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「ほんなら、ワシらに分かるように陸路をちまちま繋ぐ利点を説明してみい」

「そうじゃそうじゃ、ワシらをアホ扱いしたんじゃからの。説明責任があるじゃろ」


 うわあ、面倒くせえ。

 もうすっかり宿で風呂入ってたっぷり寝るつもりだったから頑張る気力が湧かない。


 さっき腹が立ったのも一瞬で冷めてしまった。

 休みも栄養も足りてないに違いない。


「ほれほれ、どうした?」

「どうせ何も思いつかんのじゃろ?」


 しかし何か言って納得させないとこの面倒なご老人は寝かしてくれないのだろう。

 エルフの里に宿屋があるとも思えないし。


 俺は息を鼻からたっぷりと吸って脳に酸素を送り込むと同時に頭を内側から冷やす。

 そしてマグカップを取り上げ一気に飲み干して糖分を摂取した。


 ついでにトイレも借りてスッキリし、顔も洗わせてもらおう。


「説明する前にお手洗いをお借りしても?」

「時間稼ぎか? 仕方あるまい。そこを出て右じゃ。扉に月のマークが付いた小屋じゃ」

「逃げようなどと思うなよ」


 俺は小用を済ませて手と顔を洗った。

 濡れた手で髪をかき上げて、首を鳴らして腰を鳴らして伸びをする。

 これで大分スッキリした。


 ついでに耳を横に引っ張ってあかんべえをする。

 コンビニの夜勤で辛くなった時の俺の目覚ましルーティンだ。

 この世界では久しくやっていなかったな。


 小屋に戻ってまた席に着く。


「さあさあ、説明じゃ」

「いい加減何か思いついたじゃろ」


 俺は両手を机に置いてもう一度深呼吸をした。


「説明の前に、本当に僕はこの件について知らないので質問させてください。あなた方が欲しがっているのは何の酒です?」

「全てじゃ」

「そうじゃ、ワイン、ユオマ、グラッパ、そんなところじゃ」


 なるほど。


「エールやセルヴォワーズは良いんですか?」

「その辺はまだ手に入るでな」

「ガラス瓶に詰めたワインは酢にならずに更に美味くなるそうじゃないか」

「そう、それじゃ! ポリオリとバルベリーニはそれで鳴らしておると聞いておるぞ」


 はいはい。

 確かにね。

 王都を通過するとさらに希少になるし値段も吊り上がるだろう。


「なるほど。船でマシュトマを素通りすると怪しまれるのは先程説明した通りです」

「さっき聞いたわい」

「さっさと進めろ」


 黙ってられんのかジジイ。


「さて、今後ポリオリとシュトレニアは通商が盛んになります。シュトレニアからは鉄、ポリオリからは技術や新たな製品、人材なんかが輸出されます」

「ふむ」

「気づきました? ポリオリからはあんまり物が輸出されないんです」

「ほほう」

「お互いが自前でやりとりするには限界がありますので商人を介してのやりとりを増やさねばなりません」

「ポリオリから何か出す物がないと商売にならんぞ」

「そこです。鉄を運んで空になった馬車に酒を積んで帰れば、、、?」


 ふたりの顔が明るくなった。


「そうです。もちろんシュトレニアは王都を通過せずに安くワインが入って嬉しいでしょうが、、、」

「シュトレニアとバーゼルを繋ぐ道を拓けば我々に届き、シュトレニアはその利鞘で稼げるのじゃな!」


 俺はここで探りを入れる。


「あなた方も売りたい物があるのでしょう? バーゼルだけでは捌き切れない何か高価なものが?」

「どうじゃろうの」

「何か考えがあるのじゃろう、言うてみい」


 俺はマグカップを爪で弾く。


「砂糖を沢山お持ちなのでは?」

「まあ、そうじゃ」

「酒の支払いは砂糖のつもりじゃが?」

「これは僕の想像ですが、シュトレニアは砂糖を売る販路を持ってるんじゃないですかね」


 ふたりの頭にハテナマークが浮かぶ。


「例えばですけど、ドワーフとか獣族とか、、、」

「はっ! それじゃ! 獣族じゃ! あ奴ら狩猟ばかりして作物を育てぬ。だけども甘味は好きじゃ!」

「いや待て、獣族は砂糖を買うのに何で支払うんじゃ?」


