18 ルーク、職人に囲まれる
グリミアへ着いてまず目に入ったのは、空に浮かぶ奇妙な物体だった。眩い光を放つ巨大な球体を、三本のリングがそれぞれ異なる角度で交差して静かに回転しながら包んでいる。
「あれは、私たちグリミアファミリーのシンボルでもある、世界最大のエターナル結晶『リングコア』です」
「あれがエターナル結晶なんですか?」
「そうですね。ファミリーの全エネルギーを賄っています」
「あれ一つでファミリー全体を。凄いシステムですね」
俺が感心しながら、空に浮かぶリングコアを見上げていると、少し離れた所で言い争う声が聞こえてきた。
「もう待てへん! ウチは一人でも探しに行くで!」
「だから、勝手な真似をするな、エネア! すぐにミラさんも戻ってくる!」
「いつまで待てばええねん! 早くおっさんを見つけ出さんと、仕事がまわらんのや!」
「二人とも落ち着いて、みんなが見てるよ」
そんなやり取りをしている三人に向かって、ミラさんが近づいていく。
それに気づいた三人の中のひとり。赤みがかった茶色の髪を後ろで結んだ少女が駆け寄る。
「あっ、ミラさん! どうやった!?」
「気持ちはわかりますが、少し落ち着いて、エネア。協力は取り付けて来ましたから」
ミラさんが俺たちに視線を向けると、三人の視線も自然と集まる。
「えっと、二人だけ……なん?」
俺たちをみてエネアと呼ばれた少女は、露骨に落胆した表情を見せる。
「こちらの男性は、エクス・マキナを倒したと今話題の方ですよ」
「例の魔導機兵乗りですか! ほんまですか!? ん? あれは……?」
こちらを見た、正確には俺の少し上を飛ぶビットを見たエネアが、猛スピードで近づいてくる。
「なんや、この魔導機! これ兄さんの魔導機なん?」
その熱意に気圧され、俺は思わず一歩下がる。
「あ、ああ。俺の魔導機兵の装備の一つだよ」
「この意匠は!? ほほう。なるほど、これは武装か? へぇ、変わった形しとるなぁ! アルカディア王国とは違う設計思想から生まれた魔導機か? 兄さんは、この国の人間やないのか? 詳しく聞かせてぇな!」
……っと、機関銃のようにまくし立ててくる。
「え、えっと……」
「こら、エネア! 失礼ですよ! すみません、ルークさん」
そう言って謝罪したミラさんの目にも、明らかに「興味あります!」という意思がこれでもかと込められていた。
さすがは職人ファミリーというわけか。しかし、いつの間にか騒ぎを聞きつけた街の住人に囲まれてしまっている。
「ミラさん、場所を変えませんか?」
「え? ええ、そうですね。直ぐにホームへご案内します」
俺の指摘で周りの騒動に気づいたミラさんは一つ咳払いをすると、グリミアファミリーのホームへと向かい歩き出した。
グリミアの街並みはシルフィードに比べると、断然魔導機の数が多い。
道にはレールが敷かれており、そこを手すりに掴まり立ったままで移動する乗り物が行き交っている。
空を見上げれば飛行型魔導機が、大きな荷物を輸送しているのが見える。
「グリミアは職人の街だけあって、魔導機の活用が盛んなんですね」
「もちろんやで! ウチらのファミリーは王国でも一、二を争う職人ファミリーやからね」
俺の声に答えたのはエネアだ。
彼女は先ほど以来、メモを片手にビットの側を離れようとしない。
「エネアだっけ? キミも職人なんだよな?」
「王国最高の職人を目指して修行中やで!」
「エネアは、これでもファミリー期待の優秀な職人なんですよ」
「ミラさん『これでも』は酷いですよ!」
口では文句を言っているが、口元が緩んでいる。
それについて誰も否定しないところから、実際に優秀な職人なのだろう。
「――着きましたよ。ここが私たちグリミアファミリーのホームです」
そこは、リングコアの真下に位置し、建物全体が透明な素材でできたドーナッツ状の建物だった。
「一階は全て魔導製品の展示場になってるんですよ。今回の依頼が終わったら、ゆっくりご案内しますね」
『整備班の仲間が見つかったら、この惑星のテクノロジーを調べてもらいたいね』
(そうだな。案外、既に調べてるかもだけどな)
ホームの地下に降りると、職人たちの工房があり沢山の職人が働いていた。
俺たちは応接間に通されると、改めて今回同行するエネアたち三人を紹介された。
「今回の捜索は当ファミリーの団長である、メルキオールが王都へ出向いて不在なため、工房統括である私が代理で指揮をとっています。改めてよろしくお願いしますね」
ミラさんの紹介によると、エネアの隣に立つ二人――濃い青髪の短髪に無精ひげを生やした青年がマッシュ。水色の長髪を後ろで束ね縁のないメガネを掛けた少年がリドルで、この二人は兄弟らしい。
そしてこの三人は、今回消息を絶った調査隊を率いていたジュドー工房長の元で修行をしているメンバーだという。
「今回あなたたちのチームには、この辺りの捜索をお願いします」
そう言って示された地図には、今回捜索する予定の場所にバツ印が書き込まれていた。
「ここには既に別働隊が先行して向かっていますが、例の人物を見た場所ですので重点的に捜索をお願いします」
この後は、捜索対象や別働隊の情報を共有しつつ、森に生息する脅威についてもレクチャーを受けた。
◆
――そして翌日。
俺たちは、朝一で森の捜索へと向かう。
森には木々が生い茂り、上空からでは下の状況は確認できない。
「それじゃ、着陸するよ」
案内役を務める、エネアに続いて三機のアルヴェイルが着陸する。
「この辺りの森は背の高い木が多いんだな」
「そうやね、ここの特徴としては、この高い木と所々に点在する湿地帯や」
エネアの話によると、ここの湿地帯には『リンドラー』という体がスライム状の魔物が生息しているということだった。
「リンドラーは剣士の天敵って言われている魔物だから、私に任せてね」とノア。
「剣士の天敵か。わかった、ダメそうならノアにお願いするよ」
「うん。任せておいて!」
ノアが「フンスッ」と気合を入れる。
まあ、単分子カッターの刃にプラズマを発生してやれば問題なく倒せそうではあるが、エネルギーの消耗も激しいので相手にしたくない敵ではあるからな。
先頭に案内役のエネア、俺がしんがりを務め周囲を警戒しつつ森を進む。
現在ビットは上空から監視を行っている。ここ周辺の森は木々が密集していてビットの行動に支障が出るためだ。
目的地に向かい森を移動し始めてしばらくしたところで、ナイトが異変を知らせてきた。
『ルーク。前方二百メートルで戦闘が行われているみたいだよ』
(どんな状況だ?)
『ごめん。詳細は木が邪魔でよく見えないよ』
(了解だ)
ナイトからの報告を聞いて、すぐにチームメンバーに情報を伝える。
「俺の魔導機が前方二百メートル付近で、戦闘が行われているのを探知した」
「ほんま!? 兄さんの魔導機すごいな! 状況はわかる?」
「詳しくはわからない」
「先行してる別働隊の可能性が高いなぁ。すぐに救援に向かいたいんやけど、前衛は兄さんたちに任せてええか?」
「ああ、問題ない」
俺はチームに合図を出すと、現地へと急いだ。




