113 剥製
結構ギリギリの帰還となった夏季合宿の後、数時間眠って始業式に出た2人。
宿題は提出したものの、自由研究に困った2人はそれぞれ、奇妙な物を提出してお茶を濁そうとした。
「これは何だ、石田」
「それは、つまり、剥製です」
「ほお、意外と手先が器用なんだな」
「ええ、苦労しました」
「架空の生物の剥製か、また独創性があって良いが、自由研究とは少し方向性が違うな」
「済みません」
「まあ、休み前の成績は良かった事だし、今回は不問としよう」
「ありがとうございます」
策に窮してモンスターの死骸を提出したミツヤ、それに対してコージは。
「それはマグカップと言うか、ジョッキだな」
「大気中の水の分子を固定化するコップです。これを使えば水の無い場所でも水に困りません」
「ううむ、これもまた方向性は違うものの、独創性に溢れておるな」
大した事もやってなかったので仕方なく、水の出る魔導具を出す事になったコージ。
今、水は出るのかとの質問に、ポッチを押して水を出し、ゴクゴクと飲んでみせる。
それで納得した教師は、それは発明品のほうに分類されそうだから、気が向いたら出願してみるのも良いぞとの言で話は終わる。
共にバレたら大変な代物ではあるのだが、想定の斜め上なアイテムだけに、教師はそれぞれ納得したようである。
発表の後はそれぞれ持ち帰り、倉庫の肥やしになったのは言うまでも無い。
「参ったぜ。すっかり自由研究を忘れていてよ」
「オレもだ。だからあんな魔具を出す羽目になっちまった」
「バレたらヤバいぜ」
「お互いにな」
「くっくっくっ」
その日はそれで終わり、家に帰ると佳代さんがぐったりしていた。
どうやら即売会で燃え尽きたらしい。
確かに8月の上旬だったらしいが、終わってからも色々と忙しく動き回り、更には何を間違えたのかファンタジー系のシナリオを書く羽目にもなったとかで、その打ち合わせやら何やらと毎日、あれやこれやと用事が出来、ようやく終わったかと思ったら始業式でもうくたくたらしい。
当分の間は充電時期とかでのんびりするらしいが、またぞろシナリオのほうの仕事があるらしい。
シナリオと言ってもあくまでもマンガのシナリオのようで、斬新な発想は要らないもののリアルな描写が求められていて、門外漢なところもある佳代さんには少しばかり荷が重いようで、どうしてそんな事になったのかを聞いてみた。
「それがさ、先輩のライターさんが急病になってさ、その代役で書いたのが気に入ったと言われてさ」
「それがファンタジーなの? 」
「そうじゃないのよ。アタシの分野でのシナリオなのに、それを見ていたその先輩の友人がさ、ファンタジーもやれそうだとか言い出して、それに先輩が乗っちゃってさ。是非やってみろ、お前なら出来るとか言ってさ、下手に断ると後が大変だから仕方なくなんだけど、モンスターの描写とか言われても、そんなの見た事も無いから分からなくてさ」
「そう言う事ならミツヤの趣味が生きるかもな」
「うえっ、あれを出すのかよ」
「えっ、なんかあんの? 」
「ま、まあ、そのな、出せる物もそりゃ、いくつかはあると思うけどよ」
「見せて見せて」
「準備して来る」
「期待してるわよ」
《ヤバいぜ、コージ……さあ、頑張って剥製にするんだ、クククッ……うぐぐっ》
難題を受けたものの、これも修練と様々な工夫をするミツヤ。
部屋の中に敷物をして解体して中に何かしら詰めていく。
元々、血抜きだけしてボックスに入れておいたので、血の問題は無かったものの、ボックスにゴミを入れる羽目になり、ビニール袋に入ったモンスターの内臓やら骨やらの処分に困る事になる。
それでもそのうちどっかに捨てれば良いと思ったものの、向こうでは気にならなかった手の汚れに困り、ゴム手袋も買おうと思うミツヤだった。
そんなこんなで何とか数体完成し、佳代さんに見せると凄くリアルだと絶賛される。
まあ、本物だし?
