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307

 俺たちはまもなく自分らの部屋に戻って来た。

 オッタヴィアーノ王子はご機嫌に自分の研究について話してくれて消灯の時間を惜しんでくれた。

 そして自身もあの脆いクッキーを口に入れて粉を吹き出してくれた。

 俺たちはもうひとつずつポルボロンをもらったが勿体無いのでもうポルボロンチャレンジはしなかったよ。

 いや、こんな完成度の高いお菓子は滅多に食べられるものではない。俺の前世を入れてもだ。しかも生地が脆すぎて工場生産は無理だ。ブルボンでも無理だ。しかしあの脆さが美味いんだよな。生地にはオレンジの皮が練り込んであるのだそうだけど、よくあるオレンジピールの粒感はないんだよな。不思議だ。

 作っているのは郊外にある完全男子禁制の修道院らしいのだが、そのクララ修道院は山の山頂にあり、その山自体が男性の立ち入り禁止になっていて立ち入ろうとする者は全てふもとで山を守る教会騎士にメイスで滅多打ちにされるのだそうだ。死ぬまで殴られると言っていた。

 修道院にも色々あるんだな。

 だってほら、ディーヌベルクの酒場の修道院はなんなら春を売ることすら厭わないみたいな感じだったじゃないか。


 俺たちは歯磨きをし、筋トレをしてからストレッチをしてベッドの上で胡座をかいて瞑想をしていた。

 物事を考えないようにするのが瞑想だが、あるひとつのことを思い出した。


「そうだ。寮長の噂のこと聞き忘れてました」

「そういえばそうだな。まあ、よかろう。あれだけ受け入れてくださったのだ。また機会はあろう」

「ですね」


 頻繁に部屋を訪ねるのは失礼だろうが、また話をする機会くらいはあるだろう。


 そしてその機会は翌日やってきた。

 朝の仕事を終えて食堂でディーヌベルクやクスカの連中と飯を食っていると、朝食の盆を持ったオッタヴィアーノ王子がこちらにやって来た。


「お主らこんな所で食事をしていたのか。探したぞ」

「オッタヴィアーノ様!」


 俺と王子はベンチから飛び降りて膝をついた。

 他の人の目がある場所で昨日のような態度をとってはあれこれ問題になる。


「え、オミくん。誰だい?」

「マシュトマ第十五位王子のオッタヴィアーノ様だ!」

「え!」


 リ行もクスカも俺たちの卓にいた全員がベンチから飛び降りて膝をついた。何人かは慌て過ぎてコケていた。


「ああ、いい、いい。やめてくれ。学内ではお辞儀くらいで良いよ。ここでは我もいち生徒だ」

「しかし、、、」

「みんながそんなことをし出すと学内が回らなくなるから。さあさあ座った座った!」


 その言葉に従いベンチに座るとオッタヴィアーノ氏は肘で俺を押し込んで俺の隣に座った。


「クラウディオは第三王子だし、オミだって爵位持ちなのに何でこんな端に座っているんだ?」


 そう問うてオッタヴィアーノ氏はパンを千切ってスープに浸し口に入れた。


「我々は南の僻地の出身ですし、同郷の上級生もおりませんので、、、」

「それにご存知の通り、我々は平民たちと交流することに何の抵抗もないのです」

「ふむ、なるほどな。では紹介してくれ」

「え?」

「君らの仲間を紹介してくれ」

「では、こちらから。彼らはディーヌベルク出身で手前からリベリオ、リベルト、リディオ、リエトでございます」


 リ行はみんなガチガチに緊張しながら頭を下げた。


「ディーヌベルクか。じゃあ君らはドームに潜ったりしたことがあるのかい?」


 誰も返事をしないので王子が代わりに答える。


「彼らは幼い頃から浅い層でダンジョン・ワームの飼育などをしていたそうです」

「ほう。ダンジョン・ワームはドームの外に出すと死んでしまうと聞いたことがあるが、本当なのか?」


 リベリオがようやく口を開いた。


「おっしゃる通りです。誰が試しても二日と生きられませんでした。なので増えると鶏の餌にしてしまいます」

「ふむ、惜しいことだな。残飯を食うというのだから各家庭で飼育できればゴミ問題が解決なのだがな」


 リ行の連中は深く頷いた。


「そしてこちらがクスカ出身のダミアーノ、ダニオ、ダンテ、ダリオです」

「クスカ・ドーム? それともクスカ・チッタ?」

「僕たちはチッタです!」

「ほう、面白い組み合わせだな」


 言われて思い出した。クスカの街の住人はダンジョン周辺に住む冒険者と仲が悪いんだった。というか一方的に差別をしているのだとか。


「畏れながら申し上げます! アカデミーに入学してからクスカの差別的慣習は恥ずべきことと知りました。同室の彼らは冒険者の子でありながら、物を盗まないし嘘も付きません!」

「ふむ。よき友情が育まれているのだな。良い事だ。ただし、ディーヌベルクの冒険者とクスカの冒険者とは気質が違う。よく相手を見定めて付き合うことだ」

「ありがとうございます!」


 短いやりとりだったがオッタヴィアーノ氏はディーヌベルクとクスカの連中の心を射止めてしまったようだ。彼らの目が輝いている。

 王族はアイドルだからな。好きじゃなかったアイドルだとしても自分に向けて挨拶してくれたらそれだけで好きになっちゃうんだよな。それがアイドルのパワーだ。

 感心しているとオッタヴィアーノ氏は少し声をひそめて耳打ちするように俺に話してきた。

 

「おい、オミが先日言っていた噂だがな、あれの出所を探れないか?」


 おお、聞こうと思っていたことを先に振ってくれた。


「馬鹿らしいのでちゃんと聞いていなかったのだが、何やら詳しく聞いてみたら酷い言われようではないか。ボッシ先生は三年前まで薬草学の教室を持っていたアカデミーの功労者だ。我が恩師でもある。少しばかり看過できないのだ」


 そうだったのか。


「ということは、あの噂話は今年になって出てきたという事ですか?」

「そうだ。それに誰かが密かに閉ざされた部屋をこっそり使っているという事だろう? これはヘタをすると寮長の管理責任の問題になる」


 確かに。しかしだったらオッタヴィアーノ氏が講師か運営に調査させれば即解決ではないのか。


「できれば内密に解決したい。我はボッシ先生のお気を煩わせたくないのだ。あの人は責任感が強いから問題になってしまったら自主退職されて隠居してしまう。我が国の損失だ」


 なるほど。そういうことなら協力せねば。

 王子がしっかりと頷いた。


「わかる範囲ですが可能な限りお調べします」

「そうか。頼んだぞ」


 俺たちは心霊探偵ではないが探偵ではあったらしい。依頼を受けてしまった。


毎度お読みいただきありがとうございます!

応援、感想、誤字報告とても助かってます!

創作も楽しいですが現実世界の中東問題ウォッチも興味深いですよね。メディアは不安を煽るような論調であるのに対しマーケットが楽観してるのが面白いと感じました。

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― 新着の感想 ―
誰かの不幸は誰かの幸福だったりしますからねぇ
君たち! 食堂で僕と握手! みたいな感じか
アイドルである王族が、更に性格までよくて話をしてくれる・・・脳がバグるで
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