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ピカレスク・ロマンス  作者: 行雲流水
10/28

09_初めての授業

4月最初の授業はオリエンテーリング。

上級生たちに一年間の過ごし方を教えられながら授業のほかに一ヶ月ごとに詩を提出する必要がある、という説明を受けた。

何しろこの国は月の名前からして詩で作られているくらい詩が意味を持つ国だ。

元々は国の建国に際して詩人であり宰相であった人物が活躍したことに由来するけれど、達人の作った詩は運命さえも変えていく力を持っていると言われる。

しかし――


「詩などとくだらんな」


声をあげた男子生徒は黒色の髪を総髪に垂らしていた。

目元がはっきりとした二重で冷たい紫色の瞳、嘲るように口元に笑みを浮かべていた。


「クローヴィス!」


上級生の声を遮るように声をあげたクローヴィスを咎めるようにオルフェウスが声をあげた。

オルフェウスがクローヴィスを止めたのは何もクローヴィスの態度だけが問題ではなかった。


「お前の家は初代の宰相に繋がる血筋だ、その嫡男のお前が詩を侮辱するなど」

「血など関係あるものか、くだらないものをくだらないと言っているだけだろう。 迷信に縋るよりも近代化を推し進めるのが国のためというものだ」


クローヴィスの発言に周囲の生徒たちはざわめいていた。

いくら国内のエリートたちを集めた金組の生徒といっても国の有り様に口を挟むような革新派の生徒はクローヴィスを除いていなかった。

私はそんなやり取りがゲームそのもの過ぎて半泣きになりながら顔を覆った。

クローヴィスの声優さんは1作目の発売直後に急死してしまって、それ以降は2代目の声優さんが声をあててくださっていたのだけれど、ここでは1作目のあの声で再生されている。

涙を見せるまいと私は詩の教科書を握り締めていた。


「近代化と国の文化を守るのは別の話だろう」

「国の文化そのものが近代化の妨げになっている」


一触即発の空気の中でも私はにやけそうになるのをこらえた。

けれど、このまま授業そのものがぶち壊しにされてはたまったものではなくて、私は咳払いをした。


「オルフェ、クローヴィス。 政治の話なら談話室に戻ってからしなさいよ」

「! すまない、思わず熱くなってしまった」

「……ふん」


オルフェウスは素直に謝ると椅子へと腰を下ろし、クローヴィスは鼻を鳴らして不満げに顔を背けた。

この場ではロベリアをおいてほかにこの二人を止められるはずが無かった。

名門出身の貴族ばかりとはいえ血筋では王族に次ぐクローヴィスと実際に高官を次々に排出して実力で地位を保っている家柄のオルフェウスにこうも馴れ馴れしく割って入れるのは幼馴染という立場があってこそだった。

そこに、唐突に別の生徒が立ち上がった。


「ロベリアさん、言い過ぎじゃないですか! おふたりは国のことを考えているのに」


は、と掠れた息が溢れるのを感じながら私はアリアの席に視線をやった。

完全にまとまった話にまた火種をまくような発言をしたアリアに周囲の生徒までも唖然とした眼差しを向けていた。

当然だけれど、原作のアリアは別に政治の話に首を突っ込んでこない。

まあ、クローヴィスのルートに入るとアイツがすっごい左派なせいで強制的にちょくちょく政治的な話題をぶちこまれはするのだけど、アリアはあくまで政治とは関係ない立場だった。

そしてこのアリアの反応に私以上にはあ?となっているのは誰あろうクローヴィスだった。


「誰かは知らんが、論議に口を挟むな。 お前に話しかけた覚えはない」


そう、クローヴィスは勉学の値が一定の値を上回らないと登場しないキャラ。

つまり、初回授業の今、クローヴィスとアリアは完全員初対面だ。

援護したはずのクローヴィスから正面から水を浴びせられる形になったアリアは真っ赤な顔をしながら俯いて唇を噛んでいた。


プレイした記憶が仇になったな、と私は内心でひとりごちた。

知り合った後のクローヴィスとならば授業中の積極的な発言は寧ろ好感度にプラス判定が入る場合が多い。

一度でもクローヴィスのルートに入った経験があるのならばクローヴィスがいる授業で発言をしたくなる気持ちはわからないではない。

しかし、それにも「知り合ってから」という前提条件があることをアリアは忘れていたのだ。


クローヴィスは既に議論を続ける気分も削がれたのか席につくと、上級生に話を続けるようにと視線を向けていた。

すこしの気まずい沈黙のあと、上級生は一度わざとらしく咳払いをしてから説明の続きを行った。

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