22 ルーク、浅慮に呆れる
デボン山に近づくにつれ、湿地から岩場が多い地形へと変わっていく。
ガーディアンナイツの影響か、あれ以来ヴォルテガノンの姿は見かけなかった。
「ガーディアンナイツはどこや?」
「ここからは見えないな」
「エクス・マキナの拠点に向かったかと思ったんやけどなぁ」
少し高くなった丘の上へ軽いステップで駆け上り、ガーディアンナイツが向かった山頂方向を確認する。
ドットギアによって強化された視力により、中腹辺りで浮かぶ二機の魔導機兵の姿を視界にとらえる。
すると二機は二手に分かれ、デボン山を捜索するように移動を始めた。
(やはり、エクス・マキナの拠点を探しているのか?)
『どちらにしても、あれじゃ確実にエクス・マキナから見つかってるだろうね』
(ああ、隠れる気なんてさらさらないって感じだ)
俺は急ぎ丘を降りると、確認したことを二人に教えた。
エネアによればガーディアンナイツには、隠れてこそこそ行動することを恥とする風潮があるらしい。
何があっても対応できるという強い自負と矜持がそうさせているのだろう。――だが、それは往々にして軽率な行動を招く。
俺が軍に入隊して最初に教官から教わった教訓だ。
「既にエクス・マキナが警戒しているとみて間違いないだろうな。……しかしなんてタイミングの悪い」
「それなんやけどな、少し心当たりがあんねん……。今、うちらの団長が王都に行っとるやろ? それと関係があるかもしれへん」
グリミアファミリーの団長メルキオールが現在王都に出向いているのは、エクス・マキナについての情報共有と討伐にあたっての技術協力を国から要請されたかららしい。
「つまり、ガーディアンナイツがここに現れた理由は、やはりエクス・マキナの情報収集もしくは討伐が目的だと?」
「その可能性が高いと思うねん」
戦力としては頼もしい存在だが、人質がいる現状では逆に悪手になりかねない。
「工房長たちが心配だ。援軍を待って行動に移す予定だったが、そんな時間は無さそうだな」
「どうするつもりや、兄さん?」
エネアの疑問に同意して、ノアも俺に期待に満ちた視線を向ける。
(ナイト。ラグナはどうなっている?)
『もう少しで到着するよ。中継地点にしていたビットは既に到着してるから二機体勢で運用できるよ』
(よし、それなら一機を二人の護衛に、もう一機を俺のサポートにつけてくれ)
『了解だよ』
俺は二人の視線を受け止め、答えた。
「俺たちだけで救出に向かおう」
ガーディアンナイツによってヴォルテガノンが大人しくなっている隙をつき、ビットを呼び寄せた。
「なあ、兄さん! 一機売ってくれへんか?」
「駄目だ」
「そこを何とか」
「駄目だ」
エネアはビットが二機に増えたことで職人病を発症して大変だったが、なんとか落ち着かせる。
ラグナを見た時のエネアの反応を想像してげんなりするが、今はそんな場合ではない。
◇
「くそ、なぜ栄誉ある我々がこんな辺境の捜索などせねばならんのだ!」
「まったくですリンデガルド様。こんな雑務は他のファミリー連中にさせておけばよいものを」
コンソール越しに、黒の魔導機兵のパイロットが答える。
「アンジェリーナ様にも困ったものだな。陛下から直々にガーディアンナイツを任されたからと、お飾りのくせに調子に乗りすぎではないか」
「軍部の中でも浮いた存在ですからな。実績が欲しくて仕方がないのでしょうな」
「くそ、忌々しい」
真紅の機体のパイロット、リンデガルドと呼ばれた男が眉間に皺を寄せる。
そこでコンソールの一部が赤く点灯する。
「リンデガルド様、本隊への定時連絡の時間ですがどうされますか?」
「ふん、無視しておけ。故障していたとでも言っておけばよい」
