34 ルーク、疑われる
ガディオンが突然消えたことで、ロイヤルナイツの動きが慌ただしくなる。
俺は数機の魔導機兵に包囲されたまま、ガディオンが消えた空間を見つめていた。
(ナイト、追跡はできているか?)
『途中までは追えていたんだけど……今はもう、探知範囲の外に出ちゃったよ』
(そうか……)
せっかくガディオンを見つけたというのに、結局なにも出来なかった。
ただランディが生きている可能性が高まっただけでも、大きな収穫だと思うことにする。
「さて、貴様の処遇だが……。エクス・マキナとの関係が疑われる以上、身柄を拘束させてもらう。大人しく機体から降りてもらおうか」
指示を出し終えたロイヤルナイツの指揮官が、俺にラグナから降りるように言ってきた。
『どうするの、ルーク?』
(ここは素直に従うさ)
ラグナの姿勢を低くさせてからコックピットのハッチを開ける。
俺が地面へ降りると、白い騎士服に身を包んだ威厳のある男が進み出た。
「儂はロイヤルナイツで副団長を務めているギルフォードだ。……貴様の名は?」
「ルーク。シルフィードファミリーのメンバーです」
ギルフォードの鋭い視線を真っ向から受け止め、俺は努めて冷静に答えた。
「それで、貴様は先程の機体を知っているのだな?」
「あの機体は間違いなく仲間のものです。ただ、操縦していた人物までは……姿を見たわけでも、話ができたわけでもないので、断言はできませんが……」
「ふむ、なるほど……」
ギルフォードが顎に手を当てて考え込み始めた時、横から乱暴な足音が近づいてきた。
額と右腕に包帯を巻いたその男は、憎悪を隠そうともしていない。
「ギルフォード副団長殿! お伝えしたいことがございます!」
「そなたは……確か、ガーディアンナイツのリンデガルド殿だったか。怪我は大丈夫なのかね?」
「この程度、問題ございません! それよりも、私めは此奴が我が国に入り込んだエクス・マキナのスパイではないかと進言します!」
「なっ……! ふざけるな!」
あまりの言いがかりに、俺は思わず声を荒らげた。
即座に、周囲の騎士たちが俺に短杖を向けてくる。
「俺はつい最近まで、エクス・マキナという組織の存在も知らなかったんだぞ!」
「ふん、怪しいものだ! そもそも、此奴はあの機体を仲間のものだと言っておるのです。徹底的に調査するべきですぞ、ギルフォード副団長殿!」
リンデガルドがいやらしい笑みを浮かべ、勝ち誇った表情を俺に向ける。
「ふむ……いずれにせよ、お前の潔白を証明する確証はない。一旦身柄を拘束し、詳しく話を聞かせてもらおう」
(これはまずいな……)
「お待ちなさい、ギルフォード副団長!」
背後から、女性の凛とした声が響き、ギルフォードを含むすべての騎士が、その場に跪いた。
「これは、アンジェリーナ殿下。……どうかされましたか?」
「その者については私が保証します。拘束は許しません」
「何を仰るのですか、アンジェリーナ様! 此奴はエクス・マキナの仲間ですぞ!」
焦ったリンデガルドが叫ぶ。
「貴方には話していません、リンデガルド! そもそも、今回貴方には別の任務を与えていたはず。なぜ命令を無視して、このような場所にいたのですか!」
「ぐっ……そ、それは……」
アンジェリーナ様の指摘に、リンデガルドが言葉を詰まらせた。
「恐れ入りますが、姫殿下。事件への関与が疑われる以上、身柄を確保し法に則って調査するのが我らの義務でございます」
ギルフォードは跪いたまま、毅然とした態度で答える。
「もちろん、それはわかっていますギルフォード副団長。ですが、この件は父上にも許可をいただいています」
「国王陛下に!? ……しょ、承知いたしました」
ギルフォード副団長が部下に指示して俺の包囲を解くと、アンジェリーナ様は申し訳なさそうな顔で、俺に歩み寄ってきた。
