36 ルーク、敵陣に乗り込む
格納庫へ到着すると、ガーディアンナイツの面々が慌ただしく動き回っていた。
重々しい機械音を響かせ、盾と剣を装備した魔導機兵が次々と外へ出ていく。
俺は隅に待機させておいたラグナに乗り込む。
動き出したラグナを見て、騎士たちが一瞬どよめく。だが、事前にアンジェリーナ様へ報告しておいたおかげで、大きな騒ぎにはならなかった。
入口から空を見上げると敵の星渡りは既に真上付近まで接近しており、側面のハッチから続々と魔導機兵が降下してくるのが見えた。
「一組織が、あれだけの数を用意できるものなのか? しかも、同じ規格で揃えられているな」
『魔導機兵の価格はわからないけど、この惑星の物価から推測すると相当な資金力がないと無理だろうね。それに……』
「生産力もだな。おそらくは、グリミアファミリーと同等、あるいはそれ以上」
それだけの資金力と生産力を併せ持つという一点だけでも、エクス・マキナという組織の巨大さが垣間見える。
そうしている間にも、次々と敵機が着地してくる。
地上では既に戦闘が始まり、地の利のある騎士団側が有利に戦況を進めているようだ。
「今のところ、こちらが押してるみたいだな」
『うん。でも数的不利はどうにもならないよ。何処かで均衡が崩れたら一気に押し込まれるだろうね』
確かに騎士団の魔導機兵乗りの練度は高く、一対一であれば負けることは無さそうだ。しかし、常駐部隊の大部分が王都の警備に派遣されている現状では、さすがの騎士団でも数の暴力には抗えない。
実際、優勢に見えた前線も、少しずつ綻びが見え始めている。
「よし、俺も参戦するぞ。まずは、押され始めているあそこを援護する!」
『了解だよ!』
ドットギアをシステムと完全に同期させる。
全身に巡る全能感を覚えつつ、こちらに短杖を向ける機体へ、ビームライフルを放つ。
大気中での減衰はあるものの、問題なく敵機を貫通する。
「ロックに大気圏仕様に調整してもらっておいてよかったな」
『そうだね。相手には悪いけど色々と調整した装備の性能テストをさせてもらおうよ』
ラグナをジャンプさせ上空から戦況を確認する。
こちらに向かって放たれた光弾を、脚部のスラスターを使って躱しつつ、ビームライフルを構える。
敵機を視界に捉え、ロックオンを示す四角いマーカーが重なるのを確認してトリガーを引く。
銃口が青白く光り、光条が放たれると途中で複数に枝分かれしてマーカーの付いた敵へと吸い込まれていく。
敵陣の中央に降り立つと、マテリアブレードを抜き放ち、こちらに向かってくる敵を薙ぎ払う。
「あれが、例の魔導機兵か!?」
「噂以上の戦闘力だ!」
袈裟に斬り裂かれた敵機が、火花を散らして崩れ落ちる。それを見たガーディアンナイツから、驚きと感嘆の声が上がった。
……だが、俺一人が暴れたところで、この数を捌ききれるわけじゃない。
ビットから送られてくる上空からの映像には、魔導機兵に加えて中型の自律型魔導機が大量に投入され、騎士団が苦戦している場面が映し出されている。
「あの自律型魔導機は厄介だな」
『うん。個々としての戦力は低いけど、あの数は脅威だね』
恐れを知らない無人兵器に数で攻められる恐怖は、戦闘が長引くほど兵士に精神的な疲労を蓄積させる。
統合体とガルムの戦闘においても、当初は死をも厭わないガルムの特攻に苦戦を強いられた。
現在では全ての兵士にドットギアが採用され、神経伝達物質の調整によって精神的な負担は軽減された。それでも、長時間の戦闘による身体への影響は無視できない。
「やっぱり元を潰さないと、厳しいな」
俺は敵の星渡りへの侵入を進言するため、アンジェリーナ様の元へと戻ることにする。
彼女が搭乗する魔導機兵「アルビオン」は白い装甲に赤いラインが入り、所々に金色の装飾が施されていて、一目で隊長機とわかる意匠だ。
その機体がシールドで攻撃を弾きつつ、剣で敵機を斬り伏せている姿が目に入った。
俺も敵機を撃破しながら近づくと、向こうもこちらに気づき動きを止めた。
「どうした、ルーク殿」
「上空から戦況を確認しましたが、このままでは危険です。そこで提案があるんですが」
俺は見て取った戦況を伝え、敵星渡りへの侵入を具申した。
「星渡りへの侵入か。しかし……ルーク殿だけを行かせるのは、貴殿の置かれている状況を考えると許可できない」
確かに、俺は一応まだ容疑者の身だ。
身柄を預かる彼女の立場上、単独での敵地侵入を認められないのは理解できる。
「アンジェリーナ様。でしたら、私が同行します!」
そこへ凛とした声が割って入る。彼女の護衛、セシリアだった。
「ルーク殿の言う通り、このままでは戦況は悪化する一方です。それにあそこまで辿り着ける機体は、現状アンジェリーナ様のアルビオンと私のブランシュだけです」
アンジェリーナ様はしばし黙り込み、それから硬い声で答えた。
「わかった、二人とも頼むぞ。だが無理はするなよ」
「ありがとうございます!」
「はっ! 必ず成果を持ち帰ってみせます!」
俺はスラスターの出力を上げ、一気に上空へ駆け上がる。
ブランシュが問題なく並走するのを確認して、敵の星渡りに向けて加速する。
見下ろすと、星渡りの上部に街はなく、人工的に整備された大きな窪みだけが広がっていた。
そして、その中央には数十機の魔導機兵が待ち構えている。
「なるほど、やはり想定はしているか」
「ルーク殿、どうするのです?」
「あの程度なら問題ありません。セシリアさんは上空の警戒をお願いします」
スラスターが青白い粒子を吐き出し、ラグナが加速する。
俺はビットを迎撃モードに設定し、敵機の中央に着地するとマテリアブレードを構える。
「ミズキ流、伍の形〈円月輪〉」
ラグナを囲む敵機が一歩近づく。しかし、その歩みはそこで止まる。
機体に一筋の剣閃が走ると、断たれた上半身がゆっくりと滑り落ち、次々と地面へ崩れ落ちた。
「さて、あまり時間も掛けられないんでな、一気に行かせてもらう!」
俺は残る敵機を確認し、マテリアブレードを握り直すと敵陣へ突撃していく。




