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 先ず、俺たちはエルフの里を離れた。

 聞けばエルフたちは現在、魔術を使わない生活に移行しようとしている最中なのだそうで、子供たちに魔術を見せたくないのだそうだ。


「なんでですか、折角使える技術があるのに勿体ない」

「精霊は人工的な生体だと言ったろう。何かの拍子で精霊が死滅したらどうする?」

「これは人類が正しくやり直すチャンスなのじゃ」


 そうか、鳥インフルみたいな精霊インフルとかが発生しないとは言いきれないもんな。

 しかしだったら何でヒトに魔術を教えたし。


「なんじゃその目は?」

「我らが意図的にヒトに教えたとでも?」

「違うんですか?」

「違うわい」

「方舟に居た頃からエルフとヒトはなるべく触れ合わんように暮らしてきた」

「しかし方舟を捨てて大移動するにあたり、どうしてもヒトとの接触は起きてしまう」

「なにしろヒトは我らに敵意を抱いて攻撃してきたからな」


 そっか、反撃せざるを得ないか。


「それに飢えたヒトに憐憫の心を持つエルフだって少なからず出てしまう」

「水を与えたり、木の枝を落として果物を与えたりな」

「そうすると真似をして魔術を使える者が現れ、魔術が広まってしまった」


 そうか、詠唱を聞かれてしまったのか。


「で、僕らは何処まで進むんです?」

「もう少し山を下ったところじゃ」

「そこに沢がある。その辺りはエルフも人も近寄らん」

「沢があるから動物が水を飲みに集まるんじゃ」

「その動物で治療魔術の練習をしてもらうぞ」


 なるほどなるほど。


 ちなみに移動は徒歩である。

 フルミネの世話は里のみんながやってくれるとの事。

 少し心配である。

 俺との旅よりもエルフの里が好きになってしまったらどうしよう。

 あまり甘やかさないでくれると助かるのだが。


「ほれ、沢の音が聞こえて来たぞ」

「本当じゃ、近いな」


 耳を澄ませる。

 全く聞こえない。


 ちなみに、ジジイたちの荷物は全て俺に背負わされている。

 ジジイたちは古びた格好良い杖なぞ持って歩いているが、見たところ全然健脚である。

 杖の必要性を全く感じない。


「この辺りがええの」

「そうじゃな、良い枝ぶりじゃ」


 ふたりが選んだのは崖に張り出した不安定そうな場所。

 沢もまだ見えない。

 下り坂はまだ続くので下り切った所なのだろう。


「荷物をそっと下ろせ。そこじゃ」

「そっとじゃぞ」


 言われるままにそっと下ろす。

 肩を回し、腰を捻って伸びをした。

 やれやれ、中々の重さだった。


 ちなみにふたりのゲオルグは里を出るにあたって服装を変えた。

 里ではフード付きのゆったりとした裾の長いローブを着ていたが、今はタイトな長袖長ズボンである。

 足元はスリップオンのブーツで、その上から紐で縛り付けている。

 そして左胸に皮の防具を付けている。

 フードの代わりに短い鍔のある帽子を被っている。


 こうして見るとやはり耳が尖っている。

 しかしアニメや漫画とは違う。

 説明が難しいが、耳に小さな突起があるひとって居るじゃん?

 あの突起を肥大化させて後ろ向きに生やした感じだ。


 先の部分が見えなければエルフとは分かるまい。

 それでみんなフードを被っていたのか。


 そして着替えたふたりを見て驚いたのだが、ふたりとも百歳オーバーの年寄りには見えない体型をしている。

 腰はしゃっきりと伸び、腹も出ていない。

 たまにマラソンとか毎年出るような爺さんがいると思うんだけどあんな感じだ。


 ふたりは荷物からバラバラに分解された弓を取り出して組み立て始めた。

 複雑な形状をした持ち手の上下に黒光りする湾曲した素材を取り付け、細い紐を掛ければ完成のようだ。

 黒光りするパーツは硬そうだがよくしなり、カーボンか何かのように見える。


「その黒いのは何ですか?」

「これはリムという部品じゃ」

「あ、そうじゃなくで金属か何かですか?」

「これは方舟の下層に生息するスカベンジャー・ビートルの上翅じゃ」

「ジョウシ?」

「虫の硬い羽のことじゃ」

「虫の鎧よ。形状としなやかさがぴったりなんじゃ」


 その素材があればサスペンションも作れそうだ。


「その素材はドームの遺跡で普通に採れるものなんですか?」

「スカベンジャー・ビートルは生きた人間は襲わないから討伐対象にはならんのと違うかの?」

「それに倒そうと思うと結構厄介じゃの。あらゆる攻撃が通りにくい上に飛んで逃げるからの」


 マジか。


「おふたりはどうやって倒したんですか、やっぱ魔術で?」

「いや、ゴーレムに命じてじゃ」

「ゴーレムはどうやって、、、?」

「知らん。ワシらは方舟の管理者に使用目的を説明して申請するだけじゃ」

「ゴーレムは管理者権限がないと動かせんからな」


 アドミン権限とか会社のパソコンかよ。


「それよか行くぞ」

「腕が鳴るわい」


 ふたりは左腕上腕の内側に皮の防具を取り付け、手首に紐を巻き、それを弓のハンドルに結え付けた。

 右手には指三本だけに付けるような小型の防具を握り込んだ。

 背中には矢を入れる筒状の入れ物を背負っている。


 何だか道具が多くてカッコいい。


「お主はなるべく音を立てぬように付いて来い」

「了解です」


 俺たちは獣道もない斜面を縦列になって降りて行く。


 組み上がった弓は全長がかなり長く、持ったまま森を歩くのは大変そうだ。

 多分、百二十センチはあると思う。

 なのにふたりは木の枝や下生えに引っ掛けずに器用に歩いて行く。


 俺はというと足元が不安定でよろけたりして木の枝に引っ掛かり、下生えにぶつかり音を立ててしまう。

 その度にふたりは歩みを止め、暫く周囲の様子を見る。

 俺だけやかましくて申し訳ない。

 ここはふたりに謝りたい所だが声も出すなというのだから黙っておく。

 地味に辛い。


 何度もふたりの歩みを止めつつ斜面を降りて行くと俺にも水の流れる音が聞こえて来た。

 ちょろちょろという小さな水音だ。

 かなり細い沢らしい。


 沢にはあまり近寄らず、沢の上流へ進路を変更すると、より一層慎重に歩みを進める。


 不意に先頭のゲオルグが足を止めた。

 そっと矢を取り出して弓につがえる。

 屈んだりせずに直立したままだ。

 身を潜めなくていいのだろうか。


 ゆっくりと弓を上げて、腕を伸ばしたまま動かなくなる。

 しかし弓は引絞らない。

 まだその時では無いようだ。


 そして不意に弓を引き、躊躇なく矢を放った。

 思ったよりも大きな音がする。


「当てた!」


 ふたりのゲオルグが走り出し、俺も慌てて追いかける。


 立ち並ぶ木々が開けて沢に出た。

 ふたりが走るのをやめて歩き出したので視線の先を追う。


 見ると沢のほとりにまだ子供の鹿が倒れていた。


お読みいただきありがとうございます!

誤字報告もありがとうございます!

感想もありがたく読ませていただいてます!

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― 新着の感想 ―
今日のご飯か癒しの実験台か…。
あんな生物つくるのだからそれ相応の対策はしてありそうだが……管理する人類がこれだから本来の対応できず全滅はあり得るからエルフの考え正しいんだよなぁ
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