早速、デッサンの後にシナリオに取り掛かる佳代さんだが、追加を言われるかも知れないとミツヤは手持ちの死骸の剥製化をやっている。
どうやら本当に趣味になりそうだな。
そんなオレも何か入っていたかなと、【倉庫】の中を色々チェックしていたら、以前まとめて入れた古代竜セットを見つけた。
確かにこれも剥製もどきにならない事もあるまいが、さすがに大きさがでかすぎる。
そうなると雑多な素材を活用してミニクラスにするしかあるまいと、比較的安価な素材を使って【構築】
ううむ、どうにもトカゲだな。
ていうか、放射能を浴びた恐竜のような物が出来上がり、これはさすがに版権に引っかかりそうなのでうっかり表には出せない代物となる。
仕方が無いのでまた別の物を作ろうとアレコレやっているうちに夢中になり、晩飯と言われてハッと気付くと、周囲にミニチュアクラスの様々な
モンスターの模型のようなのが散乱していた。
これまた違うジャンルじゃないのかな。
事ここに至り、そんな事に今更気付いた訳だけど、作った物を捨てるのも何だと、まとめて【倉庫】の肥やしにして飯を食う。
食後にまた株価の様子でも見てこようかと、仕事場に飛んでサイトを見ているうちに、ミニチュアのあれこれ関連のサイトを見つけ、見ているうちに面白そうなのを発見する。
ジオラマである。
あの色々作ったミニチュア模型のようなのを現地の風景もどきの中に置いたら、それはそれで面白そうだと思い付き、株価そっちのけでそれに取り掛かる事になる。
その際に折角だからと冒険者のミニチュアも拵えて戦いの様子を模した感じにしてみたり、馬車を襲っている感じにしてみたりと、様々なシチュエーションでの配置をしていく。
これも朝までやってしまい、どうやらオレの趣味になりそうだと思った。
こうしてミツヤとオレは共に変な趣味を持つ事になり、部活で騒いだ後はそれぞれ家でそれらをやっていく事になる。
ミツヤはミツヤでより迫力のある姿勢になるように調節していき、オレはよりリアルな状況を考えて配置していく。
そんな、誰も知らない趣味になったオレ達だが、意外な事でそれが表に出る事になった。
「魔術研究会の発表会と言われもな」
「あの格好でってのはパスだぜ」
「あれはさすがに、そんな度胸ないよ」
「だったらどうする? 10月までに決めろと言われてんだがよ」
「ならさ、せめてその環境と言うかさ、異世界の風景の絵でも描いてさ」
「絵かぁ、けどオレ、絵心無いからな」
「僕も絵は苦手だよ。前に寅年で寅を描いたら猫だと言われてさ」
「あるある、くっくっくっ。オレも馬を描いたら犬だと言われてよ」
「それはさすがに酷くない? 僕のは同じ猫族だし」
「いーや、似たようなもんだろ」
「どうする? 部長」
「うえっ、どうしようか、コージ」
「えっと、あのな、そのな、異世界の風景っぽいのなら何とかなるかも」
「おおおお、あるなら見せてくれ」
「明日、持って来るからよ」
「絵じゃないのか? 」
「異世界のジオラマだ」
「うおおおお、それいい、決まりだぜ」
「なら、ついでにモンスターの剥製も展示しようか」
「それいい、うんうん、気分出るし」
「いいなそれ、それに向かってサンダーバッシュ」
「おおお、いい、いいぞそれ」
どうにもミツヤのほうはストレス発散のごっこ遊びの標的になりそうで、オレのほうは文化祭の展示物になりそうだ。
それでも用途も特に無かった品々だけに、翌日皆に見せる事になる。
ミツヤのほうはでかい紙包みの中に数体入れて、オレのほうは組み立て式の部品をまとめて、それぞれ早めの登校で
それぞれのボックスから出す。
さすがに持ち運ぶのは嫌だからと。
「何かよぅ、オレの趣味みてぇになっちまってよ」
「それはオレもだ」
「あれから佳代さん、ライターの仕事降ろされたとか言ってさ」
