20 ルーク、手がかりを見つける
「ここを見てくれ。土に染み込んでわかりづらいが血痕だ」
「血痕やと!? 誰かが負傷しとるんか?」
「その可能性が高いな。他にも、この靴跡を見る限り複数人がいたと考えていいだろうな」
ざっと見ただけでも、整備班用の靴の跡だけで複数のサイズがあり、さらに判別できない靴跡も複数確認できた。
その中でも、ひときわ大きな靴跡の存在が目を引く。
「あっ! この靴跡!」
その靴跡を確認したエネアが、突然声を上げた。
「これ工房長の魔導シューズの跡や!」
マッシュとリドルの二人も近づいてきて同意していることから、間違いなさそうだ。
「このでかい靴跡がそうなのか?」
「工房長のオリジナルやから間違いないわ!」
(つまり、整備班の連中と一緒にいたのは、ジュドー工房長たち調査隊のメンバーってことか)
『そうみたいだね。理由はわからないけど、一緒に行動している可能性が高いね』
となると、ジュドー工房長たちはファミリーに連絡もせずに、なぜ整備班の連中と一緒に行動をしているんだ?
エネアによればジュドー工房長は大雑把な性格をしており、定時連絡を寄越さないことは結構あったらしい。
しかし、今回のように長期間ホームに戻らないことはなかったという。
「とりあえず、ジュドー工房長がここに居たことはわかったな」
「次はどこに向かったかやけど……。ウチらの鉱物採掘場に行ってみいひんか?」
確かに問題が起こった時に向かう所として、慣れた場所へ向かう可能性が高いか。
「そうだな、ここは土地勘のあるエネアたちの意見に従うよ」
採掘場へは、一度着陸地点へ引き返し、アルヴェイルで向かうことになった。
痕跡を探しながらしばらく飛行していると、前方に採掘場と思われる岩肌が剥き出しの露天掘りが見えてきた。
その近くには整備された発着場があり、俺たちはそこにアルヴェイルを停める。
「ここが、ウチらが使っとる採掘場や」
目の前には、巨大な採掘場が広がり、露天掘りの中央付近で複数の魔導機が作業をしているのが見えた。
「あの魔導機が自動で採掘をして、ウチらはそれを定期的に回収しに来るんや」
「管理者は常駐してないのか?」
「してないな。兄さんは強いしピンと来んかもやけど、太古の森は危険な場所なんやで」
まあ確かに、自動で魔導機が作業してくれるなら、それも当たり前だろう。
「ほなとりあえず、管理棟を確認してみよか」
俺たちはエネアについて管理棟へ向かう。
管理棟は発着場と採掘場の中間地点付近にあり、見た目はグリミアファミリーのホームで見た意匠に似た、白い四角い建物だった。
扉を開けて中に入ると、自動で部屋の照明が点灯する。
部屋の中には各種コンソールが配置されており、簡易ベッドなども備えられて休憩所としても使用されているようだ。
「所々破壊されているな。何か問題が起きたのは確かのようだ」
「せやな。メモリを確認してみるから、ちょっと待ち」
そう言ってエネアがコンソール下のカバーを外し、直接基板に端末を接続し操作する。
すると、正面のモニターにノイズ混じりの使用ログが表示された。
「うーん。ここ数日は使用した形跡が無いなぁ」
「そうか、何か情報が得られるかと期待したんだがな」
「あせんなや、あのおっさんの事やから……っと!」
エネアが何かのコマンドを打ち込むと、画面に髭面の男が映し出された。
「ビンゴや! 何か不測の事態になってるんなら、絶対に隠しとると思ったんや!」
「もしかして、この人がジュドー工房長か?」
「せや。こんな見た目やけど腕は確かやで」
映像に映し出されたその男は、大男というよりガッチリ系で、どちらかと言えば背はそれほど高くないように見える。
髪の毛は短く刈り上げられ、立派なヒゲを生やしていた。
「映像を見てんのはエネアか? ……ふん、まあいい。このコマンドを知ってる奴なら、誰だろうと構わねえ」
録画と思われる映像の中のジュドー工房長が話し出す。
どうやら、ファミリーの仲間に向けたメッセージのようだ。
「これを見てやがるってことは……儂らはエクス・マキナの野郎どもに捕まっちまった。まあ、そう思っておけ」
エクス・マキナ! 嫌な予感が的中だ……。
「エクス・マキナやて!? どういうことや、おっさん!」
「細かいことを説明してる暇はねえ。手短に言うぞ。儂らは今、ある連中と行動を共にしててな……そいつら、なかなか興味深ぇ知識や技術を持ってやがる。っと、まあそいつぁいい」
興奮気味だったジュドー工房長が一息つき話を続ける。
「どうやら、そいつらはエクス・マキナの野郎どもに追われてるらしくてな。『同じ職人として、見過ごすわけにはいかねえ!』ってんで首を突っ込んだはいいが……結局、このざまだ」
同じ技術屋として意気投合したってところか……。
「でだ、肝心なのは儂らが何処に捕らえられてるか、だ。追ってきた奴らの一人が『デボン山』と口にしてたのを聞いた。正確な場所まではわからねえが……おおかた、あの山脈のどこかに奴らの拠点があるんだろうよ」
デボン山とは、この付近の地名だろうか。
そこで、映像のジュドー工房長の表情が一層引き締まった。
「言うまでもねえだろうが、あそこは奴らの縄張りだ。もし助けに来るってんなら、相当な手練れを雇え。中途半端な連中じゃあ、拠点を見つける前に壊滅するのが落ちだぜ」
奴ら? 話の感じからエクス・マキナとは別の勢力のようだ。
隣で映像を見ていたエネアたち三人には心当たりがあるらしく、表情を厳しいものへと変えていた。
「だからな、無理する必要はねえ。難しいと踏んだなら、儂らのことは諦めてくれて構わねえ。団長にもそう伝えときな」
そこまで言って映像が切れる。
「諦めるやて? ウチがそんな玉やと思っとんのか、おっさん!」
エネアが身を乗り出して怒りを顕わにする。
その様子から、ジュドー工房長を慕っていることがよく分かった。
映像の通りなら、ジュドー工房長たちはエクス・マキナに捕まっているということになる。
「なあ、兄さんたち。無理は承知やけど……ジュドー工房長の救出に手を貸してくれへんか?」
「ルークどうするの?」
ノアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
整備班が一緒に捕まっている以上、俺に無視するという選択肢はない。
「もちろん、協力するさ」
「ルークならそう言うと思ったよ! 私も頑張るからね!」
そう言って、ノアがやる気を見せる。
「ほんまか! 助かるわ!」
「ありがとうございます!」
「感謝する!」
エネアたち三人が、それぞれ頷いて礼を言う。
「それじゃあ、色々と話を聞かせてくれるか?」
俺はエネアたちから情報を整理しつつ、今後の計画を立てることにした。




