31 ルーク、騒動に巻き込まれる
まさに豪華絢爛という言葉が相応しい光景が広がっていた。
天井には巨大なシャンデリアが煌めき、黄金色に飾り立てられた会場内を照らしている。
会場に一歩踏み入れれば、足元から伝わる絨毯の柔らかさと、そこから舞い上がる金色の光が室内を彩る。
会場内には、すでに沢山の招待客が到着しており、それぞれ思い思いに歓談を始めていた。
「二人とも来たか」
会場に圧倒されて立ち止まっていた俺たちに、ジェトスが声を掛けてくる。
その後ろには、メルキオールさんとミラさんもいた。
「おいおい、なんだよその服は。どこぞの貴族様かと思ったぜ」
俺の服を珍しそうに見ながら、ジェトスが茶化してくる。
「それ、何度も言われましたよ……」
「しかしお前、本当は貴族とか言わないよな?」
「違いますよ。これは俺の国の軍で支給される礼装用の軍服です」
「ちょっと、お父さん。まずは、娘の格好を褒めるべきじゃないの?」
「おう、似合ってるぞノア」
おざなりなジェトスの返事にノアが怒っているのを尻目に、会場内では招待客たちが俺の方を注目しているのに気づく。
「あの殿方は、どちらの家の方かしら?」
「見たことのないお顔ですね。貴方は知っておいでですか?」
「いや、存じませぬな。それにしても、あの服はどこの店の物であろうか」
ドットギアで強化された俺の耳に、そんな話し声が聞こえてくる。
「それより、会議の方は無事に終わったんですか?」
「ん? まあな。バドラスの逮捕に拠点の発見という功績を皮切りに、各ファミリーやギルド、それに民間から情報を募集して、有益な情報提供者には報奨を出すことになった」
「なるほど、だけど今までも情報は集めてたのでは?」
確か以前から情報提供は受け付けていると聞いていたので、疑問に思い聞いてみた。
すると、ジェトスの後ろに控えていたメルキオールさんが、代わりに答えてくれる。
「そうなんだけどね。今までは無報酬で、義務だったんだよ。あまり大きな声じゃ言えないけど……前任の騎士団長が出し渋ってただけ、ってのが真実みたいでね」
「なるほど、それが今回騎士団長がアンジェリーナ様に代わったことで改善されたと」
「そうだね。でも特権意識の強い者たちの中には姫殿下を疎ましく思う輩も少なくないって噂なんだ」
そこで思いつくのは、商人のマルマ。そして、その雇い主のリンデガルドのことだ。
「とは言え、国民からのアンジェリーナ姫殿下の人気は凄いから、表立って文句も言えないってところかな」
(なるほど、それは相当鬱憤が溜まっていそうだな)
会場内を見渡しアンジェリーナ様を探すと、会場警備の任務中だと言うのに沢山の招待客から声を掛けられ、少し困ったように対応しているのが見えた。
それを見る限り、敵も多いが味方も多いということらしい。
パーティーが始まるまでは楽にしているように言われ、ノアと二人で壁際の椅子に座り時間を潰す。
時間になると司会者の声とともに、会場のライトが暗くなり舞台がライトアップされた。
すると、進行役が一歩、前へ出る。
「皆様、御静粛に」
ざわめきが鎮まっていく。
「本日この佳き宴、栄えある御方をお迎えいたしております」
司会者は、ひと呼吸を置いた。
「この度の宴の主催者である、陛下の名代としてアリウス王太子殿下がおいでくださいました。――殿下、御前に」
広間中の視線が、一斉に壇上へと集まった。
そこへ左右を二人の騎士に護衛された、若い男性が姿を現す。
「本日は陛下の名代として、この我より言葉を授ける」
見下ろす視線が、ゆっくりと列席を見渡す。
「いまだ外には危険が絶えず、夜は長い。この国が今日も平穏なのは、我ら王家の威光があってこそだ。貴殿らもそれを忘れず、励むがよい」
ふっと、口の端が上がる。
「今宵は我の慈悲により、剣を置くことを許そう。存分に味わうがいい。――そして明日からはまた王国の為に励め。乾杯!」
杯が、高々と掲げられた。
