21 ルーク、デボン山で遭遇する
エネアたちと話し合った結果、俺とノア、そしてエネアの三人で先行してデボン山へ向かうことになった。マッシュとリドルが援軍を呼んでくるまでに下調べをするためだ。
ファミリーからの援軍を待ってから行動するという考えもあったが、先行して状況を調べておいたほうが作戦がスムーズに進むと考えた。
マッシュとリドルをファミリーへの連絡に向かわせたあと、俺たちは行動を開始する。
移動は発見されることを避けるため、見つからない範囲までアルヴェイルでデボン山に近づき、そこからは徒歩で進む。
それに加え、デボン山周辺には「ヴォルテガノン」と呼ばれる翼に電気を帯びた巨大な翼竜が縄張りを構えており、上空からの侵入は危険らしい。
「ヴォルテガノンは縄張り意識が強いから、不用意に近づくと襲ってくんねん」
エネアによればヴォルテガノンは基本デボン山周辺からは離れず、地上へ降下してくることも滅多にないため、強敵ではあるものの普段はあまり気にする必要のない魔物なのだという。
「ヴォルテガノンは昔から『デボン山の王者』って呼ばれててな。あの辺りには前々からエクス・マキナの拠点があるって噂があったんやけど、ヴォルテガノンのせいで誰も近づけへんかったんや」
(デボン山の王者「ヴォルテガノン」か)
『どうする? 一応ラグナを呼んでおく?』
(そうだな、敵がエクス・マキナだとすれば魔導機兵が出てくる可能性もあるしな)
『了解だよ。じゃあ到着したら待機させておくね』
デボン山の裾野は、これまで以上に木が密集しており所々ぬかるみがあった。
道中、何度かリンドラーやヒルゴブリンと呼ばれる茶色の魔物が襲いかかってきたが、ノアとの連携で難なく退けた。
なお、ビットは上空が危険なためアルヴェイルとともに待機させている。
「ねえ、エネアちゃん。デボン山って確か前は別のファミリーの所有だったよね」
ノアが前を歩くエネアに話しかける。
「そうや。うちに借金があったそのファミリーが解散する時に、補填として譲渡されたんや。まあ団長は『不良物件を押し付けられた』って文句言うとったけどなぁ」
「俺は遠くから来たから、あまり詳しくないんだがファミリーってのも解散するんだな」
「もちろんや、弱小ファミリーは毎年結構解散しとるで。その分、新興のファミリーも生まれとるけどな」
歩きながら、ずっと気になっていたことを聞いてみる。
「ファミリーを新たに結成するには、どんな条件があるんだ?」
「一番は星渡りの所有や。それから国からの承認が必要やな」
そこで、ノアが会話に入ってくる。
「シルフィードの星渡りはね、かつて王国直属の『レガリスファミリー』に所属していた初代が、その功績によって王様から拝領されたものなのよ」
ノアが誇らしげに胸を張る。
◆
「そろそろ、ヴォルテガノンの縄張りやで」
エネアの言葉で上を見上げると、木々の隙間から大空を飛ぶ魔物の姿が見えた。
その見た目は、蛇のように細長い胴体に大きな翼を持つワイバーンに似た姿をしている。
「ヴォルテガノンは滅多に森へは降りてけえへんから心配はいらんで」
そう言って先を進むエネアからは、本当に心配してないのだろうという気楽な雰囲気が伝わってくる。
しかし、強化された聴覚が捉えた少し甲高い警戒の鳴き声に、俺は一抹の不安を覚えていた。
「一旦昼食にしないか? これからは、いつ食事をとれるかわからないからさ」
表面上は平静を保っているが、身内が捕らえられているという事実は、じわじわと体力を削るものだ。
「そうやな」
「そうね。私も少しお腹すいたし」
二人とも俺の提案に賛成してくれた。
適当な倒木に腰を下ろし、コッコの肉をパンに挟んで食べる。
「悪くないけど、まだまだ改良できそうだな」
「そうか? ウチは十分美味いとおもうけどなぁ」
言葉通りエネアは美味しそうにコッコサンドを食べている。
「ルークは料理が趣味なのよ」
「兄さん料理が出来るんか?」
「まあ、趣味程度だけどな」
そんな他愛もない話をしながら軽く食事を取っていると、上空を飛ぶヴォルテガノンの鳴き声が急に激しくなる。
木々の隙間から見上げると、ヴォルテガノンが何かと激しく交戦しているのが見えた。
「おい、ヴォルテガノンが何かと戦っているぞ!」
「なんやて!」
俺の言葉に二人も空を見上げる。
その戦闘は一方的だった。
二機の魔導機兵によってヴォルテガノンが追い立てられていたのだ。
真紅の魔導機兵の短杖から放たれた黒いエネルギーの塊が翼へ直撃すると、大きな穴が抉られヴォルテガノンは地上へ落下していく。
仲間がやられたことに怒った別のヴォルテガノンが真紅の機体へ襲いかかるが、そこへ黒い機体が割り込み身の丈ほどもある大剣を振り下ろす。
大剣の直撃を受けたヴォルテガノンが真っ二つに一刀両断され、断末魔の叫びとともに落下する。
「あれは、レガリスファミリーの魔導機兵や!」
「レガリスって確か王国直属のファミリーだったよな?」
「せや、それもあの紋章は『ガーディアンナイツ』。いわゆる王国の治安部隊やな」
エネアの説明では、ガーディアンナイツとは、王国で起こるあらゆる問題や事件に介入・対応する「アルカディア王国治安維持特殊部隊」の通称らしい。
確かに動きに無駄がなく、精鋭部隊だというのも頷ける。
俺たちが見ている間にも次々とヴォルテガノンは数を減らしていき、やがて散り散りになり山の奥へと消えていった。
「さすがガーディアンナイツやな。でも、何でこんな所いるんや?」
「それよりも、あいつらの向かった先ってもしかして、俺たちの目的地と一緒じゃないよな?」
(もしそうだとしたら、あいつらは人質のことを知っているのだろうか? 知らないまま戦闘が始まったら工房長や整備班が危険だ)
「俺たちも急ごう、あのままエクス・マキナと戦闘になったら人質が危険だ!」
「確かにそうやな!」
「うん!」
三人で頷きすぐに移動を始める。
◇
――デボン山・エクス・マキナ秘密拠点。
薄暗い石造りの部屋の隅で、ジュドーは腕を組んで壁にもたれていた。
「親方、助けは来ますかね?」
「来るとしたら、よほどの馬鹿だろうな」
そう言いながらも、ジュドーの眼は静かに燃えていた。
「ですよねぇ。エクス・マキナにヴォルテガノンですからね……はぁ」
ジュドーの言葉に話しかけた男が、諦めの表情を見せる。
そこへ、オレンジの作業服を着た男が話しかけた。
「ジュドーさん。前に話していたエクス・マキナを倒した魔導機兵の件なんですけど」
「ああ、儂も詳しくは知らねえが、何でも複数の飛行型魔導機を従えた見たこともねぇダークグレーの機体が、エクス・マキナの機体を瞬殺だって話だな。どうせ、噂に尾ひれが付いた眉唾ものだろう」
それを聞いた作業服の男が、顎に手をやって考え込む。
「どうしたロック、何か心当たりでもあんのか?」
ロックと呼ばれた男が視線を上げ、同じ服を着た人物たちに視線を向けると、視線を向けられたうちの一人が口を開いた。
「可能性は高いですね。ルーク中尉のラグナです」




