110 氷水
20年前の詐欺事件の影響か、魔導具販売が許可制になっていた。
しかも性能調査も加わり、高性能な品はオークションに掛けられ、王族が気に入ったら高額で落札するらしい。
なので王都では今、検査の為に集まった魔技崩れの群れで大賑わいとなっており、どうにも表では売れない様子。
それと言うのも検査でも爆発事件が多発して、調査がなかなか進まないらしいのだ。
そんな雑魚魔技はおとなしく魔具でも作っていれば良いものを、どうしても魔導具に走りたいらしい。
そしてオレは王都の外れの安い土地を【暗示】で手に入れ、小さな看板付きの工房を設置する。
後は開発をするだけと……銀板を大量に【構築】し、それに【寒冷】の術式を魔法陣化して刻印していく。
それにもう1枚の銀板を貼り付け、周囲を一体化の【構築】をする。
これで刻印の見えない銀板が出来上がる。
次に筐体も銀の箱型で【構築】し、それがスッポリ収まって余るような丈夫な木箱を【構築】する。
後は下部に燃料たる魔石をつらつらと入れて、上部に銀板を設置して魔石と銀板の接続途中にスイッチを設ける。
さて、ポチッ。
よし、術式にエネルギーが流れて、冷気が発生して銀の箱の中の空気を冷やして……あ、フタ忘れてた。
フタになるような銀の板を【構築】して蝶番も【構築】して繋げて一体化の【構築】
フタと本体が繋がったところで開閉の……あ、漏れる漏れる、冷気が漏れる。
ゴムか、材料が無いぞ。
しゃあないな、アレを流用するか。
夜の小道具を大量に使用してパッキンを【構築】して接着する。
最後に掛け金を【構築】してそれぞれ接着し、フタを閉めて掛け金を掛ける。
はぁぁ、何かもう、【構築】ありきの作成方法になっちまったな。
まあ、試作品だし、これで良いか。
後は箱の中に棚も欲しいし、出来れば温度調節も欲しい。
そういう構想をいくつか練りながら、材料をつらつら出していく。
イメージの形は洗練されていき、試作品とは一線を画した商品が出来上がっていく。
なんせ銀は大量にあるんだし、いくら使ってもそう簡単には無くならない量だ。
大量に使うのは夜の小道具だ。
こりゃいかんな、ゴムを何とかすべきだったな。
けどこの世界でまだ、ゴムノキなんて見た事ないし、それが使われているのも見た事ない。
こりゃ魔族領の特産品も決まったな。
あっちからゴムノキ持って来て植えたら決まりだぞ。
ありゃ戦略物資と言われるようなモノだし、たくさん植えて産業になったらそれだけでやっていけそうなぐらいだぞ。
気候的少し涼しいが、南端ならまだいけるかも知れん。
もっとも、ハウスにでもすればやれそうだし、そこは【対物】を封入した銀板で覆ったハウスにでもして、中を【温暖】で暖めてやればいけそうだ。
上部を透明なモノで覆う必要があるが、【対物】ならそれをクリアしている。
ただ、やはりドラゴン魔石は必要だろうし、それに【注入】する存在も必要になる。
となると守護竜大活躍だな、クククッ。
魔導冷蔵庫を結局は100【構築】し、ひとまずは【倉庫】の中に収めておく。
後は魔導ハウスを造るべく、その部品になるものをそれぞれ【構築】し、現地で組み立てられるようにしておく。
こっちはそう大量には要らないというのに、どうにも調子に乗る癖があるようで、これも100セットになっちまう。
参ったな……大きさ的にはかなりでかくなるハウスなのに、100棟も建てて需要あんのかよ。
あ、試作品忘れてた。
うわ、中につらつらと入れておいたコップの水が凍結している。
