10_授業終了
「おい、あの女はなんだ?」
授業のオリエンテーションが終わり廊下に出るなりクローヴィスが私に声をかけてきた。
おい、だなんて乱暴な呼び方を私はゲームの中でクローヴィスから聞いたことはない。
これもおそらくはロベリアとクローヴィスの幼馴染という関係……それから、クローヴィスが感情的になりやすいロベリアのことを嫌っているのもあるのだろう。
私は軽くため息をついてから振り返った。
本当なら談話室に行きたかったのだけれど、この学園では男女の談話室と寮には異性の立ち入りが禁止されている。
だから少し冷えるけれど石造りの廊下でクローヴィスと立ち話をすることにした。
「ルミナ家の娘よ。 ほら、試験的に金組に入学することになった平民の」
「ルミナ……ああ、あの貿易商の。 かなりのやり手だとは聞いていたが」
その言葉に私は元々の設定を思い出していた。
アリアは豪商の娘。 父は娘に貴族との婚姻を結ばせ商売に箔をつけさせるためにこの金組へと金の力で強引に入学をさせた。
クローヴィスのルートではそれが途中で発覚し、クローヴィスに距離を置かれるのだけれど今は暴露前から距離を取られそうだな、と私は苦笑をうかべた。
「ちょっと距離感がね。 まだ入学したてで舞い上がってるんでしょうけど」
「……意外だな」
「平民の学生がこんなに馴れ馴れしいなんて?」
「違う、お前だ。 お前が平民相手にそうも気を使ってやるなど……熱でもあるのか」
クローヴィスの反応に思わず私は額に手を当てた。
オルフェウスは正統派の王子様、というキャラクターだったせれどクローヴィスはそのライバル。
作中スチルの中で魔王というタイトルを付けられていただけのことはある冷血漢だ。
その相手にまさか熱でもあるのか、と案じられるとは思わなかった。
「大丈夫よ。 クローヴィスに心配されるなんて思わなかったわ」
「私にうつされたくないからな」
「……貴方らしかったわ」
そんな話をしながらため息をつくと、ふと、廊下の向こうにオルフェウスとアリアを見つけた。
おそらくは授業終わりの挨拶イベント狙いなのだろう。
「あの子、本当にオルフェ狙いなのね」
「なに?」
私がほとんど無意識に口にした言葉にクローヴィスまでも背後に振り返ってオルフェウスとアリアとの様子を眺めた。
ゲームのスチルではアリアの姿が描かれることは少ないから、こうやって2人並んでるのを見るのはある意味新鮮だ、なんて考えているとクローヴィスは眉根を寄せていた。
「なんら信念を持たないただの生徒にアレと論議するだけの知性は感じられないがな」
私の狙う、の発言にどうやらクローヴィスはオルフェウスの議論の相手としてアリアが話しかけていると誤解したらしい。
至って真面目な眼差しはすでにオルフェウスにだけむけられていて、私は恋愛感情を理解出来ていない、というクローヴィスのキャラ造形に改めて関心していた。
けれど、まだ油断はできない。
時期は4月。
ここでどれだけ好感度が下がってもこのゲームの好感度マイナスの最低値は決まってる。
そして後は好感度を上げるためのイベントが目白押し……つまり、コツを掴んだアリアがオルフェウスを攻略していく可能性だって考えられる。
「……くだらん、オルフェめ、雑談をしているだけらしい」
「え? 聞こえるの、この距離で」
「唇を読んだ」
「……貴方ってそういう人だったわ」
私は呆れたように呟きながら談話室に戻るためにクローヴィスに背中を向けて歩き出した。




