32 ルーク、再会する
「ランディ! 無事だったのか!?」
名前を呼んでみるが、沈黙したまま俺の声に反応を示さない。
それどころか、俺の存在にすら気づいていないようだ。
(おい、ナイト。あれは間違いなくランディの機体ガディオンだよな?)
『うん、機体番号を確認したよ。間違いない』
(じゃあ、なぜ応答しない?)
『わからないよ、完全にアクセスを遮断してるみたいだ』
アークとガルム艦の衝突により、行方不明となっていた隊のメンバーの一人、ランディ。
チームのムードメーカーで、戦闘においては攻守の要だ。
ラグナが対ガルムに特化した機体だとすれば、ガディオンは圧倒的な火力でもって盤面を覆すゲームチェンジャーと言える。
「おい、すぐに警備の魔導機兵を呼び寄せろ!」
そうこうしているうちに、周りには騎士が集まりだし、魔導機兵を呼び寄せるよう指示を出すのが聞こえる。
(マズいな。ここで戦闘になったら大惨事だ)
『機体の状況を調べたけど、損傷は軽微。幸いバックパックに弾薬は装填されていないよ』
(ガルムとの遭遇戦の際に、弾薬を使い果たしてたみたいだな。しかし、大気圏突入でほぼ無傷とは……さすがに頑丈な機体だ)
目まぐるしく変化する状況に会場は混乱を極め、我先にと入口に殺到する招待客により、怪我人が多数出ているようだ。
王太子が来ることで、防犯のために他の出入り口を封鎖したのが裏目に出てしまっている。
アンジェリーナ様も何とか混乱を鎮めようとしているようだが、パニックに陥った群衆を落ち着かせるのに手間取っていた。
「アンジェリーナ様! ここで、魔導機兵同士の戦闘になったら危険です! 全ての封鎖を解いて客を避難させて下さい!」
「それは、わかっているのだが……」
渋い表情でアンジェリーナ様が振り向いた先を見ると、王太子殿下がお付きの護衛となにやら口論をしているのが見える。
「殿下、ここは危険です! 早くこちらからお逃げください!」
「なぜ我が逃げねばならん! すぐにあの魔導機兵をどうにかせぬか!」
どうやら王太子の避難が確認できるまで、安全上の理由から封鎖を解けないでいるようだ。
しかし、その時だ。
轟音とともに封鎖されていた扉を蹴破り、会場周辺の警備にあたっていた魔導機兵たちが、会場内に突入してきた。
俺はその中の二機に見覚えがあった。
一機は右手に短杖を持った真紅の機体。そしてもう一機は背中に大剣を背負った黒の機体だ。
「王太子殿下。ここは私めのスカーレットにお任せください。即刻倒してみせましょうぞ!」
「よくぞ来たリンデガルドよ。すぐに、その逆賊を排除せよ」
「はっ! お任せください! ――おい、他の者は会場の外で敵の増援の警戒に当たれ。こやつの排除は、我とマルケスの二人で十分だ!」
二機を残し他の魔導機兵が会場から離れていくのを見計らい、スカーレットが短杖をかざす。
短杖の先端が光りだし、上空に巨大な黒いエネルギーの塊が出現した。
「絶望するがいい! ——シャドーボルト」
黒いエネルギーの塊が、ガディオンへ向かい迫る。
しかしその攻撃は、両腕に装備された巨大なシールドにより、あっさりと防がれてしまう。
「なっ、馬鹿な! 我のシャドーボルトを食らって無傷だと!」
(あのシールドを突破するには、あの程度の攻撃では無理だろうな)
『そうだね。あのアブソーブ・シールドは、ほとんどの攻撃を吸収しちゃうからね。飽和攻撃でもしない限り無理だよ』
「マルケス。奴の後ろに回り込め!」
「はっ!」
リンデガルドの命令で、黒の機体を操るマルケスがガディオンを挟み込むように位置取りする。
「同時に行くぞ! シャドーボルト!」
正面からはリンデガルド機がシャドーボルトを放ち、後ろからはマルケス機が大剣を振るい切りつける。
しかし、その攻撃も左右のシールドで同時に弾かれる。
直後。その衝撃で崩れかけていた天井の一部が崩落し、地響きを立てて粉塵を撒き散らす。
幸い近くに招待客は居なかったが、パニックに拍車がかかる。
「リンデガルド。まだ、招待客が残っています! こんなところで暴れてはいけません!」
アンジェリーナ様がリンデガルドに苦言を呈する。
「お言葉ですがアンジェリーナ様。此奴の排除は王太子殿下のご命令ですぞ」
「しかし!」
王太子の命令という言葉に、アンジェリーナ様もこれ以上どうしようもないのか、苦渋の表情を浮かべる。
「そんなことよりも、これは警備を任されたアンジェリーナ様の失態と言われても仕方ありませんぞ。それを私めが挽回して差し上げると言っているのですよ」
アンジェリーナ様の為だと言いつつも、リンデガルドの言葉からは明らかに貶めようとする意図が透けて見える。