 ドワーフなら武器でもガラスでも色々あるのだけどもな。


「肉じゃないんですか?」

「自分らの主食を売るか?」

「狩り尽くすのがオチじゃぞ?」


 そうか。


「何もないなら土地、、、か、労働力、、、ですかね?」


 ふたりが渋い顔をした。

 俺も自分で言っておいて嫌な気持ちになった。


 土地を手放したら衰退が待っていて、労働力を出すと奴隷に逆戻りみたいな感じになる。

 そもそも獣族は小さな部族の集まりだと聞いている。


「何か新しいことを獣族たちも始めてるんですかね?」

「そうだと良いのじゃが、、、」

「おい、小僧。そこんとこちょこっと調べておけ」

「そうじゃ、そうでないとワシらが気持ちよく酔えんじゃろうが」


 ええ?

 機密っぽいことを調べるのは何か嫌だなあ。

 自分たちで調べなよ。


「あ、そういえばですけど」

「何じゃ」

「砂糖やら蜂蜜やらがあるならお酒は作り放題じゃないんですか?」


 ふたりは顔を曇らせた。

 そして立ち上がって戸棚から甕を取り出した。

 蓋を開けて俺のマグカップに中身を注ぐ。


「飲んでみい」

「いただきます」


 飲んでみるとアルコールが強く、そして甘い。


「美味い! めっちゃ美味いじゃないですか!」

「お主は舌がお子ちゃまじゃの」

「そのべったり甘いのを酔うまで飲めるか?」


 ああ、そう言われると確かに。

 一杯だけで充分かも。

 超甘党の人なら別かも知らんけど。


「蒸留は無理なんですか?」

「糖度が高すぎて鍋はガビガビに、酒はドロドロになってしまって上手く沸かせんのじゃ」

「ゆっくりやると今度は時間がかかり過ぎて管理が難しい」


 なるほど。

 精度の高い蒸留器と電気かガスがあれば簡単にできるのだろうが、薪か炭か魔術だもんな。

 ほどよく沸かし続けるのは難しいか。


「魔術で分離は?」

「できるのか?!」


 俺は試しにマグカップに手をかざして精霊にお願いしてみる。

 エルフの前だからいいよね?


 アルコール分だけを持ち上げるよう精霊にお願いしてみたが僅かに表面が揺れただけでそれ以上なにも起こらなかった。


「無理っぽいですね」

「何じゃ、期待させておいて」

「自分が無理なことをひとにやれとはどういうことじゃ」

「すんませんね」


 折角だから魔術について色々教わっておこう。


「あの、ついでといっちゃなんですが僕の魔術なんですけど、、、」

「問題ない。大したもんじゃ」

「そうじゃな。強いて言うなら嘘の詠唱をしておけというくらいじゃ」

「あの、魔力も随分と多いみたいで、、、」

「大丈夫じゃ。問題ない」

「魔力が多いと身体の中に魔石ができるとか聞いたんですけど」

「日頃から魔力は使っとるのだろう?」

「そんくらいなら大丈夫じゃ」


 そう言わずにもっとちゃんと見て欲しい。


「そんなことよりお主の話じゃ。名は何という?」

「そうじゃ、そしてどの時代から来た?」


 時代?


「お主、転生者じゃろ?」

「はよ話せ」


 いやいや、ちょっと先に説明して欲しい。

 どういうこと?

誤字報告ありがとうございます!

感想も五体投地で拝読させていただいております!

新年明けてもいつもの月水金でアップしていきます!

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― 新着の感想 ―
乾かす事は出来ても分離は出来ないのは不思議だな。 ここはあまり突っ込まない方が良さそうだな。
内容は面白いけど、正直諦めてたタイトル回収が実現しそうな雰囲気、いい意味で裏切られ直した。 国で10人居そうにない、250話に届くのに会ったの一人だけで「珍しくない」とはこれ如何に、が解決するかな
正月を利用して一話から一気に読みました。楽しかったです! 結構な人数の作者が旅の描写をそこそこに切り上げてしまいますが、1日1日経過すると距離や文化を感じられて私は凄く好きです(それがなろう的に正しい…
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