29 ルーク、王都を散策する?
アンジェリーナ姫は、俺たちをホテルに案内すると任務があるからと言って帰っていった。
俺は荷物を部屋に置くと、パーティーまでは特に予定もないため、王都を探索することにする。
そのことをノアに話すと、案内してくれるというのでお願いした。
どこへ行きたいかと尋ねられたものの、何も知らない俺が考えあぐねていると、ノアがおすすめの場所があるというので、その提案に乗る。
街を歩くことしばらく、大きな広場に人だかりができているのが目に留まった。
「あれは、何をやってるんだ?」
「ファミリーへの入団試験の告知じゃないかな?」
どこにも所属していない無所属の冒険者は、定期的に行なわれるこういった募集に応募して入団するのだとか。
みんな真剣な顔で、説明を聞いている。
「でも、ここまでの人だかりは、珍しいんだけどね」
少し興味が湧き、人だかりに近づくと、一段高くなった台の上で、三人の男女が大きな旗を掲げていた。
そこには、盾と剣が組み合わさった紋章が描かれている。
「なるほどね」
「何が、なるほどなんだ?」
一人で頷いて納得しているノアに聞いてみる。
「人だかりの原因がわかったわ。ルークも、王都に着いた時に見てるはずよ?」
王都に着いた時に見たといえば……そう言われて思い出した。
「もしかして、ガーディアンナイツか?」
「そうよ。今までは一般から募集なんてしなかったんだけど、団長がアンジェリーナ様に代わってから、定期的に募集されることになったの」
「じゃあ、今まではどうやって団員を集めてたんだ?」
「それはもちろん、推薦でよ。いわゆるコネってやつね」
なるほど、王国最大のファミリーの、それもエリート集団ともなれば、募集の必要もないわけか。
「なら、なんで募集なんか始めたんだ?」
すると、ノアが顔を近づけて小声で話しかけてくる。
「あまり大きな声じゃ言えないけど、推薦枠を得るために結構な額のお金が動いてたらしいの。で、それを嫌ったアンジェリーナ様が、風通しをよくしようと始めたって噂ね」
組織の淀みは停滞を招き、やがて信頼の失墜や機能不全を引き起こす。
「よく聞く話だな」
「ルークの国でもそうなの?」
「昔はな。今はそうでもない」
現在の銀河統合体では、基本的に貧困はない。未だ格差はあるが、誰にでも平等にチャンスが与えられている。
「へえ、そうなんだ。良い国なんだね」
ノアが感心したように頷く。
広場を後にして向かったのは、小洒落た店構えの食堂だった。
「ここのお店、前に来た時に見つけて入ってみたかったのよね」
入口のドアを開けると、「カランッ」という鈴の音が俺たちを迎える。
「いらっしゃいませ! 空いている席へどうぞ」
奥から小柄な女の子が、こちらへ声をかけてきた。
店内は、お昼時を過ぎているせいか所々空席があり、俺たちは王都の街並みが見える窓際の席に腰掛けた。
「メニューをどうぞ。本日は新商品のこちらがオススメですよ」
そう言って勧められたのは、いわゆるフルーツパフェだった。
「こちらを、お二人で食べるのがカップルの間で人気なんですよ」
店員の少女がそう言って微笑む。どうやら俺たちの関係を勘違いしているようだ。
先程からノアも、チラチラとこちらを見て恥ずかしそうにしている。
(いや……もしかして食べたいのか?)
