8.精霊とは違う【2】
外が赤くなってきています。私、結構寝ていたみたいです。って言うか、いつの間に寝てしまったのでしょう。確か、船のある場所に行って…。
「っ!」
突如として思い出された記憶に、私は息を呑みました。冷たい声、冷たい表情。私に直接向けられた訳ではないと分かってはいますが…、思い出しただけで苦しくなってきました。
私は必死に深く息をしようとします。呼気が震えます。握り締めていた手を開いてみると、やはり震えていました。
『俺はお前を必要としない。』
あの時のヴォルの声が蘇ります。私に向けられた言葉ではありません。分かっています。でも…。
「起きたのか、メル。」
不意に開いた扉から、ヴォルが顔を出しました。部屋に足を踏み入れるヴォルに、私は知らず身を引いてしまいます。彼が僅かに目を見開くのが分かりました。でもそれも一瞬で、すぐにいつもの無表情に戻ります。
私は何か言わなければと頭では考えますが、全く言葉が出てきません。先程の言葉が何度も私の頭の中にリプレイされます。
「っ?!」
ギュッと目を閉じると、ヴォルの近付いてくる気配を察して身体が自然に強ばりました。私、どうしたら…。頭で考える事と、身体の…心の反応が異なります。ギシッとベッドが鳴くのと、フワリと身体を包まれるのが同時でした。
「すまない。」
低く告げられたヴォルの声が耳と身体から伝わります。あ…、何故でしょう。すでに慣れ親しんでしまった温かさと匂いに、私の身体から自然と力が抜けていきます。
「すまない。」
再度告げられた言葉に、私はプルプルと頭を横に振りました。ヴォルが悪い訳ではありません。私が勝手に怖がっているだけです。勝手に…過去と繋げて怖がっているだけです。
どのくらいそうしていたでしょうか。クゥ…と、空気の読めない私のお腹が時を告げました。
「…食事にしよう。」
背後からゆっくりと動き出すヴォル。
「は、はい。」
恥ずかしいです。どのような顔をしたら良いのか分かりません。俯いたままでいると、頭にポンッと手を乗せられました。思わずヴォルを見上げます。
「何が食べたい。」
いつもの無表情ですが、その瞳はとても柔らかな光を放っています。
「あ…、お魚…が良いです。」
後半消え入りそうな声になってしまいましたが、ヴォルにはキチンと伝わったようでした。
「分かった。」
頷きと共にゆっくりと扉に歩いていき、扉に手を掛けたまま私の方に振り向きました。あ、私も行かなくてはなりません。ずっとベッドで半身起こした状態だった私は、慌ててヴォルの傍に歩み寄ります。彼の隣に立っても、もう怖くありませんでした。




