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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
14/28

13_詩の作成4月

4月も末に向かうに連れて私たち金組の生徒は初めての詩の提出をまじかにしていた。

ゲームだとロベリアは詩人に金を握らせてゴーストライターにしていたけれど、流石に私はゴーストライターはさせたくない。

他人のものを自分のものとして騙ることは嫌いなのだ。

それにゲーム内で散々攻略対象の詩を読んできたわけだし、下手なりになんとか形になるものを書けるとは思っていた。

詩の提出は授業での音読で行われるから、極論即興でもいいわけだけれど私にそんな高等技術があるはずもなく、図書館へと向かっていた。


「ええと……詩の初心者向けは」

「ロベリア?」


ばったり、本当に意識していなかったオルフェウスと出会って私は目を丸くした。

彼は慌てたように手にしていた本を背後に隠したが、私はその本を知っている。

オルフェウスは高官を輩出する名門の家柄、家族もロベリアもオルフェウスには次の宰相になって欲しいと思っている。

けれど、オルフェウス本人は……子供の頃からずっと詩人に憧れていた。

オルフェウスは自分の夢と家族の夢とを秤にかけて迷いながら、現実と立ち向かわなければいけないことに苦しんでいる。

だから、その手にしてる本が詩人の手紙をまとめたものだということも私は知っている。

だってオルフェウスのルートで彼が読んでるのを見たから。


「詩の発表が近いから勉強に来たのよ、オルフェもでしょう?」


私が話を切り出すとオルフェウスは安心したように息を着いた。


「ああ、そんな所だ。 ロベリアも基本くらいは嗜んでいるんだろ?」

「本当に基本よ、人に聞かせられるものができるか心配だわ」

「ロベリアが? てっきり、できて当然と言うかと……。 ああ、まあお互いに人に見せるのは初めてだからな」


そういうとオルフェウスははにかんだように微笑んだ。

私は本当はお姉ちゃんの歌の歌詞を書いたことはあったけれど、この世界の詩を書くのは事実初めてだった。

それでも自信家のロベリアが「心配だ」なんていうのは幼馴染のオルフェウスからすれば意外だったのか、彼は私の顔を真っ直ぐに見つめてきた。


「ロベリア、良かったら少し外に出て歩きながら話さないか? 君と話したいことがある」

「ええ、構わないわよ」


私はつとめて冷静に返事をしながらも内心では驚いた。

ゲーム内でオルフェウスが私的にロベリアを誘ってるシーンはただの1度もなかったからだ。

ロベリアが強引にオルフェウスを引きずっていくシーンはあっても、オルフェウスはあくまで彼女とは一定の距離を保っていたはずだった。

私は彼に続いて大きな本棚の並ぶ図書館を出ると、階段をおりて一緒に中庭へと向かった。

中庭は暖かく柔らかい日差しが差し込んでいて、室内の暗さになれていた私は少し目を細めながらも、柔らかな芝が青々と茂る中庭へと足を踏み入れた。

金組の塔の中庭は広々していて、石造りの東屋には黄色い薔薇が咲き、小鳥の鳴き声が聞こえていた。

オルフェウスは当然のように私の半歩前を歩いて、足元が濡れていないか、躓くようなものがないかを確かめながら歩いていた。


「ロベリア、君は学校に来てから随分変わったな」

「そ、そう? 前と変わらないわよ」

「そんなことはない。 以前の君なら怒っていたような場面でも最近は我慢しているじゃないか」

「それは……私ももう大人ですもの」

「俺は君の変化を良いものだと思うけれど、それは成長なのかな」


そういうとオルフェウスは静かに私に振り返った。

緑の瞳には躊躇いが揺れている。

オルフェウスはまだ15歳。 大人と子供の狭間。

私の本当の年齢よりも彼もロベリアもずっと幼いことを改めて私は噛み締めた。

けれど、今のロベリアはオルフェウスがなにを隠しているかなんて知るはずがないから、私はわざと彼の望む言葉を口にすることは避けた。


「成長するわよ、嫌でも。 大人になれば貴方は官吏になるんでしょう、それに私とも結婚するわ、変わらないはずがないのよ」

「……ああ、分かってる。君と人生を共に歩くのだから、俺はその責任を軽く見てはいない」


この国では基本的に女性は仕事に付けない。

仮に着くとすれば王族の女性の女官に入るだとか、他の貴族の夫人に行儀見習いとしてメイドにつくだとかそんな程度だ。

だから伴侶となる男には生涯を通して妻の生活を保証する義務がある。

もちろん女の側にも持参金とか手持ちの財産はあるのだけれど、それでも基本的な生活は相手の男次第である以上、名門の家柄や栄達の道を捨てて詩人になることは妻への裏切りにもなるのだ。

