26 ルーク、一難去ってまた一難
「ほほぉ、ここは何の為のパーツや?」
「おい、ここの機構も見てみろ。面白いぞ」
「ほんまやな!」
独特な口調の少女と中年の男が、ラグナの前に居座り、あれこれと話に興じている。
まぁ、言うまでもなくエネアとジェトスの二人なわけだが……。
「エネア。シルフィードに来てから毎日見てるけど、よく飽きないな」
「飽きるわけないやろ!」
エネアが「何を言っとるんや、こいつは?」とでも言いたげな顔で、俺を見てくる。
「はぁ……まあエネアは良いとして、団長はこんな所でサボっていて大丈夫なんですか? またノアに怒られますよ」
「大丈夫だ。ノアにはバレていない」
背後で、ノアがこめかみに青筋を立てているとも知らず、呑気なものだ。
案の定、ジェトスは次の瞬間にはノアに首根っこを掴まれ、ずるずると引きずられていった。
俺はその背中を見送りながら、ノアの作ってくれた弁当を一口頬張る。
「うん、美味いな!」
今日の弁当は、ボアという豚に似た脂身の多い獣の肉に、俺が以前教えた焼肉のタレモドキを絡めて焼いたものだ。
最近のノアは新しい料理の研究に凝っているようで、味見してほしいと言っては、こうして弁当を作ってきてくれる。
「ルーク中尉、あの二人なんとかしてくださいよ。仕事中ずっと質問攻めなんですよ……」
そう訴えてきたのは、整備主任のロックだ。
先日、無事に救出されて以来、彼にはラグナの整備をしてもらっている。
ちなみにロックと共に救出された他の三人は、魔導技術を学ぶため、今はグリミアで研修中だ。
「まぁ、上手くやってくれ。エネアも職人としては優秀みたいだしな」
(悪いなロック。これはお前にしか出来ない仕事だから!)
『本当は、ルークが二人の質問攻めから逃げたいだけでしょ』
俺はナイトの指摘を無視して、弁当を頬張る。
口の中に広がるボア肉の旨味を噛みしめながら、この惑星での暮らしにもだいぶ慣れてきたことを、実感していた。
◆
グリミアファミリーの依頼から、半月ほどが過ぎた。
その間、俺は魔物の生態調査に向かう調査隊の護衛任務や、前線への物資補給といった依頼をこなしていた。
そんな折、ジェトスから話があると執務室に呼び出された。
部屋に入ると、三本の剣をかたどった印が押されている一通の封書を手渡される。
「これは?」
「ファミリー宛に届いたんだが、お前にも関係することだ。読んでみろ」
そこに記されていたのは、エクス・マキナ壊滅に向けて王都で開かれる、主要ファミリーの会議への出席要請。
さらに、バドラス捕縛の功績への褒美として、会議後に催される決起パーティーへの招待状が添えられていた。
そして、その招待客の中には、俺の名前もあった。
「俺を決起パーティーに招待?」
「ああ。恐らくお前が捕らえたバドラスと、鹵獲した魔導機兵を成果として、他のファミリーに発破をかけたいんだろう」
(王都か。興味はあるけど、堅苦しいパーティーは苦手なんだよな)
「ちなみに、断ることは?」
「無理だな」
(はぁ……招待と言いつつ、強制か……)
俺は心の中でため息をつく。
「そんな顔をするな。王国主催のパーティーとはいえ、今回は多くのファミリー関係者が呼ばれているんだ。そう格式張ったものでもないだろう。美味い料理を食べに行く、とでも思っていればいい」
どうせ断れないのならと諦め、せめて料理だけでも楽しもうと心に決めて頷いた。
「わかりました。それで、王都に行くのは団長と俺の二人だけですか?」
「いや、会議への出席は俺だけだが、パーティーは同伴が通例でな」
「同伴ですか……」
ジェトスに誰を連れて行くか聞かれたが、俺が誘える女性なんて一人しかいない。
「じゃあ、ノアに聞いてみます」
「まあ、そうだな。あいつも何度か王都に行ってるから、案内にちょうどいいだろう」
こうして、初めての王都行きが決まった。
——翌日、この件をノアに話すと「任せておいて!」と二つ返事で了承してくれた。
「でも、服はどうするの? 王都のパーティーに出るなら、相応の服装が必要だよ?」
