14_詩の提出4月
4月最後の授業の時間、私達は来月のフラワーフェスティバルの話を聞かされながらも初めての詩の発表に浮かれている暇もなかった。
フラワーフェスティバルには女子男子に別れてのダンスパーティーがあるとか、そういう諸々よりもそれぞれが緊張感に苛まれていたのだ。
特に女子は家庭教育で育つことが多い貴族の娘らしく、人前で話すのはこれが初めてという子も多くて、イライザとスザンナは互いを励ましあっていた。
私もこんなふうに何かを発表するなんて高校時代が最後で自然と震えそうになる手をきゅ、と握りしめていた。
「それじゃあ名簿順に発表していくことになるから、女子の1番はロベリアがお願いね」
「へぇっ!?」
上級生から指されて私は思わず上擦った声をあげてしまった。
そうだった、男子はジズ様から開始でリーメイが最後。
ゲームではロベリアやイライザたちの番は軽く流されていたけれど、家格ごとの発表になるなら当然女子の最初は私だ。
まだ本当にトップバッターじゃないだけ救いはあるけれど、緊張感はどんどん増していく。
最初に教団の前で詩を読むことになったジズ様も少し落ち着きなく視線をさ迷わせていた。
「あ……」
「?」
けれど、私と視線が合うとジズ様は軽く微笑んでから唇を開いて詩を読み始めた。
それは朝の風景の詩。 何気ない日々の中で見落としてしまうような風と小鳥たちのことを描いた詩でジズ様の穏やかな性格を表していた。
「はい、さすがはジズ様ですね……それでは、次はクローヴィス」
先生が穏やかに頷くと次の生徒を指名したが、補助役の上級生は暗い顔をして先生に耳打ちをしていた。
そう、クローヴィスは最初の詩の提出をしなかった。
最悪の場合には金組を追放され赤組に編入され直す可能性さえある暴挙に教室がザワつく中、私は静かにクローヴィスの横顔を覗き見た。
いつもと何も変わらない、そう言わんばかりの冷めた表情。
瞳は前を向いているけれど青ざめている先生にもまるで関心を向けていない。
先生はなにかを悩んでいたようだけれど、ため息を着くとオルフェウスに視線を向けた。
「クローヴィスは具合が優れないらしい。 悪いが、次のオルフェウスから読んでもらえるか?」
オルフェウスもまたクローヴィスの顔を見ていたけれど、先生からの指示を受けると静かに頷き何も言わないままに教卓の前へへと移動していった。
オルフェウスの詩は月と星の詩だった。 穏やかな口調で夜の空に物語が浮かび上がる様子を語るその表情はとてもリラックスしていて、教室全体の強ばった雰囲気そのものがかなり緩和されていった。
そして次の生徒に引き継がれると授業は順調に進んだ。
が、リーメイの番になった時のことだ。
「我不知不見……」
「ま、待ちなさい、リーメイ。 こちらの言葉じゃないじゃないか」
「えっこっちの言葉じゃねえとダメなの!?」
「当たり前だろう……ああもう、後で詩を翻訳してくれ、このままじゃ私も評価ができんじゃないか」
先生の困ったような声とリーメイの頭をかく様子がなんとも面白くて教室全体に笑いが起きた。
同じ平民出身でも気の弱い原作のアリアとは真逆に朗らかなリーメイはこうやって周囲を巻き込んでしまう。
けれど私は笑ってもいられなかった。
「それじゃあ、次はロベリア」
「はい」
リーメイの次は私の番。
ドキドキと緊張しながら教卓の前につくと、イライザとスザンナの双子がまるで我がことのように手を握りしめて応援してくれてるのが見えた。
オルフェウスに視線をやると、彼もまたゆっくり頷いて、私の発言を待っていた。
「ひたひたと、ひたひたと私は歩く。 あなたの隣を。
歩幅があんまり違うから ひたひたと、ひたひたと、私はあなたにとりのこされる。
見つめる先にあなたはいるのに、私ばかりがひとりきり。
ひたひたと、ひたひたと私は歩く。 あなたの側を。
声をかけられれば良いのだけれど 勇気が出ないから
ひたひたと、ひたひたと、ただ歩くのだ」
読み上げているうちに羞恥心で顔が赤くなっていくのが感じられた。
大丈夫だろうか、噛まなかったかな、変なこと言わなかったろうか、私はドキドキして教室の中を見た。
笑いはこみあげなかった。
先生が次の生徒を指すのを聞いて私は息をついて席に戻った。
「とても素敵な詩でしたわ、ロベリア様!」
「恋の詩ですのね、片思いの」
双子の姉妹が熱烈に歓迎してくれるのを受けて、また頬を熱くしながら私は自分の席に着いた。
そのあとは何事もなく授業が進んだのだけれど、最後のアリアの番に彼女はゲームとは違う詩を口にした。
「どうかと私は願う。 海の底から見上げる空は明るいから。
貴方が私に気付かないでと私は祈る。 祈る、祈る、祈る。
どうかそこで笑っていてと、それだけを祈るから」
あの子も自分で詩を作ってきたのか、と少し意外に私は思っていた。
アリアは緊張した様子なんてないかのようににこりとオルフェウスに微笑むと、教室の端にある自分の席へと戻っていった。




