≪Ⅷ≫精霊とは違う【1】
≪Ⅷ≫精霊とは違う
「必要ない。」
冷たい声でした。私は思わずヴォルを見上げます。
「ですが、私は命を受けております。」
誰から、とは言いませんでした。でも、恐らく皇帝様。
「関係ない。戻りはする。もう暫く待てと伝えろ。」
鋭い視線も冷たい声も、私の知らないヴォルでした。怖い…です。ゾワゾワがチリチリに変わります。周りにいる積み荷を動かすたくさんの人々は賑やかですが、私を取り囲む二人の空気だけは剣呑としています。
「ヴォルティ様にお仕えはしていますが、私の主人は貴方ではありません。」
「俺はお前を必要としない。」
魔物に囲まれている時と同じ…いえ、それよりも怖いです。向けられる敵意に呼吸が浅くなります。たぶん私、物凄く青い顔をしていると思います。
「メル?」
フラりと身体が揺らぎました。あれ…?ヴォルの少しだけ驚いた声が聞こえましたが、その先は真っ暗になりました。
メルの身体が左右に揺れたかと思った途端、崩れるようにして倒れる。慌てて腕を掴んだが、青白い顔のまま意識がなかった。
「帰れ。」
俺はベンダーツに一言だけ言葉を投げ付け、メルを抱き上げて宿に向かう。奴はついてこなかった。恐らく宿は知れているだろうが。…しかし何故倒れたんだ。着いた時は体調が悪くはなさそうだった。
ベッドに寝かせ、未だ青い顔のメルを見つめる。汗を浮かべていた為、それを拭おうと額に触れようとして。
「……。」
ピシッと指先に電気が走る。メルの婚約の腕輪に掛けた拒絶の魔法が発動したのだ。以前のように激しい拒絶ではないにしろ、先程のベンダーツと俺のやり取りに原因があるのは確かだろう。
「メル…。」
ピリピリと感じる電気を無視し、柔らかい布でメルの汗を拭く。セントラルに…、このまま連れていっても問題ないのだろうか。俺は自問する。だが。
「俺はメルを手放せない。」
これだけは分かる。それが何なのかは分からない。ただ期限が迫っているから。そうだと思っていたが、違う気もする。だが、ここまで長く女といた事はない。
「精霊とは違う、人間の女。」
何が違うのか。他の人間の女とも違う、メルの存在。俺は自問しつつ、メルの髪を撫でる。痛みはもうなかった。
泣いている小さい子供がいます。一人、膝を抱えるようにして泣いています。シクシク、声を押し殺すように。
「どうしたの?何で泣いているの?」
近付こうとして、私は目が覚めました。あれ?ここ…。周りを見回し、漸く宿に戻ってきていたのだと気付きました。でもいつもと違う事。ヴォルがいませんでした。




