33 ルーク、苦戦する
ラグナが突如として姿を現すと、場内に動揺が走る。
怒鳴り散らしていた王太子アリウスも、口をあんぐりと開けたまま驚きを隠せずにいる。
『ルーク、気をつけて。ガディオンの遠距離攻撃がないと言っても、今のラグナの状態だと厳しい戦いになるのは変わりないからね』
「ああ、わかってる」
コックピットに乗り込むと、体内のドットギアをラグナと完全に同期させる。
それはまるで、己の肉体が突然巨大化したかのような感覚だ。
「王太子殿下。今から少々暴れますので、すぐに避難をお願いします」
「なっ、誰だ貴様は!」
「彼は今回の主賓である、シルフィードファミリーの魔導機兵乗りです。アリウスお兄様!」
避難誘導を終え、王太子の元へ駆けつけたアンジェリーナ様が、俺の代わりに答えてくれた。
「……アンジェリーナか。あれが例の?」
王太子は顎に手を当て、少し考えると身を翻した。
「……まあよい、ここは一旦引く。案内しろ!」
護衛に守られ王太子たちが退避するのを確認し、俺は戦闘態勢をとる。
それを待っていたかのように、ガディオンが巨大なシールドを構えた。
招待客も避難し、静まり返った場内でガディオンと対峙する。
「……無事だったんだな、ランディ」
「………………」
やはり反応はない。俺の声が届いていないのか。
『やっぱり、外部からのアクセスを完全に遮断してるよ』
(それなら、……多少手荒な真似をしてでも、話を聞かせてもらうぞ)
『壊したらロックが怒りそうだけど、仕方ないね』
俺は鞘からマテリアブレードを抜き放つ。
ガディオンが装備するアブソーブ・シールドは厄介だ。
物理攻撃はもちろん、大抵のエネルギー攻撃さえ防いでしまう。ラグナのマテリアブレードでも、まともにぶつかれば、こちらが破壊される恐れがあった。
(ナイト。現状のラグナとガディオンの戦力差はどのくらいだ?)
『総合的な戦力なら五分五分かな。でも単純な出力だけなら、ガディオンの方が優勢だよ。真正面からは避けてね』
(遠距離攻撃がない状態でも五分か……)
ナイトからの情報を精査し、戦法を考える。
(とりあえず、向こうの出方を見てみるか)
俺は二機のビットと連携して、三方向から攻撃を仕掛ける。
ガディオンがシールドでビットの攻撃を防ごうとしたタイミングで、俺はその懐へ潜り込むと右手の関節部分へ斬撃を放つ。
だが、ガディオンの判断は速い。
マテリアブレードの方が危険と判断したのか、ビットの攻撃を無視して右手の電磁ダガーで俺の斬撃を受け止めた。
(なるほど、冷静な判断はできるか。だが……!)
俺はさらに腕の出力を上昇させる。
「どうするランディ! このままだと、そっちの電磁ダガーが先に使い物にならなくなるぞ!」
ランディもそれを悟ったのか、後方へ回避すると再びシールドを構え直した。
(さて、次はどう攻める。同じ戦法は通じないだろうな)
思案する俺の前で、ガディオンがシールドを前面に構えたまま前傾姿勢をとる。
(ん? 何をする気だ?)
すると、背中のバックパックが起動し、砲口がこちらを向く。
(おいナイト! 弾薬は残っていないはずだろ!?)
『そのはずだよ……ちょっと待って! 避けてルーク!』
その瞬間、バックパックの発射口が青白く光った。
「まずい!」
甲高い放電音とともに、一筋の閃光が走る。
俺は咄嗟に横へ転がり、ギリギリで射線を回避した。
「レーザー兵器……いや。まさか、魔導器か!?」
『うん、間違いない。マナの放出を確認したよ』
統合体の機体に魔導技術が組み込まれている——その事実に驚愕する。
これは明らかにランディ一人で、どうこうできるレベルではない。
背後に、何者かの支援があるのは確実だ。
(是が非でも、ランディに事情を聞く必要があるな)
だが、遠距離攻撃が使えるとなると、今の状態のラグナではかなり厳しい。
そこへ、ナイトから警告が入った。
『ルーク、センサーに複数の大きな反応! こっちへ近づいてきてるよ!』
(敵の増援か!?)
『わからないけど、もう時間がないよ』
どちらにしても、ここで介入されるのはまずい。
「おいランディ、聞こえてるなら返事をしろ! 隊長命令だ!」
——その時。ほんの一瞬だが、ガディオンの動きが止まった。
「聞こえてるんだろ、ランディ!」
「………………」
返事はない。だが今のは確かに、俺の声に反応した。
(ナイト。ラグナのリミットを解除しろ!)
