28 ルーク、姫騎士に出会う
王都へ近づくにつれ、その光景に圧倒される。
森が途絶えたかと思えば、どこまでも続く広大な草原が広がり、所々に村と言える規模の集落が点在している。
野生動物が野を駆け、それを追う狩人の姿も見える。
冒険者が大きな魔獣を数人で囲んで討伐していたり、少し離れた街道では、魔導機兵の隊列が規則正しい歩調で移動していたりする。
「おはよう。ルーク」
「ああ、おはようノア。しかし、この景色は凄いな」
「そうでしょ。私も何度か見てるけど、毎回驚かされるわ」
直行便の甲板の手すりに掴まり、ノアと二人で眼下の景色を眺める。
「ほら、あそこを見て」
ノアが、草原をゆっくりと移動している星渡りを指さす。
「あの大きな湖のある星渡りが、ガーディアンナイツの本拠地よ」
「騎士団ごとに星渡りを運用してるのか?」
「そうよ。レガリスファミリーは規模が大きいからね。ガーディアンナイツは東西南北で、それぞれの星渡を運用してるの」
ノアが言うには、レガリスファミリーは合計七つの星渡りを運用しているとのことだ。
「ちなみに、あの星渡りは東方騎士団のものだから、アンジェリーナ様の騎士団ね」
その星渡りには中央に大きな湖があり、湖畔には白い砦が建っている。
砦の周辺を、白に赤いラインの入った魔導機兵が、隊列をなして移動しているのが見えた。
「あっ、そろそろ王都が見えてきたよ」
ノアの声で前方に目を向けると、朝日に照らされて輝く巨大な都市が見えてきた。
中央にそびえる塔は、頂上が雲に引っかかってよく見えないほど大きい。
「あの塔は、かなり高いんだな」
「うん、あそこの頂上に国王様がいらっしゃるの。だから、塔の上を飛行するのは禁止されてるから、気をつけてね」
ノアと話しながら、王都の街並みを眺める。
直行便は次第に高度を下げながら、王都の端にある発着場へと近づいていく。
やがて、わずかな揺れとともに発着場へと着陸した。
「足元にお気をつけてお降りください」
係員の指示に従いタラップを降りると、軍服のような正装を纏い、腰に剣を携えた兵士が整列して俺たちを出迎える。
王国からの招待客だけあって、貴賓扱いということだろう。
その中から一人の女性兵士が歩み寄り、俺たちを移動用の魔導機へ案内してくれるようだ。
「長旅お疲れ様でした——ようこそ王都へ。それではホテルへご案内しますので、どうぞこちらへ」
すると、一番前を歩いていたメルキオールさんとミラさんが、案内役の女性兵士に跪く。
それに続いて、ジェトスとノアも跪く。
(どういうことだ?)
突然のことに何ごとかと考えていた俺の袖を、ノアが引っ張る。
「アンジェリーナ姫殿下よ」
俺も慌てて跪く。
「アンジェリーナ姫殿下、御自らのお出迎え、恐悦至極に存じます」
「そんなにかしこまる必要はありませんよ。今の私は、貴方がたの案内役として来ているのですから」
アンジェリーナ姫はそう言って微笑むと、俺たちを立ち上がらせる。
「それでは、こちらにお乗りください」
全員が割り振られた魔導機に乗り込むと、静かに動き出す。
「…………」
(うん。……気まずい)
隣のノアを見ると、緊張でガチガチになっている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。気楽にしてください」
俺たち二人の前には、なぜかアンジェリーナ姫が座っている。
「え、あ、はいっ!」
「姫殿下もそう言ってくれてるんだし、少し力を抜けよ」
「ち、ちょっとルーク! 姫殿下に対して不敬よ」
俺たちのやり取りを見ていたアンジェリーナ姫が口に手をやり、くすりと笑う。
その姿には、さすが王族と思わせる優雅さがあった。
「あの、姫殿下。質問をしてもいいですか?」
「どうぞ。でも、姫殿下じゃなくて名前で呼んでください。騎士団の任務中は、そうしていますので」
「わかりました。それで、お聞きしたいんですが……なぜアンジェリーナ様が、俺たちの案内役を?」
普通に考えて、いくら騎士団の任務とはいえ、組織のトップが、それも王族がわざわざやるような役目ではない。
「それは、貴方に興味があったからです」
「俺にですか?」
「ええ、エクス・マキナの魔導機兵を倒し、さらにはリンデガルドたちを手玉に取ったと聞きましたよ」
そう言うアンジェリーナ姫の瞳は、「興味があります!」とでも言うように、キラキラと輝いている。
この感じ……なぜか、ジェトスの姿が脳裏に浮かんだ。
(まさかと思うが、この姫さん、魔導機兵マニアか?)
「えっと、もしかして魔導機兵がお好きなんですか?」
俺がそう言うと、アンジェリーナ姫は「待ってました!」と言わんばかりに身を乗り出してくる。
「え!? ちょ、ちょっと」
(近い近い。こんなところを誰かに見られたら、不敬罪で捕まりそうだ)
「こほん。少し取り乱してしまいました」
姫は、すまし顔で何もなかったように振る舞うが、少し顔が赤い。
「今は直行便のハンガーに格納していますので、よろしければ今度、見学されま……」
「ぜひ!」
姫が、食い気味に返事をする。
その様子を隣で見ていたノアも、目を丸くしている。
「え、えっと。こほん。失礼しました」
取り繕おうとしても既に遅いと思うが、表情に出さないようにする。
(まったく、この惑星は魔導機ファンばかりなのか?)
それからは、アンジェリーナ姫の質問攻めだった。
「最高速度はどのくらい出るの?」「飛行距離は?」「武装は?」といった具合だ。
さすがに、何もかも正直に話すわけにもいかないので、言える範囲で答えておいた。
しばらくすると、魔導機が停車する。
「着いたようですね。こちらが、今回ご宿泊いただく施設です」
案内された建物は、地上数十階はあろうかという高層だった。エントランスを抜けると、最上部まで貫く吹き抜けになっていて、遥か頭上に青空が見える。
「ルーク。すごいね!」
「ああ」
いつもの調子を取り戻したノアが、感嘆の声を上げる。
「ここに、私たちが泊まるんだ……」
「前に来た時は違うのか?」
ノアは以前にも、ジェトスのお供で王都に来たことがあると言っていたから、聞いてみたのだが。
「違うに決まってるでしょ! こんなホテルに泊まれるのなんて、高位貴族か大商会くらいよ!」
つまり、今回は王国側が相当奮発したということだ。
俺は、こちらの様子を笑顔のまま見ている姫へと視線を向ける。
アンジェリーナ姫は俺の視線に気づくと、口を開く。
「今回、シルフィードファミリーとグリミアファミリーの方々には、当騎士団員がご迷惑をおかけしました。これは、そのお詫びです」
なるほど、王国側じゃなく騎士団側の配慮か。
「それに……実は私も、このホテルに泊まることになっています」
そう言ってニコリと微笑む。
俺は、これから起こるであろう質問攻めのことを考え、頭を抱えるのだった。




