19 ルーク、リンドラーと戦う
俺たちは急ぎ、ビットが戦闘を発見した場所へと向かった。
先を進むにつれ、森は次第に湿度を帯びだした。足元がぬかるみ、根を剥き出しにした木々が目立つようになる。
「リンドラーの生息地に入ったかもなぁ……」
エネアの指摘に、リドルが顔をしかめる。
「僕、リンドラー苦手なんだよね」
「ウチだって嫌いやわ! あんなぶよぶよが好きな奴なんて、おらんやろ!」
「あの独特な触感とひんやりとした涼感が、一部の愛好家には好評だって聞いたことがあるぞ」
「うげぇぇ……。マッシュ、それほんまか!?」
救援に向かっているとは思えないほど、先を行く三人の雰囲気はのんびりとしていた。
「そんな調子で大丈夫か? 戦っているのが、探しているジュドー工房長かもしれないんだぞ」
俺が言うと、エネアはけろりとした顔で返す。
「あのおっさんが、リンドラー程度でどうにかなるわけないから大丈夫や!」
「そうだな。ジュドー工房長なら、まったく心配ないだろう」
「僕も、工房長なら大丈夫だと思います」
これほど信頼されているとは、工房長というのはどんな人物なんだ?
「せやけど、確かにちょっと気い抜きすぎやったわ」
言いながらも、エネアは前を向いたまま軽い足取りで先を急ぐ。
◆
「声が聞こえてきた。もうすぐやで!」
エネアの声に、全員の空気が引き締まった。
あたりはすっかり湿地帯となっており、怒号に混じって水しぶきの音が響いている。
「くそっ、こいつら何匹いやがる!」
「こっちの魔導機もやられた!」
「リーダー、どうする!? このままじゃヤバいよ!」
言葉の断片だけで、切迫した状況が伝わってくる。
俺はエネアたちを後ろへ下がらせ、ノアとともに前に出た。
現場に到着し状況を把握すると、負傷した二人を三人が庇いながら、半透明の生物に応戦していた。傍らには破壊された犬型の護衛用魔導機が三体。そして、まだ戦闘態勢を保っている二体が負傷者を守るようにしている。
後ろを振り向きエネアに確認を取ると、やはり先発の別働隊で間違いないようだ。
「大丈夫か、手を貸すぞ!」
突然の声に一瞬警戒されたが、後ろのエネアたちを見て味方だと、すぐに認識したようだ。
「助かる。こいつら数が多くて苦戦していたところだ」
リーダー格と思われる男が答える。
「まずは私がフリーズでリンドラーを凍らすから、ルークはそいつを倒して」
「了解した」
なるほど、スライム系の魔物も凍らせてしまえば、剣でも倒しやすいということか。
「エネアたち三人は、救急キットで負傷者の手当をお願いできるか?」
「了解や、まかしとき!」
三人が負傷者に駆け寄っていくのを確認し、ノアに攻撃を促す。
「こっちはいつでも良いぞ、ノア!」
「了解。じゃあ行くよ!」
ノアが短杖型の魔導器を構え、フリーズを発動する。
短杖の先端が眩く光り、キラキラとした凍てつく吹雪が前方へ向かい放たれる。
吹雪は扇状に広がっていき、一瞬で数体の動きを止める。
それは明らかに、ただの冷気ではない何かによって対象物を凍らせているようだった。
(あれは、通常の急速冷凍ってわけじゃないよな?)