『駄目だよ。そんなことしたら、ルークの身体が持たないよ!』
(それでも、やっとランディを見つけたんだ!)
『ごめんねルーク。やっぱりできないよ……』
(ナイト!)
『………………』
その時、上空から威圧的な声が響いた。
「我々はロイヤルナイツである。王太子殿下の命により参上した!」
「ロイヤルナイツだと……?」
空を見上げると、そこには金色を基調とした巨大な魔導機兵を先頭に、付き従うように十機以上の銀の魔導機兵が浮かんでいた。
「ふむ、王太子殿下の話では敵は一機だと聞いていたのだが?」
(マズいな。ここに来てロイヤルナイツか。このままじゃ、ランディを連れ戻すどころじゃない)
巨大な指揮官機が地面に降り立ち、他の機体もそれに続く。
俺は先頭に立つ指揮官機に交渉を試みる。
「俺はシルフィードファミリーのメンバーです。あのダークブルーの機体は行方不明になっていた仲間のものなんです。この場は、俺に任せてもらえませんか?」
「シルフィード? だとしても、我らに命令できるのは王族のみだ」
「そこをなんとか……!」
なおも食い下がろうとするが、五機の魔導機兵が進み出てラグナを囲む。
「従わぬと言うなら、力ずくで拘束させてもらうぞ!」
同様に残りの魔導機兵がガディオンを取り囲み短杖を構える。
『ルーク……』
(……ああ、わかってる。ここで抵抗すれば、ファミリーのみんなにも迷惑がかかる)
ここは素直に従うほかなかった。
「わかった、従おう。ただ、さっきも言ったが、あの機体は仲間のものなんだ。後で話だけでもさせてくれ」
「……よかろう。だが、それは向こうの出方次第だ。お前はそこで見ておれ!」
そう言うと、金色の指揮官機はガディオンへと向き直る。
「それで、そこのダークブルーの機体。お前の目的は何だ。王都へ無断で侵入し祝宴を混乱に陥れ、あまつさえ王太子殿下を危険にさらした罪は重いぞ」
「………………」
ランディは依然として沈黙を守っている。だが、今回は様子が違った。
ガディオンが片手をゆっくりと掲げると、その掌の上に突然、人影が現れた。
それは次第に輪郭を形成していき、紫と白の奇抜な服を着た、化粧をほどこした男へ姿を変えた。
「キヒヒッ。これはこれは、ロイヤルナイツの皆様、ごきげんよう」
「貴様、何者だ!」
ロイヤルナイツたちが一斉に武器を向ける。
その男の姿に、俺は見覚えがあった。ノアが言っていた、王都で人気の奇術師だ。
「キヒヒッ。私は世紀の大奇術師ネクロムと申します。以後お見知りおきを」
「その奇術師とやらがなぜここにいる! お前がこの騒ぎの主犯か?」
「キヒヒッ。我らはエクス・マキナ。皆様が我らを討伐すると息巻いていらっしゃったので、ご挨拶に伺ったまでですよ」
「なっ、エクス・マキナだと!」
ロイヤルナイツに緊張が走り、上空に無数の氷槍が生み出される。
「キヒヒッ。挨拶をしに来ただけと言ったでしょう。こちらの用事は済みましたから、私たちはこれで失礼しますよ」
「逃がすか! 撃て!」
「「「アイスジャベリン!」」」
一斉に氷槍が放たれるが、ガディオンのシールドに防がれ、無残に砕け散る。
「あの攻撃を防いだと!? 何だあの盾は!」
「キヒヒッ。それでは最後に、私の奇術をとくとご覧あれ! ――イッツァ・イリュージョン!」
その言葉とともに、ネクロムの姿が一瞬光りに包まれたかと思うと、次第に薄れて消えていく。
それに呼応するように、ガディオンもまた、ゆっくりと輪郭を溶かすように見えなくなっていく。
「……消えた!?」
「まさか、本当に奇術だとでも言うのか!」
騎士たちから驚きの声が漏れる。
(ナイト。あれは……)
『量子ステルスだね』
指揮官が慌てて攻撃を命じるが、放たれた氷槍は空を切り、背後の壁に突き刺さる。
後に残されたのは、無惨に破壊され大穴の空いた壁だけであった。
(待ってろランディ。次は必ず、連れ戻してやる)




