16_屋台の賑わい
私はオルフェウスと一緒に並んで屋台のある通りを歩いていた。
オルフェウスがリーメイを見かけたのがこの辺り、ということだったから案内してもらっていたのだが……賑わいがすごすぎて中々先に進めない。
このままではドレスが汚れてしまいそうだし、肝心の花束がしおれてしまいそうで悩んでいた時、オルフェウスが私の手を引いて少し開けている階段の隣の通路へと引っ張ってくれた。
「先程通った時はもう少し賑わいが引いていたんだが……ロベリア、大丈夫か?」
「ええ……でも、このまま進んだら花がしおれそうよね」
「俺が先に見てこようか、リーメイがいたら呼んでくるから」
ちょうどそんな話をしていた時、ふと通路の奥の方で足音が聞こえた。
通路は明り取りの格子がハマっているけれど奥まった方に行くと影が多くて誰がいるかまでは分からなかったけれど、足音の主の方から近寄ってきてくれた。
「ふぁにいちゃついてんだよ、おふたひふぁん」
口に菓子パンをくわえ、右手に串焼きの肉、左手には駄菓子の詰まった瓶やら綿あめやらを手にしたリーメイだった。
そうか。 あの女がリーメイとまだ出会ってないせいで目立つ場所にいなかったのか……私は全身が脱力するのを感じながら呆れたように息を着いた。
「満喫してるわね、リーメイ……」
「お前を探してたんだよ」
「ふぉれ?」
咥えていた菓子パンを飲み込むのに忙しいリーメイを見ながらオルフェウスはぷ、と吹き出して口元に手を添えていた。
「お前、もう少し落ち着いて食べたらどうなんだ? 喉につまるだろう」
「だーいじょうぶ、大丈夫、俺はがんじょ……うぐっ! み、水!」
「言ったそばからか!」
胸をどんどんと叩くリーメイを見て驚いたように駆け寄るオルフェウスを見て、私まで笑いそうになりながらリーメイに近寄っていった。
リーメイはポケットに捩じ込むようにしてた細めの瓶に入ったりんごジュースを飲んで一息を着きながら私とオルフェウスとを見て、オルフェウスにハッとした顔を向けた。
「まさか、俺に花冠を!?」
「それはないから安心しろ、いや、本気でそれはないぞ。
俺じゃなく、ロベリアだ」
「この間寮まで送ってくれたお礼に花束を持ってきたんだけど……オルフェから貰う方が良かったかしら?」
「うぉー! まじで!? 女の子から花束貰うの初めてだわ、嬉しい! あ、オルフェウスからはいらねえから、お前は草でもむしってろ」
「リーメイ!」
「だははは! いやぁーもてちまったわぁ!」
リーメイは照れ隠しのように大きな笑い声をあげると白い花束を黒を基調にした民族衣装の胸元に飾っていた。
その屈託ない様子にこちらまで笑えてきてしまい、私は口元に手を当てて笑い声を上げた。
オルフェウスはそんな私を意外そうにみてから、柔らかく表情を緩めると手を包み込んだ。
「そろそろダンスが始まる時間だ。 リーメイも、食べ物を片付けたら庭の方にこい、こっちのダンスも悪くないぞ」
「おー、考えとくわ。 いやぁ、シャイなもんでねえ」
最後まで明るい調子のリーメイに手を振って別れると、私とオルフェウスは庭へと向かった。
庭には花とリボンが壁伝いに飾られ、中央にはバイオリンやチェロといった弦楽器を中心にした音楽隊がいた。
私とオルフェウスは手を取り合って、笑いながら花びらの中を踊り進んでいく。
踊り、といっても私は社交ダンスと現代ダンスをすこしかじった程度。
『太陽の詩』のこのフラワーフェスティバルに憧れてお姉ちゃんに男役を頼んで練習したことがあった。
けれど、オルフェウスの動きはとても優雅だった。
密着していることにドキドキしているのに、オルフェウスが少し動くだけで次に足を運ぶ方向も、どれだけ足を動かせばいいのかも全部意識せずに分かってしまう。
合わせようとしなくても、無理やり引っ張られることもないのに簡単に体が動いていく。
「すっごい、オルフェのリード……とっても踊りやすいわ」
「いつもと変わらないだろう?」
「ううん、今まで踊った中で1番楽しいわ! すっごく踊りやすい」
リズムやテンポを耳で感じるままに体がくるりくるりと回っていく。
色鮮やかな他の女子のドレスと、降り注ぐ花びら、そしてオルフェウスの優しい緑の眼差し。
世界が私に微笑んでくれているとさえ錯覚する眩しい木漏れ日の下で私は笑っていた。




