35 ルーク、再び対峙する
アンジェリーナ様が率いる東方騎士団、その本部のある星渡りへ連れてこられてから数日後、俺とノアは執務室に呼び出された。
ちなみに、ジェトスは長期間ファミリーを空けられないというので、事件の後、王都で別れた。
アンジェリーナ様の話では、今回の事件の首謀者はリンデガルドである可能性が高いという。
自分が騎士団長に任じられたことを快く思わない派閥のトップなのだとか。
そこまでわかっていながら、俺たちの力を借りる理由。
それは、俺の有用性を王国に示すためだ。
ランディがエクス・マキナに手を貸している可能性がある以上、俺への疑いを完全に払拭するのは難しい。
ならば討伐に協力させ、その働きをもって疑いを拭い去ろう——ということらしい。
「話はわかりましたけど、具体的に俺は何をやればいいんですか?」
「さきほどもお話ししましたが、まずは明日行うリンデガルドの聴取に同席してもらいます」
「俺がですか?」
「はい。あの男は私だけでなく貴方も目の敵にしています。憎む相手を前にすれば、平静ではいられないでしょう。……綻びは、感情の乱れから生まれるものです」
アンジェリーナ様に出頭を命じられた時の、リンデガルドの苦々しい顔を思い出す。
「なるほど、つまりはリンデガルドを精神的に追い込み、綻びを広げると」
「そして、現在諜報員を使って私が彼を事件の黒幕として糾弾するつもりだという噂を流しました」
そう言って微笑む彼女の目は、まったく笑っていない。
(……この人を敵に回すのは、やめておこう)
◆
翌日、俺は昨日話した通り、リンデガルドへの聴取に同席する。
部屋に入ってきたリンデガルドは、俺を見るなり怒りを露わにした。
「アンジェリーナ様、なぜ此奴がこの場におるのですか!」
「私は彼の身柄を預かった身。いつでも目の届く位置にいてもらうのは当然です」
「なっ!? そんな詭弁を!」
しかし、アンジェリーナ様はそれを無視するように話を続ける。
「今回貴方には、王都周辺の警備に当たらせていたはずです。なのに何故あの様な場所にいたのですか? それもあんなタイミングよく。あれではまるで事前に知っていたようではないですか?」
「そ、それは……」
リンデガルドが口ごもるが、返答を待たずに彼女は続ける。
「秘密裏に貴方の身辺を調査させていました。単刀直入に言いますが、私は貴方が今回の事件を企んだ張本人だと考えています」
「なっ! どこにその様な証拠が!」
すると、アンジェリーナ様は封筒に入っていた資料をテーブルに広げる。
その中には、二人の男が路地裏で密談している様子を写し取った映像記録や、片方の男がリンデガルドと並んでいるものがあった。
その男には見覚えがあった。リンデガルドの使いだと名乗って俺に接触してきた、マルマだ。
「ま、まさか!」
「ああ、たしかこの男。自分はリンデガルド様の使いだと言っていましたね」
俺が煽るように答えると、リンデガルドの顔がみるみる赤く染まる。
「き、貴様ぁ!」
「リンデガルド。なにか、弁明は無いのですか?」
「ぐっ……そ、それは……我は、ただ……」
アンジェリーナ様の追及に追い詰められたリンデガルドが、何かを言おうとした瞬間、突然表情が抜け落ち沈黙する。
「………………」
(……妙だな。あのリンデガルドが、どうして何も言わない?)
『ルーク、気をつけて。今一瞬だけど……リンデガルドから、ドットギアに似た反応を検知したよ』
(何だとっ! なぜ、この惑星の人間から反応が!?)
『微弱すぎて断定はできないよ。でも……ドットギアが作動した時のエネルギー反応に、とてもよく似てる』
「なぜ黙っているのです? 罪を認めるということでよいですか?」
「………………」
何も言わないリンデガルドに業を煮やしたアンジェリーナ様が詰め寄る。
「………………。キヒヒッ」
すると突然、リンデガルドが奇妙な笑い声を発する。
その声は確かに奴のものだ。だが、この独特の話し方を俺は最近聞いている。
同席していたアンジェリーナ様と護衛のセシリアも異変に気づいたのか、腰の剣の柄に手をかけ身構える。
「何者です! 貴方はリンデガルドなのですか?」
「キヒヒッ。直接お会いするのは初めてですね、アンジェリーナ様。私はネクロムと申します」
「エクス・マキナ!」
俺の叫びに呼応するように、セシリアが剣を抜き放つ。
「キヒヒッ。貴方は先日の魔導機兵乗りですね」
「ランディをどうした!」
「ランディ? ああ、あの者のことですか。もちろん元気にしていますよ。我々の仲間になるのなら、詳しく教えて差し上げますが? キヒヒッ」
ランディは生きている。だが、それは奴らの手の内にあるということだ。
安堵と焦燥が同時に押し寄せる。
俺が詰め寄ろうとするのを、アンジェリーナ様が制止する。
「お待ちなさい、ルーク殿。リンデガルドは、何者かに操られているのかもしれません。脅しても意味がありません!」
冷静さを欠いた俺の行動を咎めると、彼女はネクロムに問いかける。
「それで、貴方の狙いは何ですか?」
彼女の問いに、リンデガルドの顔がニヤリと歪む。
「奪われたものを返してもらうためですよ」
「まさか、バドラスですか!」
「キヒヒッ。残念ながら違います。あのような短慮の輩はもう必要ありません。星降の日、貴方がたが横取りした星の欠片。あれを返していただきに参りました」
その言葉を聞いて、アンジェリーナ様が僅かに動揺するのがわかる。
(星の欠片……アークの残骸か! それを、王国が回収していた?)
『この惑星の人たちには、そう見えるんだろうね』
その時だった。突然、扉から騎士が駆け込んできた。
「報告します! 北方より巨大な物体が、こちらに近づいてきます!」
騎士の切迫した表情に息を呑み、みなが一斉に窓の外を見る。
空を見上げれば、ひとつの大地とでも呼ぶべきものが浮かんでいた。
「キヒヒッ。やっと来たようですね。それでは、また後でお会いしましょう」
「待ちなさい!」
アンジェリーナ様が制止の声を上げるが、リンデガルドの身体は、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。
「あれはまさか……」
空を見上げたままの俺の呟きに、アンジェリーナ様が硬い声で答える。
「ええ、星渡りです。……よもや、あのような物まで持ち出してくるとは」
「アンジェリーナ様。王都の調査に当たらせていた魔導機兵を呼び寄せますか?」
ピクリとも動かなくなったリンデガルドを警戒しつつ、セシリアが尋ねる。
「いえ、今からでは間に合いません。至急、常駐の騎士を集めなさい」
「はっ、了解いたしました!」
セシリアが敬礼して、足早に部屋から退出していった。
「よりにもよって、部隊が出払っているこんな時に。まさか、王都の騒ぎも我ら騎士団を王都に引き止めるための布石だったと言うのですか……」
アンジェリーナ様は窓の外に浮かぶ星渡りを睨みつけ呟く。
「俺もラグナで出ますよ!」
「おお、お願いする!」
アークの残骸によって引き起こされた星降と呼ばれる事件。そこから続く一連の出来事にエクス・マキナがどこまで関わっているのか、そしてランディがなぜ奴らの側にいるのか。
その答えを必ず解明する。そう心に誓いラグナへと走る。




