37 ルーク、手がかりを得る
「なっ……あれが、魔導機兵にできる動きだというの!?」
私は彼の戦闘から目が離せなくなっていた。
緩やかに湾曲した片刃の剣を振るえば、その一閃で次々と敵機を斬り伏せていく。
これまで見てきたどんな流派とも違う剣技に、私は魅了されていた。
「それに、あの剣も異常よ。数機を切れば使い物にならなくなるのが普通なのに……」
アンジェリーナ様が彼を、そしてあの機体に興味を持たれるのも納得だ。
彼さえいれば、この戦闘を勝利に導ける。
そう思えてくるほどに、その強さは圧倒的だった。
その反面、もしあの力がこちらに牙を剥いたならと考えると、震えが止まらない。
だからこそ、彼を味方につけるため、アンジェリーナ様は自ら出迎え、最高級の宿まで手配した。あの方の先見の明はさすがとしか言いようがない。
アンジェリーナ様は口には出さないが、リンデガルドをあえて泳がせたのも、彼を——ルーク殿をこちら側に引き込むための布石だったのではないか。そんな気さえしてくる。
彼はその間にも敵機を着実に減らしていき、最後の一機を切り倒すと、こちらを振り向き合図を送ってくる。
私は思考を切り替え、敵拠点へ侵入すべくブランシュを星渡りへ近づける。
◇
敵機を全て片付けた俺は、空で警戒にあたっていたセシリアさんを呼び寄せる。
ブランシュが着地するのを確認し、出入り口と思われるハッチへ近づきマテリアブレードで破壊する。
拠点内は想像通り巨大な格納庫になっており、スロープを下ると、そこには一機の魔導機兵が俺たちを待ち構えていた。
その機体は、魔導機兵だというのに紫と白を基調としたタキシードを思わせる装甲をまとっている。
「キヒヒッ。お待ちしておりましたよ、星の彼方よりの旅人さま」
(星の彼方だと? まさか、統合体の事を知っているのか?)
『どうだろう? でも星降との関係には、気づいているみたいだね』
「待っていたって割には、手荒な歓迎だな。まあ、少し物足りなかったけどな」
「キヒヒッ。それは失礼しました。貴方の実力がどの程度か知りたかったものでね」
俺は周囲を警戒しつつ一歩前に出る。
「それで……確認だが、お前はネクロム本人ってことでいいんだな。前回のようなホログラムじゃなく」
「キヒヒッ。ええ、こうして直接お会いするのは初めてですね。しかし、あの技術はすごいものです。奇術師としては少々複雑ですが」
やはりエクス・マキナは、統合体の技術を手にしている。どこまで把握しているかはわからないが、油断はできない。
「なるほどな。お前たちが星の欠片を狙っているのは、技術を手に入れるためか?」
「キヒヒッ。我らの悲願を達成するために、あれは不可欠な力なのですよ」
「悲願だと?」
「キヒヒッ。そうです。かつて星渡りを創造したとされる古代種『ガルマ』に会うためですよ」
「!?」
その名を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
——ガルマ。人類の宿敵、ガルム。あまりに似た響きに、思わず聞き返してしまう。
「ガルマ? それはガルムじゃはないのか?」
その問いが予想外だったのか、ネクロムの声に初めて興味の色が混じる。
「ほう。外から来た貴方がそれを知っているとは驚きです。ガルムとは、ガルマの古代語での発音ですよ」
(ガルムが、星渡りを創造した……? どういうことだ? そもそも、俺たちの知っているガルムと同一の生物なのか?)
『ルーク! もしそうなら、これは統合体にとってもガルムの秘密を知る、大きな手がかりになるかもだよ』
すると、それまで黙っていたセシリアさんが割って入る。
「先程から何を馬鹿げた事を言ってるのですか? ガルマなど子供に読み聞かせる御伽話の中の存在ではないですか」
それを聞いて、ネクロムの言葉に嘲笑が混じった。
「キヒヒッ。貴方、本気でそう思っているのですか?」
「なにっ? それが世間の常識であろう!」
「無知とは、これほどまでに滑稽なものなのですね。これが王族の側近とは。キヒヒッ」
「貴様っ!」
彼女がネクロムに挑発され、怒声を上げる。
俺は今にも飛び出しそうな彼女を押し留める。
「落ち着いて、セシリアさん。相手のペースに乗ってはダメです」
「……ああ、すまない」
彼女が落ち着くのを見計らって、俺は質問を続ける。
「それで、お前たちはガルムに会って何をするつもりだ?」
「空に昇るのですよ。かつて彼らがそうしたようにね。キヒヒッ」
どこまで信じて良いのかはわからないが、この惑星の過去にガルムを知る手がかりがある可能性は高い。
なぜ奴らは突然現れ、人類に敵意を向けるのか。その理由がわかるかもしれない。
(これは、早急に情報を集めないといけないな)
『うん。これは凄いことだよ。人類にとっても、そしてこの銀河に存在する全ての知的生命体にとってもね』
見知らぬ惑星に不時着して、まさかガルムに関する情報が得られるとは思わなかった。
「さて、お話はここまでにしましょう。こちらも早く星の欠片を回収して戻らないといけませんのでね。キヒヒッ」
どちらにしても、今はこいつをどうにかするのが先だ。
「そうだな。話は、お前を捕らえた後にゆっくり聞くとするか」
俺はブランシュと並び、ネクロムと対峙する。
「私を捕らえると? では、私の魔導機兵イルジーオによる華麗な奇術を見破れますか? キヒヒッ」
ネクロムはそう言うと、両腕を天に掲げる。
タキシード風の装甲が光を放ち、イルジーオの姿が霞んでいく。
(量子ステルスか?)
『違う、マナの放出を感知したよ。魔導に関連した、なんらかの技術だろうね』
統合体の技術じゃない。ならば——
俺は即座にビットを展開し、索敵モードへ切り替える。
しかし、複数の角度から送られてくる映像を確認するが、奴の機体は映し出されない。
熱探知にも赤外線にも、反応はない。
なかなかに優れた隠蔽のようだ。
だが、ビットのセンサーが僅かな大気の揺らぎを探知した。
——そこか!
ビームライフルを構え狙いを定めた、その時。
その反応が複数箇所に広がっていく。
「一つ、二つ、三つ——どういうことだ!?」
「キヒヒッ。私の奇術、とくとご覧あれ」
『ルーク気をつけて! マナの収束を感知したよ』
ナイトの警告と同時に、何もない空間から俺をめがけて光弾が放たれた。