そう言ってリンデガルドがコンソールを叩き、警告ランプを消す。
「奴らが出てこないのなら、出てこさせれば良い」
「といいますと?」
「攻撃だ。この一帯を破壊してしまえば、嫌でも出て来ざるを得んだろう」
「しかし、この辺りはグリミアファミリーの管轄地域ですが?」
「かまわん」
「本当によろしいので?」
「くどいぞマルケス!」
リンデガルドの指示で、黒の魔導機兵の胸部が赤く光りだす。
「やれ」
「――グラウンド・ノヴァ」
マルケスの詠唱と同時に胸部の魔導器から無数の赤い光弾がデボン山へと降り注ぐ。
◇
「きゃっ!」
「なんや!」
「何が起こった!」
爆煙と爆風が丘の向こうから押し寄せ、俺は咄嗟にエネアとノアを地面に伏せさせた。
すかさず、一機のビットを前方に展開し、エネルギーシールドを張る。パラパラと硬い岩の破片がシールドに弾かれ、乾いた音を立てた。
「二人とも、怪我はないか!?」
「う、うちのほうは大丈夫や……。おお、今のシールド、凄い技術やな……って、そんな場合やないわ! 今の何やねん!?」
「山の斜面が……削られている?」
ノアが呆然とした声を上げる。
俺はすぐさまドットギアの視覚倍率を上げ、爆煙の向こう――デボン山の中腹へと視線を向ける。
(ナイト、何が起きた!?)
『ガーディアンナイツの黒い方の機体だよ。胸部の魔導器から広範囲への無差別爆撃を確認。現在も攻撃を継続中だよ』
(あの馬鹿どもが……!)
周囲への被害など一ミリも考慮しない、浅慮なやつらだ。
爆煙の隙間から見えるデボン山の斜面は、無残にも赤黒い炎と土煙に包まれていた。
だが、その破壊の跡から――それは姿を現した。
爆撃によって強固な岩盤が崩れ去った跡に、明らかに自然物ではない、鈍く光る金属質の建造物の一部が露出している。
そして同時に、そこから飛行型の魔導機が次々と飛び出してくる。
さらに、一旦は大人しくしていたヴォルテガノンまでもが集まってくる。
「兄さん、あれ見てみぃ! あそこ、やっぱり拠点やったんや!」
「ああ、だが最悪の形で炙り出されてしまったな。あの様子だと拠点そのものが崩落しかねない。工房長たち人質が危ないぞ!」
もはや一刻の猶予もない。
その時、頭上の空気を切り裂くような轟音が響いた。飛行モードで急行してきた、機体――「ラグナ」が俺たちの頭上に到着した。
『お待たせ。ラグナ、到着だよ』
ナイトのナビゲーションと共に、ダークグレーの機体が砂塵を巻き上げて俺の目の前に着陸する。
「な、ななな……なんやこれぇぇぇ!?」
案の定、エネアの目がこれまでにないほどギラギラと輝きだした。ビットの時とは比べ物にならない興奮度合いで、ラグナの装甲にすり寄ろうとする。
「これが兄さんの魔導機兵なんか!? この骨格、何の素材で出来とるんや? この腕の接合部分のパーツは……。 おお、このパーツは何に使うんや!?」
「エネア、説明は後だ! ノア、エネアを頼む! 一機のビットを二人の護衛に残す。俺はラグナでもう一機のビットと連携して、崩落前に拠点の別ルートから内部へ突入する!」
俺はラグナのコックピットへ飛び乗りながら、二人へ指示を飛ばした。
上空では、エクス・マキナの迎撃部隊と、ガーディアンナイツの二機、そしてヴォルテガノンが派手に入り乱れての三つ巴の交戦を始めている。
「無茶しないでね!」
「後で色々調べさせてもらうから! 絶対やで!」
二人の声(片方は願望だが)を背に受けながら、俺はラグナとリンクする。
「行くぞ、ナイト。あの馬鹿どもが山を完全に消し飛ばす前に、工房長たちを助け出す!」
『了解だよ!』
俺は、ゆっくりとラグナを上昇させエクス・マキナの拠点へ向けて飛び立った。