フィルターで美味しくなった水を入れたコップを交換しておく。
こりゃ溶けないと飲めないな。
☆
「水~水~美味しくて冷たい水はいかが」
またしても始める水売り屋台。
今度は冷水を売る訳なんだけど、どうにも客が来ない。
よくよく聞いてみると、近くに泉が開発されて、夏でも冷たい水が湧き出るとか。
ううむ、それは何と言うか、ちょっと問題があると言うか。
道理で周囲に病人が多いと思った。
そりゃ冷たければ誰でも飲むだろうけど、それが安全とは限らない。
衛生観念の無いこんな世界で、真夏に生水をゴクゴク飲むとか、向こうじゃちょっとあり得ない話。
そりゃ岩清水のようなのならまだ良いけど、こっちはそんな風土じゃない。
その泉と言うのもホコリっぽい広場のど真ん中にあって、周囲じゃ色々と汚いモノも散乱しているんだ。
大体、馬車の時代で一番汚い落し物って何だか分かるよな。
そんなのが散乱している中の泉の水が清潔とか、誰が思うんだよ。
だからオレは殊更に、魔具で水を作ろうとしてたんだ。
この世界に衛生観念があれば、土地からの水のろ過を考えたよ。
だけど、取り扱う存在にそれが無いからこそ、なるべく清潔になるように水を魔法で作ろうと思ったんだ。
仕方が無いな、売り文句をもっと直接的なものに変えてみるか。
「水~水~美味しくて冷たい氷水~」
いきなり来る客……お、成功したかな。
「おいっ、氷ってどういう意味だ」
「ほらこれ、中に氷があるでしょ」
「うおおお、こりゃあ」
「さあ、飲んでみて」
「お、おお……コクッ……冷てぇぇぇ、すげぇぇ、こりゃ良いぜ」
「おい、オレにも飲ませろ」
「オレにもくれ」
「はいはい、1杯銅貨20枚」
高いと言いながらも、飲んで納得してお代わりを要求する客達。
使用したコップは【清浄】をして水出し魔具からフィルターごしに水を注ぎ、魔導冷蔵庫の試作品の中のコップと交換する。
実は水は半分入れて凍らせておき、後は普通に水を注ぐだけだ。
底に凍った氷がある限り、入れた水は冷たくなる。
そして使用した後で【清浄】をすれば使い回しも可能となり、底の氷が解けて無くなるまで、何度も使用できるという訳だ。
コップと言ってもジョッキクラスのでかいコップなので、氷はそうそう溶けはしない。
10個のコップを使い回し、客にドンドン飲まれていく。
傍らの通貨箱は銅貨が次々に投入され、冷水はドンドン飲まれていく。
なんせ、泉の水より美味いというお墨付きだ。
だってさっきからそう言って客が途切れないんだから。
試作品の魔導冷蔵庫の中にはもっと入るけど、1人じゃ回転率が……こりゃ忙しいな。
さすがに真夏の冷水売りは需要が高いようで、そこらで大汗の奴らが軒並みやって来たもんな。
だが、それだけで終わらないのがこの世界の悲しいところ。
「お前が氷を持っているという知らせが届いた。言え、何処の氷室から盗んだ」
ほら来た、お貴族様の登場だ。
「氷は作っているのですよ」
「ふん、そんなあり得ぬ事。おい、こいつの持ち物を調べろ。何処かに氷があるはずだ」
「「はっ」」
「横暴だぁ【対物】」
「なっ、これは何だ」
「魔技舐めんな。こちとら氷を作る魔導具をやっと開発したってのに、その利権を横取りするつもりか、この腐れ貴族が」
「無礼者っ」
「ほお、盗賊に堕ちた貴族でも、口答えしたら無礼者か。ええ、どうなんだ、盗賊貴族」
「貴様ぁぁ」
「勝てると思うのか? オレがその気になればその首、胴体から離れるぞ。首だけになっても無礼者と叫ぶなら、いつでも切り落としてくれるぞ」
「おい、こやつを捕らえろ」