「アンジェリーナよ、お前は邪魔をするでない! それよりも招待客の避難を急がせろ!」
「しかし、アリウスお兄様! くっ……わかりました」
王太子殿下からの命令を受け、アンジェリーナ様は唇を噛みしめながらも従うほかなかった。
(アンジェリーナ様には敵も多いと聞いていたが、リンデガルドもそちら側の人間なのだろう)
なら今は、少しでも被害を少なくすることに全力を尽くすほかない。
「アンジェリーナ様! 先程の突入で開いた入口からも招待客の退避を!」
「そ、そうですね!」
俺の言葉に頷き、すぐに招待客の誘導を部下に命じる。
ランディのことは気になるものの、今はみんなの避難が優先だと考え、ノアたちの元へ移動する。
襲撃してきた敵は既に全員が拘束され、床に転がされていた。
「俺たちも一旦外に退避しよう!」
「そうね。わかったわ」
全員が頷き避難の列に混ざり、会場の外へと退避する。
その間も会場内では戦闘が続いているようで、爆発音や金属がぶつかる音が聞こえてくる。
「ここはまだ危険だ。ノアたちは騎士団の指示に従って避難してくれ」
「ルークはどうするの?」
不安そうな顔で、ノアが尋ねてくる。
「俺はアンジェリーナ様に話があるんでな。……それに、あの魔導機兵は俺のはぐれた仲間の可能性が高いんだ」
「わかったわ。でも気をつけてね」
ノアたちと別れ会場へ戻ると、アンジェリーナ様へ近づく。
「お忙しいところすみません、至急相談したいことがあるのですが」
「ん、どうしたルーク殿? みなと一緒に退避したのではないのか?」
俺はアンジェリーナ様にランディのことを伝えた。
同郷の仲間である可能性が高いこと、リンデガルドではおそらく敵わないこと。そして、俺がランディを説得することを提案した。
「どことなく貴公の魔導機兵に似てると思ってはいたが、やはりそうなんだな。しかしな……」
そう言って、王太子の方を見る。
「わかっています。介入のタイミングは上手くやります」
「……なら任せよう。後のことは私に任せろ!」
「感謝します!」
俺はすぐにラグナを呼び寄せると、ランディとリンデガルドたちの状況を把握する。
傍目には一方的にランディが攻撃されているように見えるが、実際には相手にすらされていない。
「リンデガルドよ! 何をぐずぐずしておる! 早くせぬか!」
「はっ! 申し訳ありませぬ殿下。こんなはずでは、話が違……い、いえ、もう少しお待ちを」
王太子に叱責され、焦ったリンデガルドが口走りそうになった「話が違……」という言葉。その裏に、何らかの取引が透けて見える。
「ええい、もうよい! 我に歯向かったこと後悔するがよい!」
それと同時に、これまでよりも一回り大きな氷槍が幾つも上空に生まれる。
しかし、その氷槍が放たれることは無かった。
次の瞬間。
スカーレットの短杖を持った腕が宙を舞い、マルケスの黒い機体が持つ大剣が根元から折れて地面へ突き刺さる。
「ぐあっ、貴様! 何故だ……?」
「リンデガルド様大丈夫ですか!? どういうつもりだ貴様!」
ガディオンは二人の抗議を無視して、腰から電磁ダガーを抜きスカーレットの胸部に突き立てる!
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」
会場内に響き渡るリンデガルドの断末魔にも似た絶叫。
そして、そのままスカーレットが力なく崩れ落ちる。
「リンデガルド様!! おのれよくも!」
マルケスが折れた大剣を捨てると、胸部にはめ込まれた丸い魔導機が赤く光りだす。
(あれは確かデボン山で使っていた……あいつ、周りの被害もお構いなしか!)
「くらえ! ――グラウンド・ノヴ……ぁが……がぁぁぁぁっ!!」
ガディオンが、マルケス機の胸部に反対の手を突き入れる。
そして、赤く光る魔導機を引き抜き、握りつぶした。
「なにをやっておる! この役立たずが! ……っ!?」
王太子が不甲斐ない二人に対して罵声を浴びせる。
しかし、続けて何かを言おうとして言葉が止まる。
ガディオンが、うるさいとでもいうように王太子を振り返ったからだ。
「き、貴様! 刃向かうつもりか! わ、我は王太子であるぞ! 」
王太子が震えた声で虚勢を張る。
「殿下お下がりください!」
護衛が王太子を庇うように前に出て剣を構える。
しかし、生身で挑むのはあまりに無謀だ。
(……まずいな)
その時。ナイトから報告が入る。
『ルーク。ラグナが来たよ!』
直後。崩れた天井の隙間からラグナが会場へと降り立ち、舞い上がった砂煙が月明かりに照らされ煌めいた。
(――待たせたな、ランディ。色々と聞かせてもらうぞ!)