オルフェウスはロベリアを愛していなくても、婚約者として彼女を守るため自分の夢を捨てる気でいる。


「ロベリア、俺は君のことをとても見直しているんだ。 子供の頃、君が俺の女王のようだと喧嘩をしたのを覚えてるかい?」

「ええ、4歳の時よね、貴方の子馬に乗せてくれなくて喧嘩になったの」


ドラマCD3巻のエピソード2に収録されてる「牧場の太陽」で聞いたから私も覚えてる。


「けれど、今の君は自分自身の女王だ。 自分を律して、貴族としてなすべきことをしている。 君を見ていると……俺もまた貴族としての役目を果たすべきだと考えさせられる」


オルフェウスはそういうと少し寂しげな笑顔を浮かべてロベリアを見つめてきた。

夢を諦めて、ロベリアと結婚して、平凡な貴族として生涯を過ごす……そんな決意がオルフェウスの中で固まりつつあるのだろう。

けれど、私はオルフェウスに詩人の夢を諦めて欲しいとは思わない。

それに……これは新規シナリオ逆ハールート(予定)なんだから、従来シナリオの現実か夢かなんて悩みと違う方向を出して欲しい!


「オルフェ、貴方ならどんなことだってできるわよ。 だって、オルフェは……あたしの婚約者なんですもの」


ロベリアらしく、あたしがいるから、と大上段に言い切るとオルフェウスは思わず笑ってしまっていた。

その笑みに暗い影はなく、ロベリアらしい、と呟きながらオルフェウスは軽く私の瞳を見つめた。


「本当に、君は素敵なレディになったんだ。 俺も君につり合う紳士にならないとな」

「当然よ、だってあたしの隣を歩くのがみすぼらしい男じゃ話にならないもの」

「ロベリア……そうだ、詩の題材はそれにしたらどうだ?」

「え?」

「美しく教養のある娘に恋するみすぼらしい男の愛の詩だよ」

「やだ、そんなのロマンスにもならないじゃない」

「それをできるのが詩の世界だ。 俺も手伝うからやってみないか?」


オルフェウスが励ましてくれた言葉に苦笑をしながら私は承諾をした。

テーブルに紙を置いていくつかの案を書き連ねてイメージを固める。 大事なのはワードの選び方と音というのは作詞と同じらしい。

オルフェウスが基本的な文法を教えてくれるから思ったよりも早くできていく詩を手にしながら私は少し嬉しい気持ちでいた。


「ロベリア………ありがとう」

「え、なんでお礼をいうのよ」

「君が初めて作る詩に俺がいる。 その事実がなんだかとても嬉しいんだ」


はにかむように囁かれた言葉に私まで顔が赤くなるのが分かる。

優しい眼差しと、柔らかく微笑む表情。

オルフェウスが私だけを見つめてくれている嬉しさがたまらなくて、私は高鳴る心臓を止められずにいた。


「詩は世界だ。 かつて始まりの宰相は月を詩ってこの国を描いた、それが彼の世界。 そしていま、ロベリアが書いた世界には俺がいる」


オルフェウスはそう告げながら私の手の甲に手を重ねてきた。

大きな固い手。 暖かくて力強いその手の感触に、私は自分がドキドキしているのを感じ取られる気がして思わず息を止めていた。

間近に見るオルフェウスは美しい金色の髪が太陽で柔らかく輝いていて、温かみのある優しい香りがした。

このまま、キスを? いや、キスイベントは最終シーンまでなかったはず、ああでも、ロベリアは婚約者なんだから……そんな事を考えているとオルフェウスは耳元に唇を寄せてきた。


「俺は必ず、君にふさわしくなる」


どきりと心臓が止まるかと思った。

もうこれ以上ときめいてしまったら、私はなにを口走るか分からない。 真っ赤な顔をして私は紙を掴むとそのまま大急ぎで帰っていった。

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