撃に変わる。
耳に馴染むメロディ、コード進行、全部がこちらの世界とは違うものだ。
これはJ-popだと感じるよりも、オルフェウスが詩をリズムをとり詩を作ろうとしているのを見るよりも、私は自分の顔が青ざめ、冷たい汗を浮かべていくのを感じていた。
これは、この曲は、私は知ってる。
アリアが自分の曲だと言って演奏してるこの曲は──お姉ちゃんの作った曲だ。
私はもう何もかもが遠のいて感じられた。
自分がロベリアだということも忘れて泣きそうになりながら必死に自分の腕を掴んでいた。
周囲の人間はほとんど皆アリアの演奏に集中していたから、私は人目を避けるようにして中庭を抜けて廊下の方へと走っていった。
お姉ちゃんのあの曲を自分の曲だと言い張って演奏するあの女のオルガンを聞いていたくなかった。
廊下に入ってしまえば私は涙を零しながらそのまま防音の施された音楽室に駆け込もうとして、私は背後から手を掴まれた。
「どうした、ロベリア」
「……クローヴィス」