「ルーク殿、すみません。少しの間、貴方の身柄は私が預からせていただきます」
「わかりました、アンジェリーナ様」
◇
彼と知り合ってから、まだ日は浅い。
——父上から、あの者を見極めよと命じられたのが、そもそもの始まりだった。
星降の後、突如現れた得体の知れない機兵を操るよそ者。
その者が、あろうことか我らでも手を焼いていたバドラスの魔導機兵を、たった一機で撃破してみせた。
さらには、エクス・マキナの秘密施設でリンデガルドたち二人をも手玉に取ったという。
当然、最初は警戒すべき対象として近づいた。まあ、半分は噂の魔導機兵が見たかった、というのもあるのだけれど。
でも、いざ本人と接し、周りの反応を見れば、彼がエクス・マキナの関係者だとは到底思えなかった。もし私の見立てが間違っていたなら、それは私の人を見る目がなかっただけのこと。
部下に指示を出し終えると、私は苦々しい顔で黙り込んでいたリンデガルドを睨みつけた。
「リンデガルド。貴方には、今回の件を詳しく聞かせてもらうぞ!」
「……くっ、かしこまりました」
秘密裏に集めていた情報を照らし合わせれば、今回の事件にリンデガルドが関わっている可能性は極めて高い。
奴の部下が裏組織と接触しているという報告もあり、現在調査を進めていたところだった。未然に防げなかったのは痛恨だが、今度こそ逃さず証拠を掴んでみせる。
私はリンデガルドに後日の出頭を命じると、ルーク殿と一緒に会場の外へ向かった。
外では不安そうな様子のノアさんが、こちらに気づいて駆け寄ってくる。
「ルーク、大丈夫?」
「ああ、心配をかけたな」
「あの、アンジェリーナ様! ルークはどうなるんですか?」
心配そうな表情をした彼女を落ち着かせるように、私は優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。彼の身柄は私が預かることになりました。事件が解決するまでは監視が付きますが、彼の自由は保証します」
「よかった……」
彼女が胸の前で手を組み、ホッとした表情を見せる。
「ルーク殿の無実を証明するためにも、貴方にも協力をお願いしますね。ノアさん」
「はい、もちろんです!」
彼女が決意の籠もった瞳で力強く頷く。
「それでは、早速ですが私たちのホームへ招待しますね」
——エクス・マキナ。この借りは、必ず返させてもらう。
私は心のなかでそう呟き、奴らの討伐を誓った。
◇
「まずい、まずい、まずい!」
リンデガルドは逃げるように屋敷へ帰ると、自室に籠もって今回の窮地をどう切り抜けるか考えを巡らせていた。
本来の計画では、警備を任されたアンジェリーナ様の責任を追及し失脚させ、犯行を例の忌々しいよそ者になすりつける。
そして、我は王太子殿下の窮地に駆けつけ賊どもを蹴散らすはずだった。
にもかかわらず、あの機体はなんだ!?
我ら二機を、赤子の手をひねるようにあしらいおった。それも、あろうことかエクス・マキナだと名乗った。
裏組織の連中には大金を払って、証拠が残らないように魔導機兵を用意させ、スラムのチンピラ共を雇い、会場を襲うように指示を出した……なのに。
「なぜエクス・マキナなどが出てくるのだ! ふざけるなっ! 」
近くにあったテーブルを乱暴に蹴り上げたリンデガルドは、頭を抱えうずくまる。
あの時のアンジェリーナ様の顔は、明らかに何かを知っている——そう言っているように思えた。
「このままでは、我は終わりだ……」
その時、頭を抱えたままのリンデガルドに、そっと男が近づいた。
「キヒヒッ。突然の訪問、失礼しますよ」
「なっ、貴様は!」
「キヒヒッ。そのお悩み、私が解決して差し上げますよ」
紫と白の奇抜な服を着た、化粧をほどこした男は、リンデガルドを見下ろし、怪しい笑みを浮かべていた。




