23 ルーク、ジュドーを見つける
「おいおい、どうなってやがる!」
「親方、こりゃただ事じゃないっすよ!」
ジュドー工房長と仲間の職人たちが騒ぎ出す。
驚くジュドーたちをよそに、オレンジ服の集団が集まって小声で話す。
「ロック主任。これは救出部隊でしょうか?」
「いや、違うだろうな。救出部隊なら、人質を危険に晒す行動はとらないはずだ」
「では、魔物の襲撃?」
「どうだろうな。いずれにせよ、これは好機やもしれん」
おもむろにロックは靴を脱ぎ、靴底から小さな装置を取り出した。
「主任。そんな所にマルチツールを隠してたんですか?」
「スパイ映画を見て暇つぶしに作ってみたものが、まさか役に立つとはな」
「ああ、主任がよく話してる例のあれですか……」
そんなやり取りをしている所へ、ジュドーが近づき声を掛ける。
「お前ら、ちっと相談があんだが……この隙に、脱出を試みようと思う」
その顔には、自信に満ちた豪胆さがにじみ出ている。
「奇遇ですね。俺たちもそう思っていたところです」
ロックは不敵な笑みを浮かべると直ぐに行動に移る。
部屋の入口に近づくとマルチツールを使い鉄格子を簡単に切断する。
「何だそりゃ? 見せてくれ!」
「ジュドーさん、それは後で。今は脱出するのが先決ですよ」
「おう、そうだったな! おい、お前ら行くぞ!」
ジュドー工房長の号令で、全員が一斉に動き出す。
◇
「ナイト。どこかに侵入できそうな場所はないか?」
俺は三者にバレないよう、遥か上空で戦況を確認しつつ侵入ルートを探す。
『さっきの爆撃で剥き出しになった、あそこからが確実だけど。見つかるリスクが高いね』
「ステルスモードで姿を隠して行けないか?」
『戦闘が激しいから、ちょっと難しいかも』
その間にも戦闘は益々激しくなり、さすがの精鋭部隊も魔導機とヴォルテガノンという圧倒的な物量を前に、手間取っているようだ。
そんな時、不意にエクス・マキナの拠点付近に動きがあった。
岩肌がせり上がりハッチが開くと、そこから大型の魔導機が出現した。
その見た目は、八本脚の蜘蛛に大砲を搭載したような大型魔導機だった。
「あれは、移動砲台ってところか?」
『ルーク。丁度あそこからなら入れそうだよ』
「そうだな、迷っている暇はない。いくぞ!」
ステルスモードを作動させると、次第にラグナの姿が蜃気楼のように揺らぎ、そして消えて見えなくなる。
そのまま一直線に急降下し、入口付近でグラビティ・ドライブによる急制動をかけ、一気に内部へ侵入した。
拠点の内部は大型魔導機用の格納庫になっており、整備や組み立てができる巨大な空間が広がっていた。
「ナイト。人質の存在は探知できるか?」
『ジュドー工房長たちは無理だけど、整備班のメンバーなら、ドットギアの周波数を調整すれば探せると思う。ちょっと待ってね』
ラグナを格納庫の隅まで移動させ、待機させる。
近くにはアルヴェイルや、初めて見る魔導機が固定されたまま保管されていた。
『ルーク、反応を見つけた。間違いなく整備班で使われてるドットギアだよ』
「よしっ! 場所はわかるか?」
『うん、少し下の階にいるみたい。数は四人、移動してるみたいだよ』
「移動してる? ここ混乱に乗じて逃げ出したか、やるな。ナビを頼む、すぐに合流する」
ラグナを降り、ビット一機を伴い通路を進む。
施設は遺跡を改造したのか、古めかしい石造りの壁に新しい壁が混在した造りとなっていた。
(エクス・マキナのメンバーが見当たらないな)
『外の戦闘に駆り出されてるのかな? もとから人数も少なかったのかもね』
しばらく通路を進むが、やはりメンバーには出会わず、数体の魔導機が警備をしているだけだった。
『ルーク近いよ』
周囲を警戒しつつ進んだ先で下への階段を見つける。
階段を下りようと近づくと、下の階から戦闘音が聞こえた。
『ルーク。整備班たちが交戦中だよ!』
「了解だ、急ぐぞ!」
俺はバトルモードを起動し、急いで階段を駆け下りると、怒号と戦闘音がさらに大きくなる。
「親方! こいつら早いですよ」
「ちくしょう! 武器さえ取り上げられていなきゃ、こんな奴ら軽く捻り潰してやるのに!」
「はん、泣き言なんざ言ってんじゃねえ! 武器なんざそのへんの棒切れで十分だ」
激しい金属音がぶつかり合う中、豪快な男の声が聞こえてくる。
通路を進み突き当りを曲がると、そこにはオレンジ色の作業着を着た整備班のメンバーを庇うようにして、映像で見た屈強な男、ジュドー工房長を先頭に数人の男たちが蜘蛛型の魔導機と戦っていた。
