25 ルーク、職人たちに感謝される
目的地に辿り着くと、二人が笑顔で駆け寄ってくる。
「無事やったか、おっさん!」
「おう、エネア。心配かけたな」
「おっさんが、おらんかったせいで仕事が回らんくて、こっちは大迷惑やで!」
口では文句を言っているエネアだったが、表情は緩みジュドーが無事だったことを喜んでいるのがわかる。
「ルークも無事で良かったよ。例の魔導機兵が拠点に入っていったから心配してたの」
「ああ、多少問題が発生したが大丈夫だ」
「問題?」
ノアが問題という言葉に反応して、心配そうな表情で聞いてくる。
「まぁ、ちょっと激しめな話し合いをな……」
「激しめな話し合いってなに? 本当に大丈夫?」
「問題ない」
とは言ったものの、正直あの性格からしてもう一波乱あるのではないかという不安はある。
だが、今更どうこう出来るわけでもないので忘れることにした。
二人と合流した俺たちは、当初予定していた援軍との合流地点へ向けて移動を開始する。
移動の途中で、不時着した後の話をロックから聞いた。
ロックたちは、アークがガルム艦と衝突したあと、タチバナ艦長の指示でクルー全員が脱出ポッドで脱出したという。
不時着後、ロックたちはすぐに惑星の調査を始め、順調に食料を確保し見つけた洞窟を仮の住居として整備していった。
しかし数日が経過したところで、魔物の群れに遭遇。その戦闘でメンバーの一人がドットギアでは対応できない大怪我を負ってしまったという。
応急処置はしたものの次第に弱っていくメンバーを見て、大気圏突入時に見えた施設を目指して移動を開始したのだが、その途中で出会った相手が悪かった。
初めて先住民に出会ったロックたちは、何とかコミュニケーションをとろうとしたが、その相手というのがエクス・マキナの集団だった。
エクス・マキナの集団はロックたちが近づくといきなり攻撃してきたらしい。
応戦しながら何とか逃げようとしたロックたちだったが、怪我人を連れてでは限界があった。
その時、怪我をしたメンバーが自分が囮になると言い出した。
当然その提案を却下したロックたちだったが、そのメンバーは突然銃をこちらに向け「早く行け!」と言ってきた。
その眼には断固とした意志があり、ロックたちはそれを受け入れるしかなかった。
その後、何とかエクス・マキナから逃げ切ったロックたちが、次に出会ったのがジュドー工房長たちだった。
最初は警戒したロックたちだったが、相手に敵意がないことがわかり、言葉は通じないものの、ロックたちの機械に興味を示したジュドー工房長たちとすぐに意気投合し、グリミアファミリーのホームへ向かうことになった。
そして、アルヴェイルを使おうと採掘場に向かったところで、エクス・マキナの待ち伏せにあい、籠城の末捕まったというのが、ここまでの出来事のようだ。
「ルーク中尉、そちらはどうでしたか?」
「まあ、こっちも色々あったな。少し落ち着いたら話すよ。ほら、もう少しで到着だ」
集合場所で休憩していると、ほどなくして援軍が到着する。
ラグナについては、騒ぎになりかねないので先に帰還させた。
当然、職人たちは騒ぎ出したが、時間がある時に改めてということで誤魔化した。
「みなさん、ご無事でなによりです」
援軍を率いてきたのは工房統括のミラさんだった。その表情には安堵が滲んでいた。
「ルークさんたちも、ご苦労さまです。本当にありがとうございました」
そう言って、深く頭を下げる。
その後、軽く状況を説明し、俺たちはグリミアファミリーへ帰還する。
「みなさんも、お疲れでしょう。詳しくは明日、お話を伺うということでよろしいでしょうか?」
「ああ、それで構わない」
「では、本日の宿はこちらでご用意いたしますので。明日、改めてホームまでお越し下さい」
ミラさんたちと別れ、ロックたちと一緒に用意された宿屋に向かう。
案内はどうしてもと言うエネアに任せた。
その宿は、見るからに高級そうで、これもミラさんのお礼の気持ちなのだろう。
「この宿は、料理も絶品なんや! 期待しとき」
