7 ルーク、ファミリーに誘われる
現地のファッションがわからない俺は、ノアに選んでもらった黒い丈夫なコートに袖を通す。
服屋では俺の着るパイロットスーツを売ってくれとせがまれ、ノアもびっくりな金額を提示さるという、多少のハプニングもあったが、服を選んでくれたノアは終始ご機嫌で「やっぱりルークに似合う色は、髪の色に合わせて黒よね」と言いながら嬉しそうだった。
服を手に入れた俺は、そのままノアの家へと招かれる。
「ようこそおいでくださいました、ルーク様」
建物に足を踏み入れると、受付に座っていた女性が一礼して俺を迎えてくれた。
「ルーク、こっちよ。応接間に案内するわ」
そう言って、俺の手を引っ張るノア。
「なあ、ノア。ここがお前の家なのか?」
「そうよ。ここが私の家兼、シルフィードファミリーのホームよ」
ノアについて歩きながら、俺は改めて周囲の構造を見渡す。
連れてこられた建物は、この『星渡り』の中央――最も豪華で、最も背の高いシンボルタワーのような建造物だった。状況からしても、権力者の住む場所であることは火を見るより明らかだった。
「つまり、ノアはこの街のトップの娘ってことか?」
「そうよ。驚いた?」
ノアが俺を振り向き悪戯っぽく微笑む。
「私のお父さんが、この星渡りの『契約者』であり、シルフィードファミリーの団長――ジェトス・シルフィードなの」
「おいおい、俺のいないところで、もう紹介を始めているのか?」
その重厚な声に振り返ると、客室の扉を開けてジェトスが入ってくるところだった。
先ほどの太古の森で出会った時とは違い、今の彼は組織の長に相応しい、フォーマルで仕立ての良い上着を羽織っている。
「さあ、そんな所に立っていないで座ったらどうだ」
「え、はい。失礼します」
「そんな改まる必要はない。……と言うか、ルーク、お前話せたのか?」
ジェトスが驚きに眉を上げ、鋭い視線をこちらへ向けてくる。
「そうなのお父さん! ルークは凄いのよ! 私と出会ってから半日も経たずに、言葉を覚えてしまったんだって!」
「半日で言葉を覚えただと? おいおい、何者だおまえさん」
「ええと……まあ、俺の故郷の言葉と結構似ていたので、コツを掴めば簡単だったと言いますか……」
『ちょっとルーク、その言い訳は無理がないかい?』
(うるさいナイト、咄嗟にそれしか浮かばなかったんだよ)
脳内で呆れるナイトの声を無視して、なんとか作り笑顔で誤魔化すことにする。
「……そ、そうか。正直信じがたいが実際話せているのだから信じるしかあるまい」
ジェストは、まだ完全には信じていない様子だったが、一応は納得してくれた。
「ではルーク、お前はここ『アルカディア王国』の出身ではないんだな? どこの出身だ? なぜ太古の森にいた?」
俺は少し考え母星の名前を口にする。
どうせこの惑星の人間からすれば、聞いたこともない名前だ。真実をそのまま伝えたとしても、特に問題はないだろう。
「『地球』という場所です。太古の森については……旅の途中ではぐれ、道に迷ってしまいまして」
「チキュウ……か、聞かない名だな。未開拓領域か、あるいは別の大陸か?」
「ええと、別の大陸です。知らないのも無理はないですね」
ジェトスはしばらく腕を組んで考えていたが、ふと何かを思い出したようにこちらを見た。
「おっと、すまない。あまりに驚きが続いて、つい詮索が先になってしまった。色々聞きたいことは山々だが、まずは何よりも礼が先だな。今回は、愛娘のノアを命の危機から救ってくれて、本当にありがとう」
そう言って、俺に向かって頭を下げた。
「いえ、大したことのない相手でしたから」
そう、謙遜したつもりだった。――だが、完全に失敗した。
「ちょっと、ルーク! 『大したことがない』だなんて、それじゃ助けられた私の立場がないでしょ! 太古の森の凶暴なゴブリン十匹以上を、一瞬で倒しちゃうなんて普通は絶対にできないわよ!」
ノアの言葉に、ジェトスの視線が鋭くなったのを感じた。
「ほう。ゴブリンとは言え、十匹以上を一瞬か」
(ああ……何か、嫌な予感がするな)
『たぶん、その予想は当たっているね、ルーク。ジェトスの心拍数が急に上がったよ。だいぶ高揚している感じ』
そんなナイトの言葉を裏付けるかのように、ジェトスの口元がニヤリと好戦的に歪む。
「ちょうど今ファミリーの仲間を募集しているんだが……どうだ、入団試験を受けてみないか?」
「ファミリーの入団試験を?」
「そんな実力者なら、他のファミリーが目をつける前に仲間へ引き入れておきたいからな」
「もう、お父さん! 本音がダダ漏れよ……!」
呆れたように額を押さえるノアの横で、ジェトスはそれを隠そうともせずに豪快に笑った。
「ははは! まあ、これだけの腕利きをただの礼だけで帰すのは勿体ないからな。それに、我がシルフィードファミリーに加われば、このシルフィードの街での生活はファミリーが保証しよう。どうだ?」
「えっと、お誘いは嬉しいんですが。そもそもファミリーっていうのは、どんな組織なんですか?」
「…………はっ? ファミリーも知らないのか?」
ジェトスが瞳を大きく開けて固まった。ノアもまた、可愛そうな人を見る目で俺を見つめている。
どうやらファミリーというのは、この惑星では常識中の常識らしい。
「あ、いや。俺のいた『地球』は本当に辺境の閉鎖的な場所でして……。組織の仕組みが、こことはかなり違うんです」
「……なるほどな。まあいい」
ジェトスは呆れたように息を吐き出すと、気を取り直したように腕を組んだ。
「ファミリーってのは、この『星渡り』を運営・維持し、魔物から防衛するための組織だ。言わば『ギルド』が誰でも入れるのに対し、『ファミリー』は認められた者しか入れない。この大陸には、いくつもの星渡りが存在し、その星渡りを管理運営するのがファミリーの義務だ」
ジェトスの説明を聞きながら、俺は内心で重要な情報を整理していた。どうやら、ここ以外にも別の『星渡り』――この超巨大移動建造物が複数存在しているらしい。
「そして、各ファミリーはその貢献度によって王国からランク付けされて、色々と利権を得られるって仕組みだな」
王国、か。これだけのオーバーテクノロジーの遺物を運用する組織を管理し、権力を持つ中央集権的な政府がこの惑星には存在するわけか。
そこへ、ノアが誇らしげに胸を張って付け加える。
「そして、私たち『シルフィード』はBランクのファミリーなんだよ!」
「えっと、Bランクってのは?」
「ランクには上から、S・A・B・C・D・Fの六段階があって、Bランクは上級ファミリーとされてるわ!」
ノアは「すごいでしょ!」と言わんばかりに、上機嫌に笑顔を輝かせた。
『ルーク。この惑星で生活していくなら、現地の実力者と繋がりを持っておくのは悪くないと思うよ』
(そうだな、話した限り二人は信用できそうだしな)
「わかりました、じゃあ入団試験を受けさせてもらいます」
「よし来た。さっそくお前の実力を見せてもらおうじゃねえか」
ジェトスはニヤリと好戦的な笑みを深くして立ち上がると、「ついて来い」と言い。訓練場へと歩き出した。




