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6 ルーク、魔導機に驚く

 星渡りにゆっくりと近づき、広場の中央に着陸する。

 駆動音が消えると、同時に四枚の羽が動きを止め、機体の側面へと綺麗に畳み込まれた。


 機体から降り、周囲の光景を見回して息を呑んだ。


 広場を囲むようにしてレンガ造りの家々が並び、それが放射状に広がっている。道には平らな石が敷き詰められていて、石畳として綺麗に整備されていた。


 だが、最も俺の目を引いたのは、その西洋風な街並みではなかった。


 建築レベルは中世ヨーロッパ程度だというのに、様々な形状の『ロボット』たちが当たり前のように動き回っていたことだ。


 荷台を引いて物資を運ぶ四足歩行のロボット。下半身だけの二足歩行ロボットが、上に人を乗せて駆け足で移動していく。中には、まるでペットかのように住人に散歩させられている小動物型のロボットまでいた。


 中世ヨーロッパの街並みにロボットが溶け込む、あまりにもアンバランスな光景に言葉を失った。


『ルーク。周囲のロボットを確認したけど、全ての個体から例の謎粒子の反応が出ているよ』


「やはり、あの謎粒子が動力源なのか。……本格的に調査の必要があるかもな」


 この惑星のテクノロジーは、俺たちの知る科学の発展プロセスとは全く異なる独自の進化を遂げている。

 驚きを隠せない俺の横で、ノアが誇らしげに近づき身振り手振りを交えて話しかけてきた。


「凄いでしょ。『魔導機(まどうき)』って言うんだよ。ルークは見たことないの?」


「魔導機? 魔導機とは何なんだ?」


「……えっ! ルーク、話せるの?」


(しまった。ナイトの自動翻訳に任せきりで、つい普通に答えてしまった)


 じつは星渡りを発見した時点で、ビットを送り今では通常会話なら問題ないくらいまで言語解析が進んでいた。


「あ、ああ。何とか覚えたよ」

「えええぇぇっ! こんな短時間で言葉を覚えたの!?」


 ノアが目を丸くして驚きの声を上げる。


『ちょっとルーク。自動翻訳機能が使える僕たちの世界ならともかく、普通はそんな簡単に言語なんて学べないんだよ?』


(……すまん、うっかりしていた)


「ルークってもしかして天才なの? 凄い、凄い!」


 ノアはぴょんぴょんと跳ねるようにして、俺の言葉を疑うこともなく本気で感動している。

 さすがに自動翻訳機を使っているなんて言えるはずもない。


 俺を純粋にキラキラとした瞳で信じてくれるノアに対して、少なからず罪悪感を覚えるが、こればかりは仕方がない。


「それで、魔導機ってのは?」


「え? 魔導機は魔導機だよ」


「……えっと。駆動原理とか、エネルギー源や、その変換メカニズムはどうなっているんだ? 誰でも動かせるものなのか?」


「えっ、えっ? くどうげんり? エネル、ギーげん……?」


 専門用語を並べ立てた俺に、ノアは完全にフリーズしてしまった。目を白黒させながら、助けを求めるように周囲を見回している。


『ちょっとルーク、落ち着きなよ。僕たちの基準で質問しちゃダメだってば!』


(……すまん。またやってしまったか)


 聞きたいことが多すぎて、つい焦ってしまった。


「あ、いや、ごめん。聞き方が悪かったな。あのロボット――魔導機は、何を使って動いているんだ?」


「あ、うん! それは『マナ』だよ! 『マナを充填したエーテル結晶』を魔導機にセットして、『契約』すれば誰でも動かせるよ?」


 マナと言うのは、恐らく例の『謎粒子』の事だろう。

 だが、エーテル結晶とは? それに契約? 聞けば聞くほど、聞きたいことが増えてしまう。


『ねえルーク。魔導機の質問は一旦後にして、場所を変えない? かなり注目されちゃってるよ』


 ナイトの言う通り、先ほどノアが大声を上げたからか、街を行き交う人々がチラチラとこちらを窺っている。いや、それだけが理由ではない。ドットギアで強化された俺の耳に、周囲の囁き声が容赦なく流れ込んできた。