「何でだよ、リアルな剥製で書いてたろ」
「それがさ、そのスケッチを描いているうちに異世界でのアレコレにイマジネーションが沸いたみたいでよ、モンスターの擬人化とか始めてよ、すっかりシナリオが疎かになって、時間が無いから今回は止めておきますねとか言われたらしい」
「やっぱり本職が優先になるんだろうな」
「まあ、佳代さんは物書きじゃなくてマンガ家のほうだしよ」
教室の後ろに置いてある、それぞれ名前の付いた荷物が気になるクラスメイトだが、うっかり手が出せないので興味だけが先行するも、オレ達のグループは後で分かるからとスルーして、2グループだけが興味津々となっていた。
だが、シルフがノーマルになったせいで、それらの動向を監視する必要も出て来た為、今は余計な事はやれないと、我慢する事になる。
そして担任に言われて文化祭の準備だと言った為にひとまず興味のほうは収まったようだ。
「お前ら、やけに早いな。もう準備しているのか」
「ギリギリでバタバタするのも嫌なので、早めにやろうと思いまして」
「そういう所もなかなか良いぞ。他の者達も見習うように」
「「はい」」
どうにも煽りの好きな担任のようで、誰かが何かをするとすぐこうして煽るのである。
だからそのたびに【調整】する必要が出てくる訳で、そんなに生徒の対立を望んでいるのかと思ってしまう今日この頃だ。
だが、もしかするとそれもシナリオの関係かも知れず、あんまり派手にはやれないが、破綻は望むところなので止めるつもり無い。
それでも何とか授業も終わり、それぞれは部室でのお披露目に期待して移動する。
「うおおお、すげぇリアルだぜ」
「早速、ええい、この、えっとこれ、犬か? 」
「グレイウルフだな」
「よっし、なら、グレイウルフ、覚悟しろ、サンダーストライク」
「これ、何だ? 」
「パンサークロウだ」
「死ねぇぇぇ、パンサークロウ、ファイヤークラッシュ」
当時は殺しが嫌だとあれ程に言ってたのに、それが仮想ならこうなのだ。
倒してみたいという希望はあるものの、それがリアルだと尻込みする。
でもあれがもし、飛び道具ならどうだったろう。
血しぶきを間近で見なければどうだったろう。
もしかしたら普通に狩っていた可能性もある。
要は殺しの場面が眼前に無ければ良いだけなのかも知れない。
本当は合宿に全員連れて行きたかった。
だけどかつてあれ程の拒否を示した彼らを連れて行く気にはなれなかった。
だから置いて2人で行ったのだ。
彼らは自分のかつての行いで、5年間の体験が得られなかった事になるが、それは自業自得と思って欲しい。
それはそうと、オレ達は16才だと言い張っているが、オレはともかくミツヤは産まれて26年になるはずだよな。
くれぐれもこのままの精神年齢を維持して欲しいと思うが、果たしてどうなるかだ。
いくら長き年を生きるとしても、精神が老いたらどうしようもない。
老いた精神はそのうち朽ちて、それと共に気力も尽きる。
そうなった時が存在の終わりの時だと、与えられた知識は警鐘を促す。
だから精神は若くあれと、オレの心に訴えるのだ。
それはそうと、オレが組み立てているのに気付いた面々は、ごっこ遊びを止めて見に来る。
「うおおお、これまた派手だぜ」
「冒険者がモンスターを狩ってる場面かよ、すげぇ」
「これいいな」
「ああ、これで決まりだろ」
「文句無しだぜ」
結局、魔術研究会の展示物は、マネキンに着せた魔術師ローブと手に持たせた魔術杖、それにモンスターの剥製にジオラマに決まる。
早い話が全てオレ達2人の手出しであり、あいつらは流されるままに何もせずに終わるらしい。
それならそれで構わんさ。
何事も体験とばかりにやるオレ達と、見ているだけで満足な者達。
その方向性は違っても別に構わない。
人は人、オレ達はオレ達なのだから。