「近付くと首が落ちるぞ。こいつが命より大事なら好きにしろ」
「おとなしく……【風刃】スパッ……ザーザー」
「ほれほれ、言わんこっちゃない。次は誰が死にたい? 」
さて、問答しているうちに片付けて、とっとと別な町で売るとするか。
この町はどうやら氷が造れる魔導具は要らないらしいからな。
どの町がまともな対応をして、画期的な魔導具を買う事になるか。
買えば漏れなく王族御用達になるだろうし、たくさんあると知ればいくらでも欲しがるだろう。
そしてその利権も欲しがるだろうが、そこまではさすがにな。
よし、頃合だ。
捕縛せんと衛兵が大挙して来るさなか、わめく貴族に【暗示】【誘導】で犯人はこいつですと。
後はとっとと……やれやれ、どうにも貴族が邪魔だよな。
広場の一角の喧騒から逃れ、【倉庫】に入れたコップを取り出す。
それに簡易水出し魔具、フィルター内蔵のそれから水を注ぎ、しばらく置いて飲んでみる。
うん、まあまあ冷えるな。
この簡易水出し魔具をもう少し洗練させて、可能なら指輪型にしたいものだが。
そうなるとフィルターをもう少し……ううむ、これは難題だな。
「もし、そこのお方」
「うえっ、オレか」
「それは水かの? 」
「そうだけど」
「済まぬがいただけぬかの」
「喉が乾いてんのか」
「あのような泉など、到底飲む気にはなれず」
「冷たくて美味いと評判だろ」
「馬が直接口をつけて飲んでおるうえに、馬糞も散乱しておる有様。いくら冷たくとも、あれはさすがにの」
それなりに衛生観念があるか、また珍しいな。
「よし、水を足してやる」
「それは水の、魔具かの」
「試作品だ」
「どうにも高そうには見えぬが、まあ、水なれば今は贅沢は言えぬか」
「ほれ」
「おお、これは冷気かの。なしてこのような……ややっ、底に氷があるように思えるが」
「そりゃあるさ。氷を作る魔導具を持っているからな」
「ゴクリ……おお、これは冷たい。確かに氷の水じゃし、この美味さはどうした事じゃ」
どうやら彼は商人らしく、買い付けの帰りに喉が渇き、評判の泉の現状にそれを諦め、喉が渇いたまま帰宅途中にオレを見かけ、そして現在に至ると。
近隣の町から買い付けに来た彼は、最近作られたという泉を楽しみにしていたそうで、その設置場所の管理の杜撰さを嘆いていた。
せめて屋根なりと作り、囲いもして馬に直接飲ませるなどあり得ぬと。
可能ならば大理石で周囲を囲み、ドロ汚れなども近づけさせず、汲む者も汚れておらぬ服を着て、洗った容器で汲むべきだと、色々と構想はあるようだ。
実は自分の町にも泉が欲しいらしく、作った技術者との交渉の結果、その費用の高さに諦めて、買い付けだけで帰る途中との事。
折角なので付いて行く事になり、道中の水は任せろと。
「それはありがたいの」
ううむ、これは魔具に【寒冷】を仕込むべきかな。
設置式の魔導冷蔵庫も良いが、こうやって移動しながら使える魔導具というのも便利そうだし。
オレは魔具でも良いが、一般人は魔導具じゃないと魔力の問題があるからな。
荷馬車に揺られながら色々と構想を練り、ちょっと大きな指輪型フィルター内蔵冷却水出し魔具を作成する。
よし、これで冷たくて美味い水が出るはずだ。
後はこれを魔導具にする工夫をするだけだけど、現行のエネルギー事情じゃちょっと無理があるな。
ふむ、握り込むぐらいの大きさにすれば、何とかオークの魔石でやれるか。
初期のオイルライターぐらいの大きさになっちまうが、それでもハンドタイプの魔導具としては画期的な物になるだろう。
さてその構成を……