「これがいいのか?」
俺がそう聞くと、顔を赤くして小さく頷く。
「じゃあ、このフルーツパフェを一つ。それと、俺はこのカフィ(コーヒーのような見た目の飲み物)を。ノアは飲み物はどうする?」
赤い顔で嬉しそうにしていたノアが、小さな声でつぶやく。
「私も同じのを。ミルク多めで……」
「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
そう言って、店員の女の子は厨房へ向かって行った。
料理が届く間、街並みを眺めつつ、次に行く場所を話す。
ノアは、これまで一人では入りづらかった魔導機の店や、最近流行っている人気の奇術師のショーを見たいという。
「魔導機の店はわかるが、奇術師ってのは何だ?」
「それがね、人を一瞬で消したり魔導機に乗らずに空中を飛んだりするらしいの」
そう言って、一枚のチラシを見せてくる。
そこには紫と白の奇抜な衣装を着て、楽しそうに空中に浮かぶ男の姿が描かれていた。
(なるほど、マジックショーね)
「それは、面白そうだな」
「でしょ!」
そうこうしているうちに、店員がフルーツパフェを運んできた。
「大きいな……」
「大きいね」
それがパフェを見た最初の感想だった。
「ゆっくり、お召し上がりください」
そう言ってニッコリと微笑む。
ノア一人で食べるものだと思っていたが、これはさすがに無理ではないだろうか? そう思って、ノアを見ると助けてくれという視線を向けてくる。
「俺も甘いものは嫌いじゃないしな」
「うん!」
そうして二人でパフェをつつく。
「甘くておいし〜」
「そうだな、そう言えば甘いものは久しぶりだ」
この惑星に不時着して食べた甘いものと言えば乾燥させたフルーツと、おやつとして出されるクッキーのようなお菓子くらいだった。
美味しそうに食べるノアの幸せそうな顔を見て微笑ましく思っていると、ノアと目が合った。
「ちょ、ちょっと。そんなに見られてたら恥ずかしいでしょ」
「ああ、悪い悪い」
俺は無意識に見つめてしまっていたことを、素直に謝罪する。
そうして、カップルごっこのようなことをしながら過ごしていると、後ろから声を掛けられた。
「おや、貴方たちも来ていたのだな」
肩口まで伸びた銀髪に、左右の色が違うオッドアイ。
その、金と青の瞳がこちらを興味深げに見下ろしていた。
「えっ?! アンジェリーナ様!」
ノアが、びっくりして声を上げる。
「二人で楽しんでいる所悪いな。私も一緒にいいかな」
そう言って、ノアの隣に座る。
その後ろには、二人の女性が立ったまま、周りを警戒している。
私服を着ているが、おそらく護衛騎士だろう。
「アンジェリーナ様は、任務だと言っていませんでしたか?」
「ああ、もちろん急いで終わらせてきたぞ! もう待ちきれなくてな」
そう満面の笑みで微笑む。
「ええと、何がそんなに待ちきれないので?」
俺は嫌な予感を感じつつ聞いてみる。
「もちろん、貴殿の魔導機兵を見せてもらうことに決まっているだろう?」
まるで、何を当たり前のことを聞いてくるんだ? という感じだ。
(はぁ、わかっていたけどな……)
俺は内心でため息をつく。
「急いで任務を終わらせてホテルへ戻ったら、すでに出かけてしまったと言うではないか。がっかりして、ヤケ食いでもしようとここに来てみたのだが、運が良かった」
「ゴホン」
その発言に、後ろに控えていた護衛が咳払いをする。
「べつに今は任務中ではないのだから、いいではないか」
「はぁ、殿下。いつも言っているではないですか。任務外であっても……」
「わかったわ、セシリア。本当にお主はメイド長に似てきたな」
「殿下!」
護衛の女性が大声を出すものだから、完全に注目されてしまっている。
「アンジェリーナ様。ここではゆっくりお話も出来ませんし、場所を変えませんか?」
俺の言葉でセシリアが自分のミスに気づき、気まずい顔になる。
「そうですね、実はわたしもそのフルーツパフェを食べてみたかったのですが、今度の機会にします。それよりも今は魔導機兵ですね。さあ、早く行きますよ!」
そう言って、俺の手を掴むと歩き出す。
助けを求めようと護衛のセシリアに目線を送るが、逸らされた。
(この役立たずが!)
心のなかで毒を吐く。
王女に手を握られ引きずられる俺を見て、住民たちが好奇の目を向けてくる。
(何か新しい場所に来ると、何故いつもこうなるんだ……)
俺は内心で愚痴をこぼしながら、引きずられるように直行便の発着場に連行されていく。
「直行便はグリミアファミリーの所有物ですし、一応許可を取らないと……。なので、またの機会にしませんか?」
「安心してください。許可は取ってありますよ」
既に退路は塞がれていたようだ。
それからのことは言うまでもなく、当然のように質問攻めだった。
そして、やっと解放された時には日が傾き王都を夕日がオレンジ色に染め上げていた。




