7.一緒に行かないか【5】
ヴォルについて歩きながら、目の前に近付いてくる大きな船を見上げます。
「虫が入る。」
隣から伸びてきた手に顎を触られ、あんぐり口を開けていた事に気付かされました。は、恥ずかしすぎます。熱くなる頬に両手を当てながらチラリとヴォルを見ると、いつもの無表情の中にも優しさが見える…気がします。気のせいかもしれませんが。
そのまま私達は船着き場に行き、ヴォルは近くの小屋の人と話しています。乗船手続きをすると言っていました。私は船の見物です。近くで見ると本当に大きくて、見上げたらまたまたあんぐりと口を開けてしまいそうなのでやめました。
キョロキョロ辺りを見回し、今度は荷運びをしている人達を見物します。今荷物を運び入れている船は、今日の夜に出発するようです。大声で指示をしている人が言っていました。
「メル。」
遠巻きに見ていたら、後ろから聞き慣れた声がしました。手続きが終わったのかと振り向くと、ヴォルの他にもう一人知らない人が立ってます。船乗りさん、とは違いますね。だって、服装がやたら小綺麗なのです。
「お初に御目にかかります、お嬢様。」
お嬢様?誰の事でしょう。私は左右を見回します。ん?首を傾げてその人をもう一度見ますと、何故か私を見ているようです。私、ですか?
「貴女ですよ、メルシャ様。」
名前を呼ばれ、ヴォルに視線を向けます。
「…セントラルの人間だ。」
セントラルの…って、ヴォルのお家の関係者さんですか?グレーの髪をオールバックにまとめた壮年の男性は、右側に眼鏡を着けています。穏和な表情をしていますが、目が鋭いので少し怖いです。
「私はマクストリア・ベンダーツと申します。」
深々と頭を下げられ、私もつられて頭をあげました。
「貴女が、ヴォルティ様の選ばれた女性ですか。」
何でしょう。ゾワゾワとした嫌な感じがします。私、値踏みされているのでしょうか。
「ベンダーツ。」
知らずに自らの腕で己を抱いた私を見てか、ヴォルが彼に鋭く声を掛けます。
「ヴォルティ様が漸くお戻りになられるとお聞きしましたので、私がお迎えに上がった次第でございます。」
次の瞬間には私はいないかのように、ヴォルに真っ直ぐ向き直って胸に手を当てて頭を下げながら告げています。えっと…あ、ヴォルの名前は長かったですね。名字もありましたし。久し振りに聞きましたが、私にとっては今更なので呼び改める気もありません。




