27 ルーク、王都へ出発する
シルフィードから王都へは、グリミアファミリーで直行便に乗り換えてから向かう。
グリミアファミリーは規模こそ小さいものの、魔導機職人ファミリーとして王国全土から依頼が舞い込むため、王都への直行便が運行されているのだとか。
グリミアに到着した俺とノア、そしてジェトスの三人は、待っていてくれたグリミアの団長メルキオールさん、そしてミラさんと合流する。
二人も今回の会議にも招待されているとのことで、一緒に向かうことになっている。
直行便の見た目は、多翼のクジラようで、側面にオールの様に羽が並ぶ形状だった。船内は長時間の旅を考慮して、個別の客室はもちろんレストランや娯楽施設まで完備していた。
「メルキオール殿。今回は世話になる」
ジェトスがメルキオールさんと言葉を交わす横で、俺とノアはミラさんと今後のスケジュールを話していた。
王都までは、順調に行けば七日の旅になるらしい。
十日後の会議には、余裕を持って到着できるスケジュールだ。
「エネアは迷惑をかけていませんか?」
「うちの整備士と上手くやっていますよ」
実際にはロックからクレームが上がっているが、あえて今言う必要もないだろう。
(まぁ、大したことでもないしな)
『もう、他人事だと思って』
ナイトが呆れているが、気にしない。
「それと、毎度のことですが……本当にすみません」
そう言って、ミラさんが深々と頭を下げてくる。
何のことかと言えば、今回王都に向かうにあたり、ラグナを直行便の倉庫に格納させてもらったところ、職人たちが騒ぎ出したからだ。
「まぁ、こうなることは予想できましたし。見るだけなら問題ありませんよ」
俺の言葉に、ミラさんは申し訳なさそうな表情をする。
「そう言えば、ジュドー工房長からガーディアンナイツとの事を聞きましたけど、一応、気をつけてくださいね」
「何かあるんですか?」
その質問に、ミラさんが声を落とす。
「実は、真紅の機体に乗っていたリンデガルドという貴族なのですが、特権意識が強く、これまでにも色々と問題を起こしているんです」
「問題ですか……でも、なぜそんな男がガーディアンナイツに? 精鋭集団だと聞いていますけど」
「もちろん、ほとんどの団員は優秀な人物ばかりなんですが……」
そこで、ミラさんは少し言い淀み、慎重に言葉を選んだ。
「実は、数年前に前当主が戦死なさいまして……その後を継いだのが現当主のクリストフ・リンデガルド様なのですが、あまり良い評判がなく……一言で言えば、自尊心の塊のような人物だ、というのがもっぱらの噂です」
なるほど。確かに、少し話しただけだが、尊大で他人の話を聞かない男だと感じた。
普段の行いが想像できるな。
「それと、これも噂なのですが……今回のバドラスの件、元々は彼が討伐を命じられていたそうなのです」
(なるほど、だからあの場にいたのか。つまり手柄を横取りされたと逆恨みでもしている、ということか)
「わかりました。できるだけ近づかないように気をつけます」
まあ、そんな奴に好き好んで近づく者もいないだろう。
俺は情報提供に礼を言い、ノアとともに自室へ戻ることにした。
しかし、その途中で声を掛けられる。
「シルフィードファミリーのルーク様でいらっしゃいますか?」
その人物は、見るからに高級そうな服を着た、小太りの中年男だった。
「そうだが、そっちは?」
「申し遅れました。私は王都で商いをさせていただいております、マルマ商会のマルマと申します」
マルマはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、揉み手で近づいてくる。
その様子に、ノアが俺の袖を掴み、後ろに隠れるように一歩下がる。
「おや、そちらのお嬢様はルーク様のこれですかな?」
そう言って小指を立て、値踏みするような目でノアを見る。
まったく、下品な男だ。できれば関わり合いたくない手合いだ。
「疲れているから、部屋に戻るところだったんだが」
「これは失礼しました。ですが、それほどお時間は取らせません。貴方様にとっても、聞いておいたほうが良いと存じますが」
その言葉を無視して部屋に戻ろうとすると、俺たちの前に回り込み、マルマが両手を広げて通路を塞ぐ。
「どういうつもりだ。こっちは疲れていると言ったはずだが」
「本当によろしいので? 当商会はガーディアンナイツの、とある高貴なお方とも懇意にさせていただいておりまして……その御方からのご用件なのですがね」
マルマはそう言うと、勝ち誇ったように、いやらしい笑みを浮かべた。
(高貴なお方……か。虎の威を借るなんとやら、だな)
「はぁ……なら、ここで話せ。何度も言うが、こっちは疲れてるんだ。簡潔にな」
「……チッ」
こいつ舌打ちしやがった。
「では、単刀直入に申します。貴方様の魔導機兵を、ガーディアンナイツへ提供していただきたい」
「なんだと!? ふざけてるのか!!」
あまりのことに、思わず声を荒げてしまった。
「ヒッ!」
強力な後ろ盾のある自分に逆らわないとでも思っていたのか、俺の剣幕にたじろぐマルマ。
しかし、すぐに顔を赤らめ、怒りの表情を見せる。
「これはリンデガルド様直々のご提案ですよ! 先日の無礼も、それで許すとおっしゃっている!」
「リンデガルドだと?」
ミラさんに気をつけろと言われた、例の貴族か。
早速絡んでくるとは思わなかったな。
「わかったなら、王都に着き次第、すぐにリンデガルド様のもとへ持参しなさい!」
「断る」
「なっ!」
まさか、本気で要求が通るとでも思っていたのか? マルマは口をぽかんと開け、何を言われたのか理解できていない表情だ。
「き、貴様! こちらが下手に出ておれば!」
「何を騒いでいる?」
そこへ、騒ぎに気づいたメルキオールさんとジェトス団長が近づいてきた。
俺は二人に、事の次第を伝えた。
「なるほど。それは、アンジェリーナ様もご存知のことですか?」
と、メルキオールさんが口を開く。
(アンジェリーナ様とは誰のことだろう?)
「い、いや。姫様は……」
「ご存知ないと? では、さすがに越権行為かと思うのですが? 正式にファミリーから抗議させていただきます」
「えっ!? そ、それは困ります。リンデガルド様も、先日の無礼を帳消しにするという善意からのご提案でして……」
「その件については既に報告済みだ。アンジェリーナ様からも、問題なしとのお言葉をいただいている」
マルマは苦虫を噛み潰したような表情で、黙り込む。
「後悔なさいますよ」
それだけ言い残して、足早に去っていく。
「ありがとうございます。助かりました」
俺はメルキオールさんに礼を言う。
「いや、元々これは我々の依頼が原因だからな。気にするな」
今後も何かあれば頼ってくれ、と言い残し、ジェトス団長とともに去っていく。
「そうだ、ノア。アンジェリーナ様ってのは誰なんだ?」
先ほど疑問に思ったことを聞くと、ノアは呆れの表情を見せる。
(なるほど、おそらくこの国では知っていて当然の有名人なんだろう)
「アンジェリーナ様っていうのは、ガーディアンナイツの騎士団長で、この国の第三王女よ」
おっと、いきなりの大物だ。
「ちなみにどんな人物なんだ?」
「強くて気さくで、身分に関係なく接してくださる方なの。国民からは『姫騎士』って呼ばれてるのよ」
「姫騎士か。ちょっと興味があるな」
「たぶん、パーティーには出席されるんじゃないかしら」
——第三王女に迷惑貴族。
「はぁ……まったく、先が思いやられる……」
俺は王都での波乱の予感を抱きながら、大きなため息をついた。