「それは、楽しみだな」
「じゃあ、うちはホームに戻るわ。今回はほんまにありがとうな!」
そう言って、軽いステップで去っていくエネアを見送り、宿に入る。
部屋は、俺とノアが一人部屋。ロックたちが二人部屋に分かれて泊まる。
「ロック。悪いけど明日の説明前に話を聞いておきたいんだが大丈夫か?」
「ええ、こちらも聞きたいことがありますし」
ロックの部屋で今後の事も含め話を詰めて、食事に降りていく。
その際、ノアも誘ったが先に風呂へ入りたいと言うので、ロックたちと先に食堂へ向かう。
(もしかしたら、ロックたちと俺に気を使ってくれたのかもな)
宿の料理はエネアが言った通り、どの料理も美味しく、特にクリームシチューのような料理が絶品だった。
◆
翌朝、俺たちは朝食を済ませると、約束通りグリミアファミリーのホームへ向かった。
ロックたちのオレンジの作業服は、この惑星ではやはり目立つらしく、周囲の視線に居心地悪そうにしていたが、それを横目に俺も通った道だと内心で呟く。
ホームに着いた俺たちは、すぐに応接間に通された。
部屋の中にはミラさんの他に、今回の捜索に加わったエネアたち三人と、ジュドー工房長。そして一人、初めて見る男性が待っていた。
勧められたソファに座ると、ミラさんが話し出す。
「本日は、お越し下さりありがとうございます。早速ですが紹介したい人物がいます。私たちグリミアファミリーの団長、メルキオール・クォークです」
ミラさんが示した男性は、短い白髪の混じった黒髪に、作業用のゴーグルを首から下げた、どこかジュドー工房長に似た人物だった。
「メルキオールだ。よろしく頼む。今回はジュドーたち職人を助け出してくれて感謝する」
メルキオール団長が頭を下げると、それに合わせて他のグリミアメンバーも一斉に頭を下げる。
「一通り経緯については、事前にジュドーとエネアに聞いている。なので、一応の確認だけお願いしたい」
メルキオール団長から質問されたことに答えつつ、俺とロックが同郷だということも説明した。
ロックとは昨晩のうちに話を詰めていたので、特に問題もなく説明は終わる。
「では、今回の報奨についてはジェトスと詰めるとして、個人的に俺の弟を助けてくれた礼をしたい」
「弟? って、もしかしてジュドー工房長ですか?」
「ああ、そうだ。いつも無茶をして困っておる」
言われたジュドー工房長は素知らぬ顔だ。
そして、個人的なお礼というのは、本人のたっての希望もあり、エネアのシルフィードへの出向だった。
「よろしく頼むで兄さん!」
その眼はキラキラと輝いており、間違いなく狙いはラグナだろう。
まあ、ロックたち整備班とも話が合いそうだし、こちらも魔導技術について聞けて利益はある。
その後は、恒例となった質問タイムだった。
職人たちの気迫に押されつつ、話せる範囲で答え続け、ホームのスタッフが昼食の用意ができたと呼びに来るまで続いた。
ホームでの説明を終えた次の日、俺たちは一日休暇を取ることにしてグリミアの街を探索することにした。
ホーム一階の展示ルームで製品を見たり工房を見学した後は街に繰り出し、魔導器の実演ショーを見たりお土産を買ったりした。昼からはアルヴェイルに乗って人気スポットも回り、実に興味深い一日を過ごした。
翌日、俺たちはシルフィードへ向けて出発した。
◆
シルフィードへ帰った俺たちはその足でホームへ向かい、事の経緯をジェトスに説明した。
満足そうに話を聞いていたジェトスは、時折「これで大分借りが返せる」と呟いていた。
それを聞いたノアはいつものように呆れ顔だったが、それでも終始ごきげんだった。
また、エネアの出向の件は、グリミアの職人なら大歓迎だと大いに喜ばれたが、これは予想通りだ。
さらに、ロックたちの処遇についても、俺の同郷ということでファミリーの一員として迎え入れられることになった。
その際、入団試験が無かったことを疑問に思いノアに尋ねると、「あれは、お父さんの趣味よ」と何ごともないように返されたのには、少し納得がいかない。