「ねえ、あの変な格好何かしら?」


「斬新なファッションだな」


「ちょっと私には無理かも……」


 ……やはり俺の格好のせいか。しかし、散々な言われようだ。


「……早く服も手に入れないとな」


 このままでは羞恥心に耐えられない。

 俺は咳払いをひとつして、ノアに向き直った。


「なあ、ノア。服を手に入れたいんだ。この服は、ここでは少し目立つみたいだからさ」


「え? そうだね。す、少し変わってるよね」


 ノアは俺に気を遣ったのか、ぎこちない笑顔を見せる。――その気遣いが逆に胸に刺さった。


「じゃあ、こっちだよ。でも、ルークはお金持ってるの?」


「いや、ないが……物々交換はできるか?」


「例えばどんな物があるの?」


 俺は背中に背負ったバッグから、軍用レーションを取り出した。


「それは何?」


「えっと、軍用レイ……、いや、非常食かな」


「その銀色のが非常食なの?」


 ノアが俺の持つ軍用レーションを、興味深げに覗き込む。


「ああ、この中に入ってるんだ」


 そう言って、俺はレーションの袋を開けノアに差し出す。

 ノアはそれを受け取ったものの、未知の銀色の物体をまじまじと見つめるばかりで、なかなか口にしようとしない。


 そこで、俺はもう一つレーションを取り出すと、自ら一口齧ってみせた。

 それを見たノアも恐る恐るレーションを口にする。――その瞬間、彼女は大きく目を見開いた。


「なにこれ! これが非常食なの!? 凄く甘くて美味しいよ!」


「ちょっ、ノア! 声が大きいって……!」


 ぴょんぴょんと跳ねながら感動を露わにするノアに、俺は慌てて周囲を気にしながら声を潜めるのだった。


「ご、ごめんね。あまりに美味しかったから、つい……」


 ノアがうつむいて、顔を赤くしている。


「いや、いいから。それでどう? 交換できそうかな?」


「こんな美味しいもの手放しちゃうの? まだあるなら、私に売ってくれない?」


 ノアが期待の籠もったキラキラした目で、こちらを見つめてくる。

 まだ五日分残ってるから、パックの数で言えば全部で十五個あるな。


「まだ十五個あるよ」


「全部買うわ! 一個銀貨五枚、全部で金貨七枚と銀貨五枚でどう?」


 つまり銀貨十枚が、金貨一枚ってことか。


「ちなみに、銀貨一枚ってどのくらいの価値なんだ?」


「えっと。食事の付かない、安い宿なら一泊できるくらいかな」


 おいおい、それって結構な額じゃないのか?


「本当にいいのか?」


「私、こう見えてお父さんの手伝いで稼いでるから大丈夫。……あっ、それからルークって泊まる場所ないでしょ? お父さんがお礼をしたいって言ってたから、今日はうちに泊まってね」


 そう言えば、先ほどの会話からジェトスがノアの父親だということは既にわかっている。この街への移動に使ったあの飛行魔導機を所有しているくらいだ。太古の森への探索チームを率いていたリーダーでもあるし、この『星渡り』の中ではそれなりに裕福な家庭なのかもしれない。


「わかった。ノアがいいなら、それで売るよ」


「やった! 商談成立ね!」


 ノアはそう言って、満面の笑みを浮かべて喜んだ。腰のポーチからずっしりと重みのある革の財布を取り出すと、細かな細工が施された美しい金貨と銀貨を、俺の手の平に嬉しそうに握らせてくる。


「それじゃ、服屋に行きましょ! 服代は私が出すからね」


「え? いいのか?」


「お父さんがお礼をするって言っても、助けてもらったのは私なんだし、服代くらい出すわ」


 俺は心なしか弾むような足取りで先を歩くノアの後ろ姿を眺めながら、これでようやく全身黒のパイロットスーツという、少なくともこの惑星では不審者以外の何物でもないスタイルからおさらばできると内心で深く安堵し、彼女の後に続いて歩き出した。

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