「助けに来た。シルフィードのルークだ!」
俺の声にジュドーは一瞬だけこっちを見ると、すぐに視線を戻し戦闘を継続する。
「シルフィードか、助かるぜ。こいつら数が多くてな……少しばかり手こずってたとこだ」
俺は後方の整備班メンバーに視線を向け頷く。
「まずはこいつらを片付ける。話はその後だ!」
ホルダーから単分子カッターを抜き、日本刀型に刃を変形させると、ジュドー工房長たちと蜘蛛型魔導機を挟み込むようにして位置取る。
そして、襲いかかってくる敵を単分子カッターで一刀両断にする。
「ほう、おめえやるじゃねえか!」
ジュドー工房長が俺の動きを見て、豪快な笑みを見せ称賛する。
「まぁ、足手まといにはならないさ」
そう答え、軽く笑ってみせる。
「がはは。ルークっつったか……気に入ったぜ!」
そこからの、ジュドー工房長の動きは凄まじく、鉄の棒切れ一本で次々と敵を葬っていく。
それから俺たちは十分もかからずに、全ての蜘蛛型魔導機を破壊した。
「おっし。他に蜘蛛野郎はもういねえようだな」
「けが人はいませんか?」
そこへ、オレンジの作業着を着た男が近づいてくる。
「中尉。ここにいるメンバーは大丈夫です。ですが一人……」
作業着姿の男ロックの顔が悲痛にゆがむ。
「……そうか、お前たちだけでも無事で良かった」
「なんでえ、お前ら……知り合いだったのか?」
ジュドー工房長が俺とロックの会話に入ってくる。
「ええ、中尉……いえ、ルークは、前に話していたはぐれた同郷の仲間でして」
「おめぇ、シルフィードだって言ってなかったか?」
「色々あって今はシルフィードファミリーに所属しているんだ」
「まあ、そんなこたぁいい。それよりもだ」
ジュドー工房長はとくに気にした様子もなく頷くと、俺が手に持つ単分子カッターに目を向けた。
「おめぇの、その剣だが……ロックの持ってたマルチツールだっけか? あれと同じもんなのか?」
どうやら、職人病を発症したらしい。
「原理は同じだな。こっちは戦闘に特化してるけどな」
「なあ、ちょっと見せてもらえねえか?」
「ちょっと待て、そんな事より今は脱出が優先だろ」
「ん? おう、そうだったな」
そう言ったジュドー工房長だが、俺が腰のホルダーに単分子カッターを仕舞うと、明らかにがっかりした表情をする。
まったく、職人ってやつは……。
(ラグナを見たらどうなるんだ。先程のエネアの様子がフラッシュバックする)
『間違いなく、大騒ぎだろうね』
俺は内心でため息をつきつつ、全員に指示を出す。
「脱出ルートは俺が把握している。はぐれないように付いてきてくれ」
移動中、数匹の蜘蛛型魔導機が襲いかかってきたが、発見と同時にライフルで即座に始末した。
後ろで職人たちが、俺の持つライフルについて何か言ってるが、今は気づかないふりをして進む。
来た道を戻り、数分で格納庫へ辿り着くとラグナを見た職人たちが大騒ぎを始める。
「案の定だな……」
「ルーク中尉。ありがとうございます」
ロックたち整備班のメンバーが近づいてきてお礼を言ってくる。
「仲間だから当然だ。それに今回は依頼でもあるしな。まあこの話は、もう少し落ち着いた後で話そう」
「そうですね」
俺はラグナの下で大騒ぎをする職人たちに近づき、一つ咳払いをする。
「ああ、ちょっといいか? 気持ちはわからないでもないんだが、今は脱出を優先してくれないか? こっちも依頼なんでな」
「ああ、すまねぇ。しかしこりゃあとんでもねえ代物だな。この構造、駆動原理はわからねえが……間違いなく今までの常識を覆す技術だぜ!」
ジュドー工房長は興奮冷めやらぬ状態だったが、すぐに倉庫に置かれていたアルヴェイルを操作しだす。
「アルヴェイルは確か契約が必要じゃなかったか?」
「こいつは儂らのアルヴェイルだ。捕まる時に奪われたものだ」
どうやら、捕まる際に一緒に持ち込まれた機体のようだ。
「よし、こっちの支度は整ったぜ!」
契約の書き換えは、言葉の通りすぐに終わり脱出しようとした、その時だった。
上空で猛烈な爆発が起こり、倉庫内を爆風が襲いかかる。
俺は即座にラグナのシールドを全面に展開し、みんなを爆風からガードする。
シールドの内側でみんなが顔をゆがめるのが見えるが、怪我の心配は無いだろう。
爆風が止み、一瞬の静寂の後、上空から黒と真紅の機体が降下してくるのが見えた。