「「「王国の繁栄と国王陛下のために。乾杯!」」」
招待客も一斉に杯を掲げる。
それと同時にシャンデリアが点灯し、会場を明るく照らす。
すると、会場内に次々と食事が運ばれてくる。
その中でも一際目を引いたのは、頭に角の生えた四本脚の獣を一頭丸焼きにした料理だった。
「あれは?」
「シーモ焼きね。一頭丸ごと焼くのは、祝いの席で最上級のおもてなしとされているわ」
担当者が最初の肉を切り取り、王太子殿下の元へ運ぶ。
それを皮切りに、招待客たちもシーモの丸焼きに集まる。
「どんな味なんだろうな。俺たちも、もらいに行こう」
シーモ焼きの列に並び順番を待つ。
香ばしい匂いと、スパイシーな香りが食欲をくすぐる。
「楽しみだ……な!?」
その刹那、何かが視界を横切った。
俺を掠めたそれは天井のシャンデリアを破壊し、破片を撒き散らす。
舞い落ちる破片が光に照らされキラキラと煌めく中、会場に怒号と悲鳴が響き渡る。
「きゃぁぁぁ!」
「な、何ごとだぁ!」
「王太子殿下をお守りしろ!」
即座に警備の騎士団員が王太子を中心に防御態勢をとる。
シャンデリアが破壊され、薄暗くなった会場内で剣がぶつかる音が聞こえてきた。
振り向けば、会場の入口から覆面を被った集団が流れ込み、騎士団員と交戦中だ。
警備に当たっていたアンジェリーナ様も、混乱した招待客を護衛しつつ覆面集団と戦っている。
「ノア! 大丈夫か?」
「うん。何が起こってるの?」
「さあな。ただ、サプライズにしては趣味が悪い!」
俺は会場内を見渡し状況を確認する。
王太子は護衛に守られ問題ない。招待客が我先にと入口に殺到するが、戦闘により足止めされている。
「会場から出さないつもりか。さて、武器は持ってきていないし、どうしたものかな」
「ルーク、どうしよう? 私も戦うよ!」
ノアを見れば、真剣な表情で周囲を警戒しながら戦闘態勢をとってはいるが、武器もないうえにヒールの高い靴を履いている。
「いや、その格好で戦闘は無理だ。まずはジェトスたちと合流しよう」
ジェトスは俺たちと壊れたシャンデリアを挟んで、ちょうど反対側で敵と対峙しているところだった。
「あっちだ!」
俺はノアを両手で抱き上げると、地面を蹴って壊れたそれを飛び越える。
「むっ! ルークか。それにノアは大丈夫なのか!? 顔が真っ赤だが?」
「ジェトス! ノアを頼む」
俺はノアをジェトスに任せると、対峙していた敵に突撃する。
相手は急に乱入してきた俺を見て動揺しているようだ。
集団の懐に飛び込み、敵の一人に掌底を放つ。
「ぐっ……がはっ」
敵が膝から崩れ落ちるのを横目に、次の敵へ蹴りをお見舞いする。
「くそっ! 何だこいつは!」
それを見た一人が斬りかかってくるが、身体をずらして避ける。体勢を崩したところへ、膝蹴りをみぞおちに叩き込む。
そのまま、剣を奪い——
「ヒッ! やめ……っ」
その流れで、残りの三人を当て身で沈める。
「戦い慣れてはいるが、訓練されたものではないな。ごろつきってところか」
「さすがだなルーク」
相手の能力を分析していると、後ろからジェトスが声を掛けてくる。
「こいつらプロじゃないな」
「だが、そのへんのごろつき共が、こんな場所を襲うとは思えないんだがな」
「まあ、そのへんは俺にもわからないけど。とりあえず他の場所も、そろそろ片付きそうだな」
見渡せば、突然の襲撃で最初こそ混乱していた会場も、騎士団の働きによって収束しつつある。
「アンジェリーナ様の方も、そろそろ終わり……!? な、あれはっ!」
——それは突然現れた。屋根を突き破り会場の中央に降り立つ。
「あれは!?」
その機体は、ダークブルーのボディに赤く光る単眼、両手に巨大なシールドを装備し、背中には二基のバックパックを背負っている。
「な、まさか。ランディ!!」
そう、それは紛れもなく、俺のチームメンバー――ランディのアーマードギア、AG-α269〈ガディオン〉だった。