『そうだね、確かに周囲の温度は低下してるけど、外気温を下げて凍らせているというより、物質の熱エネルギーを吸収して直接凍らせてる感じだね』
俺はナイトとフリーズについて議論しながら、ノアの凍らせたリンドラーを単分子カッターで倒していく。
「いい感じだ、ノア! どんどんいってくれ!」
ノアとの連携で、次々とリンドラーの数を減らしていく俺たちを見て、エネアたちが興奮して騒いでいる。
「ノアはんも兄さんも凄いやないか!」
「助っ人が二人だけだった時は正直少し心配だったが、杞憂だったみたいだな」
「うん。凄いね!」
エネアたち三人が、俺たちの活躍を手放しで称賛する。
「まだ行けるか、ノア?」
「まだまだ行けるよ!」
ノアも張り切っているようで、次々と敵を凍らせていく。
それから三十分とかからず、辺りのリンドラーを全て始末することができた。
「ふう、これで最後だな」
単分子カッターで切られた最後のリンドラーが、真っ二つになって崩れ落ちる。
全ての敵を倒したことを確認して、俺は単分子カッターをホルダーに仕舞う。
俺とノアが別働隊に近づくと、リーダー格の男が話しかけてきた。
「いやぁ、あんたら強いな! エネアたちに聞いた話だと、エクス・マキナの魔導機兵乗りを倒したってのは、あんたたちなのか?」
「まあ、成り行きでな」
「私は見てただけだけど、ルークは本当に凄いのよ!」
褒めてくれるのは嬉しいが、さすがに照れくさい。
「兄さんだけじゃなくノアさんも、凄かったで! ビックリや!」
エネアに褒められてノアも照れているようで、「大したことないよ」と謙遜しているが、口元が緩んでいる。
「それで、二人の怪我の様子はどうだ?」
「応急手当はしてもらったから大丈夫だ。だが、申し訳ないが俺たちは一旦こいつらを連れてホームに戻る」
リーダー格の男が申し訳なさそうにそう答える。
「ああ、もちろんだ」
「せやな! 後はウチらに任せとき!」
「お前たちも気をつけろよ。……って、お前たちには余計なお世話か」
リーダー格の男は、そう言って笑う。
その後、これまでの情報を共有して、別働隊の面々はホームへと帰還していった。
新たに得られた情報では、焚き火の跡や雨風を凌いだ形跡のある洞窟を発見したらしい。
その設備の規模から推測するに、三人から五人はいたのではないかという話だった。
「どうする、そこへ行ってみるか?」
「せやな、一度確認はしときたいしな」
俺の問いにエネアが答える。
他のみんなも異論はないようで、俺たちは情報にあった洞窟へと向かうことになった。
情報の洞窟は思いのほか近く、三十分ほどで辿り着いた。
その洞窟の入口には、カモフラージュのためか木の枝で覆われており、明らかに何者かがいた形跡がある。
『ルーク、中に生体反応は無いよ』
(了解)
慎重に洞窟へ近づき中を調べると、小さな焚き火の跡や草で作った粗末なベッドがあった。そして、地面には複数人の靴の跡が残っていた。
(ナイト、どうだ?)
『うん、間違いない。艦隊で支給される整備班のシューズの靴跡だよ』
アークの生き残りが確かにここにいたという事実に、俺は心の中でガッツポーズをする。
整備班が見つかれば、艦隊への連絡やラグナの整備など、確実に目標へ近づける。
「情報のとおりやな」
「ああ、他に何か手がかりがないか、もう少し調べてみる」
俺はマルチスキャナーを使い洞窟内を調べ始める。
この拠点を破棄した理由が何か見つかれば、その後の足取りが予測できるかも知れない。
そう考え、調べていると粗末なベッドの付近でスキャナーが反応する。
『ルーク、血痕だよ。それもかなりの量だ』
土に染み込み普通に見ただけでは判別できない血痕を見つけた。
負傷しているのか? いや、不時着時に負った負傷なら、ここへ辿り着く前に体内のドットギアが修復しているはず。
つまり、この血痕はこの洞窟付近で負った傷の可能性が高い。
(魔物に襲われたか? もしくは……)
嫌な予感が脳裏をよぎる。
真っ先に思い浮かんだのは、バドラスの事だ。
奴はあそこで何をやっていた? 魔導機目的だと思い込んでいたが、本当にそうだったのか?
しかし、俺が最初洞窟を調べた時には魔導機は壊れたガラクタばかりで、価値のあるものは何も無かった。
ただ一点を除いては……。
――アークの残骸。
嫌な予感が、じわじわと膨れ上がっていく。




