4 ルーク、驚く
ノアに連れられて辿り着いた先で目にした光景に、俺は驚きを隠しきれずにいた。
「なあナイト。あれは……生きているのか?」
『詳しく調査してみないと正確なことはわからないけど、有機体ではないね。恐らく、超巨大な機械生命体の一種じゃないかな』
「大きさはどのくらいなんだ?」
『光学解析で計算したよ。……驚かないでね、直径三キロ以上はある。しかも、その上部には複数の建造物が建ち並んでいるよ』
「直径三キロ……まさか、あれが上空から見えた街なのか!?」
未開惑星かと思っていたが、あんな巨体を動かす技術があったなんてな。
俺が驚いていると、ノアが不思議そうな顔でこちらを覗き込んできた。
俺が身振り手振りで「あそこにあるのは何だ!?」と驚きを表現すると、彼女はなぜか嬉しそうに胸を張り、得意げな顔をする。
「■■■■、■■■■■■!」
なんだろう、俺のリアクションがそんなに嬉しいのだろうか。
するとノアは、その巨大な機械生命体を指差して、はっきりとこう言った。
「ホシワタリ」
「星渡り……?」
「■■、ホシワタリ!」
彼女が満足そうに何度も頷く。その単語だけは、なぜか完璧な地球の言語として俺の耳に届いていた。
『巨大機械生命体の名前かな? 彼女の表情や心拍数の変化から分析するに、あれは彼女にとって畏怖の対象ではなく、とても親しみのある、大事な存在なんじゃないかと思うよ』
「大事な存在か……」
考え込んで立ち止まる俺の腕を、ノアがぐいぐいと引っ張った。
「ルーク、■■■■■!」
彼女は『星渡り』を指差したまま、早く行こうとばかりに足踏みをしている。どうやら彼女は、俺をあそこに連れていきたいらしい。
「よし、行ってみるか。どのみち、いつまでもこの森のキャンプでくすぶっているわけにもいかないしな」
『うん。この惑星のことを知る良い機会だしね』
俺は深く息を吐き出し、覚悟を決めた。
ノアの後に続いて森の斜面を降り、星渡りへと向かう。
◆
――ザシュッ。
「ふん、甘い!」
突進してきた大型の狼を、単分子カッターの一閃で一刀両断にする。
星渡りへと向かう道中、俺たちは獰猛な獣の群れに遭遇していた。俺たちを美味そうな獲物だと認識したのか、狼たちは巧みに連携して包囲網を狭めてきた。
その電光石火の動きは、常人であれば命取りになる脅威だろう。だが、ドットギアで知覚と身体を限界まで強化した俺にとっては、すべてがスローモーション――止まっているも同然だ。
眼前に迫る鋭い爪の重撃を余裕で躱し、がら空きになった胴体を真横に薙ぎ払う。
ふと背後へ視線を向けると、ノアが一匹の狼に向かって風変わりな短杖を構え、例の光弾を放つ瞬間だった。
放たれた光弾は凄まじい勢いで飛び、狼の顔面へ直撃する。衝撃をもろに食らった巨体が派手に吹き飛び、地面に叩きつけられてピクリとも動かなくなった。
(……見た目に反して、かなりやるな)
出会った当初は、ただ逃げるしかない非力な少女だと思っていた。だがこうして共に戦ってみると、彼女の動きには無駄がなく、明らかに実戦経験がある。
『ルーク、光弾のエネルギー反応を解析した結果、この惑星の大気中に存在する未知の粒子と共鳴してるみたい』
(つまり、あれがこの星の技術体系ってことか)
『その可能性は高いね』
話せるようになったら、詳しく聞いてみよう。
そんなことを考えていた、その刹那――ノアが悲鳴混じりの警告を上げた。
「ルーク!」
死角である真後ろから、もう一匹の狼が俺の首筋を狙い、大きな顎を開けて飛びかかってきた。
だが、その様子は上空を滞空するビットが完全に捉えており、俺の網膜へリアルタイムで投影されている。
俺は反転しながら体を捻って牙の攻撃を回避。すれ違いざま、遠心力を乗せた刃でその首を容赦なくはね飛ばした。
「……ふう。これで終わりだ」
周囲に敵の生体反応がないことを確認し、息を吐く。
「ルーク。■■■! ■■■!」
ノアは俺の元へ駆け寄ってくると、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねながら両手で拍手を送ってきた。言葉はわからなくても、最大級の賛辞と喜びを表現してくれているのが伝わってくる。
(それにしても、本当に感情豊かな娘だな)
長年軍に所属していた俺の周囲には、およそ存在しなかったタイプの人種だ。少し調子が狂うが――決して悪い気はしなかった。
その後も、道中は退屈しなかった。
ノアを襲っていたあの醜悪な生物――彼女いわく『ゴブリン』という魔物や、さきほどの狼『ワイルドウルフ』が、何度も俺たちの前に立ち塞がった。
――ゴブリンたちを蹴散らしながら、森を進むこと一時間。
不意にナイトが視界の端にウィンドウを割り込ませ、警告を発してきた。
『ルーク、前方に複数の生体反応あり。確認したけど、ノアと同じこの惑星の先住民の可能性が極めて高いよ。ただし、全員が武器を所有している。一応、警戒レベルを上げておいて』
「了解だ」
俺は歩調を緩め、無意識に単分子カッターの柄へと右手を軽く乗せる。
生い茂る木々が途切れ、パッと視界が開けた。そこには男性三人と女性が一人、羽のないトンボを思わせる細長い胴体の機械の近くで何かを話し合いながら集まっていた。
その姿を捉えた瞬間、俺の前を歩いていたノアが突然走り出した。
「■■■!」
「ノア! ■■■■■■!」
「■■■■■■、■■■!」
お互いの無事を確認するように、一言、二言と言葉を交わす。彼らはノアの手を握り、抱き合って再会を喜んでいるようだった。
「どうやら、知り合いみたいだな」
一歩引いた位置で様子をうかがっていると、ふとノアがこちらを振り返る。
それにつられて、視線を巡らせた四人の表情が険しくなる。次の瞬間、彼らは手にした武器を構え、こちらを睨みつけてきた。
「■■■■■■!」
「■■■! ルーク■ワタシ■■■■■■■■■!」
それを見たノアが慌てて四人の前に割り込み、必死に何かを説明し始めた。
警戒しながらも平静を装いその様子を眺めていると、四人はお互いに顔を見合わせた後、ゆっくりと武器を降ろす。
「どうやら、話がまとまったみたいだな」
『今の会話から、言語の規則性が少しわかったからアップデートしておくね』
「ああ、助かる。随時アップデートを頼む」
そして、ノアがこちらに近づいてくると、俺の手を引っ張って四人の前に俺を連れて行く。
「オレはノアの■■ジェトスだ、ノアを■■■■■■感謝■■」
そう言って、四人の中で最も体格のいい、リーダー格らしき四十代ほどの男が一歩前に出た。
俺もジェトスと名乗った男に、名前を名乗り笑顔で頷いてみせた。
その後、他の三人からも感謝を述べられたが、皆一様に俺の奇妙な装備を見て、値踏みするような、複雑な表情を見せる。
プロテクターなどの装備をいくつか追加しているとはいえ、身体のラインがはっきりと出る全身黒のパイロットスーツ姿だ。
ここの住人から見たら異質極まりない格好に映るんだろう。
『ルーク、早めに現地の服を入手したほうがいいね』
「そうしよう……」




