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俺たちは先ずは食事を終え、授業後にまた自習室を借りて集まることにした。
リ行やダ行には、それまでは聞き込みなどの探索はしないように言い置いた。何しろ俺たちは注目されていたからだ。王都の王子が急に平民の席に着いたのだから気づいた奴は驚いたと思う。そこで俺たちが急に聞き込みなんか始めたら捜査が筒抜けになってしまう。先ずは身内の情報を出し合わねば。
授業が終わり、昼飯を食ったら一旦部屋に戻ってから各々自習室に向かう。ちなみに自習室は校舎にあるので移動は面倒だ。しかし寮の部屋は狭いし、リ行とダ行の部屋には机がないから不便なのだ。
王子はこないだのように教壇には立たず、皆と机に着いた。それぞれが向きを変えて何となく円になるように座った。
ちなみに自習室は普段は教室として使われている部屋で、キャパは四十くらい。つまり日本の学校と同じくらいだ。俺としてはすり鉢状になった百人くらい入れる教室を想像していたのだがマイクも拡声器もない世界なのだからデカい教室は無駄なのだ。
「さて、寮長の噂を誰から聞いたかはっきりと覚えている者はいるか?」
「僕はリディオから」
「僕はリエトから」
「僕はダニオから」
「ちょっと待て、クスカの諸君で最初にこの話を聞いてきたのは?」
「僕だよ」
手を挙げたのはダンテだった。
「朝の仕事でパン生地当番の時に一緒になった上級生が話してたんだ」
「誰か分かるか?」
ダンテは首を振った。朝の当番はイジメを防ぐ意味もあり、同じ上級生のグループとずっと一緒にならないようなローテーションになっている。相当気を付けないと上級生の名前は覚えられない。こちらも向こうも名乗らない。学年が、つまり階級が上からの命令は絶対という軍隊での人間関係を身体に染み込ませる為にこうなっているのだろう。
「見れば判るかい?」
「いや、、、ちょっと自信ないな。でもチュニックは黄色だったよ」
黄色か。じゃあ二つ上の学年だ。マルキオッレと同学年だが、聞きにくいことこの上ない。
するとダミアーノが手を挙げた。
「噂話を辿るのは難しいよ。それよりも開かずの間を誰かがこっそり使ってるのが問題なんだよね?」
「確かに」
「合鍵を持ってるってことなのかな?」
「どうなんだろう?」
そもそも寮の錠前は外からは鍵をかけられるが内側からはかけられない仕組みのだ。
「あとさ、隣の部屋の音って結構よく聞こえるよね?」
「誰かが使ってたら音で気付くよな」
そうなのだ。寮は壁は薄いし床も板張りなので歩けば結構な音が鳴るのだ。
「てことは、犯人は開かずの間の隣りの住人か、、、」
「少なくとも共犯者ではあるよね」
「あるいは口止めされてるか」
「てかさ、開かずの間なんて何に使ってるんだろう? だってさ、貴族の部屋は二人部屋でお付きと二人なんだろ? 隠し事をする意味がないよね」
確かに。
「倉庫かな。部屋に置いておいたらマズい内緒の何かを保管してるのかも。お酒とか」
「誰かを匿っているとか?」
みなが少し黙った。わかる。俺も頭をよぎった。何ってエッチなことだ。
それなら確かに隠したい事だし、不可能ではないのかも知れない。
しかしそんなことすれば一発退学だろう。いくら貴族でもそこまでするだろうか?
「壁に穴を開けて出入りしてるのかな」
「てかさ、寮の部屋の壁ってアレ何だい? ディーヌベルクでは見ない素材なんだけど」
そういや何だ? ザラザラの石膏ボードみたいな壁。砂壁で良いのだろうか?
すると何でそんなこと知らないんだって顔でダリオが答えた。
「モルタルだよ。レンガを積む時に使うドロドロ」
「あ、それなら知ってる」
「あれを格子状に木を組んで作った壁に塗るんだよ。全部木で壁を作るとすごく高く付くんだ」
そっか、そうだよな。木材は燃料でもあるから無駄遣いできないよな。それに薄い木の板みたいなものを作るにはちょっと技術が足らなさそう。
「よく知っているな」
「ウチは大工だから。骨組み材は端材や、なんなら枝材とかでも良いんだ」
「ふむ、骨組みがあるなら簡単に穴を開けることは出来ないわけか」
「小さい穴ならともかく、人が出入りするようなのは難しいと思う」
ふむふむ、隣の部屋から壁を壊して出入りしてる訳じゃないのか。ではやはり合鍵か何かを使ってるのか。
「ピッキングってできないのかな?」
「ピッキング?」
「あ、鍵開けのこと」
「聞いたことないな」
ダンジョン攻略とかしてる連中ならそれくらい出来そうなもんだけどな。
「ドームで鍵の閉まった部屋とかあったらどうしてるんだ?」
「壁の弱そうな所から少しずつ壊すんだよ。だって鍵穴すらないんだよ」
そっか。ドームは未来の謎技術で作られているのだった。シリンダー錠なんか使ってるわけねえよな。
「寮の鍵って誰が管理してるんだろう」
「アレって外からは掛けれるけど中からは掛けられない錠だよね。やっぱ寮長か教官じゃないかな」
「前は消灯後は全部閉められてたんだってさ」
「え、トイレはどうするのさ」
「消灯前に済ませるんだよ。でも非常用に部屋には壺が置かれてたんだって」
「へー。それ誰に聞いたの?」
「お兄ちゃんだよ。アカデミーはもう卒業して軍に入ってる」
「へー」
「お兄ちゃんがまだアカデミーにいた頃にさ、軍のブートキャンプで呪われた子が居たんだって」
「呪い?」
「ああ、外から鍵を掛けられた部屋で同室の全員を焼き殺してしまったんだ」
「げっ!」
「火は燃え広がり隣室の子らも火傷を負って、それから鍵を掛けなくなったんだって言ってたよ」
ダミアーノから新しい怪談が飛び出してきたな。クスカの連中は既に聞いていたようで涼しい顔をしているがディーヌベルクの連中は震え上がっていた。
「それにしても、何も分からないね」
「となると、やっぱり開かずの間の隣が誰なのか調べるのが早いんじゃないかな」
視線が自然と俺と王子に向いた。
「そうだな。三階が誰なのかはオッタヴィアーノ王子に調べてもらおう。四階は我々で調べてみる」
そんな風に話はまとまって俺たちは解散した。結局何も分からないことだけがはっきりしただけである。防犯カメラもない世界では探偵はやれることが少ないのだ。
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