「ああ、服なら一応あるんだけど、サイズが少し合わないんだ」
実は、先日ビットにアークの残骸を捜索させていた際、いくつものコンテナを発見していた。その中に、銀河統合体の礼装用の軍服があったのを思い出した。
「なら、仕立て屋に案内するね!」
俺は軍服をバッグに詰め込むと、ノアの案内で街の仕立て屋へと向かう。
「あらぁ、ノアちゃん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」
店に入ると、ガタイのいい女性(男性)店員が笑顔で話しかけてきた。
「キャサリンちゃん、こんにちは。今日はルークのパーティー用の正装を仕立て直してもらおうと思って」
「あら、その子はノアちゃんの彼氏さん?」
キャサリンちゃんが俺を見て、興味深そうにそんなことを言う。
「えっ!? か、彼氏っ……!? ち、違うよっ、そんなんじゃ……! でも、嫌いてわけでもなくて……あぅ、だからそうじゃなくてぇ……」
キャサリンちゃんにからかわれ、ノアが耳まで赤くして、しどろもどろになっている。
「ふふふ、冗談よ。エクス・マキナを捕まえたっていう、噂の新人くんでしょ?」
そんなノアの様子を見てキャサリンちゃんは「ごめんなさいね」などと謝ってはいるが、その顔は完全に面白がっている。
未だにブツブツと独り言を続けるノアをよそに、俺は持参した礼装用の軍服をスーツバッグから取り出して渡す。
「えっ、何よこの生地! 滑らかな肌触りに、きめの細かさ、そしてこの装飾。あなた、どこかの王侯貴族か何かなの?」
俺の差し出した服を見て、キャサリンちゃんが驚きの声を上げる。
一瞬、まずかったかと思ったが、今更どうしようもない。
「いや、俺の国ではこれが普通なんだよ」と、苦し紛れに誤魔化す。
まあ、実際に軍で支給される服だし、嘘はついていない。
「これが普通ですって!?」
キャサリンちゃんがさらに大声を出すものだから、店内にいる他の客の視線が集まってしまい、どうにも居心地が悪い。
俺が周囲を気にしてチラチラと視線を送ると、キャサリンちゃんもようやくそれに気づく。
「あらやだ、ごめんなさいね。あまりに綺麗な生地だったものでつい。オホホッ」
と、口に手をやり、気まずそうに謝ってくる。
「それで、大丈夫そうか?」
「え、ええ。そこまでサイズも違わないみたいだから、問題ないわ」
その後、採寸を済ませると、ようやく我に返ったノアを連れて店を出る。
「さて……用事も済んだし、どこかで休憩でもするか?」
俺がそう言うと、こちらを見たノアの顔がまた赤く染まる。さっきのキャサリンちゃんに誂われたことを思い出したらしい。
近くのカフェに入り、席に着いて飲み物を注文する。
ノアが落ち着いてきたのを見計らい、王都について聞いてみた。
「ノアは王都に何度か行ったことがあるんだよな?」
「う、うん。ファミリーの仕事で、お父さんについて行ったの」
「王都もやっぱり、星渡りの上にあるのか?」
ノアの説明によると、王都は星渡りの上にはなく、地上に築かれた巨大な街だという。
理由は簡単で、そこまで大きな星渡りが存在しないからだそうだ。
王都は街を囲むように高い城壁が築かれ、その外には広大な平原が広がっているらしい。そして、その守護に当たるのが、王家直属のファミリーである『レガリスファミリー』だ。
さらに、そのレガリスファミリーには、王国を守護する『ガーディアンナイツ』、王家を守護する『ロイヤルナイツ』、そして最強の戦力を誇り、ファミリーの名を冠した『レガリスナイツ』という、三つの騎士団が存在するという。
その三本の剣こそが王国の象徴であり、紋章のモチーフにもなっているとのことだった。
今回の催しは、表向きこそ王国の主催だが、実際に取り仕切っているのは、国からエクス・マキナ壊滅を託されたガーディアンナイツなのだとか。
(ガーディアンナイツか……)
ノアの説明を聞くうちに、先日出会ったあの二機のことが脳裏をよぎり、俺は一抹の不安を抱いていた。




