17 ルーク、グリミアファミリーへ飛び立つ
ラグナの倉庫の片付けも一段落し、エクス・マキナの騒動も落ち着きを取り戻しつつある。
そこで、俺は久しぶりに趣味である料理の食材でも物色しようと街へ出かける準備をしていたのだが、そこへ「お父さんが呼んでいる」と、ノアが俺を呼びにやってきた。
すでに何度も通ったホームの廊下を進み、ジェトスの執務室の前に辿り着く。
「お父さん。ルークを連れてきたわよ」
「おう、入ってくれ」
執務室に入ると、そこにはジェトスの他にもう一人、ジェトスと同じくらいの年齢の女性が待っていた。
「毎回、急に呼び出してわるいな」
そう言って、俺をソファに座るように勧める。
「でだ、まずはこちらの方を紹介しておこう。こちらは、『グリミアファミリー』からの使いでミラ氏だ」
「お初にお目にかかります、ミラと申します」
そう言ってミラと名乗った女性は丁寧に頭を下げる。
「それでだ、今回呼んだのはグリミアファミリーからの依頼を、お前に頼めないかと思ってな」
「俺にですか? 俺は他のファミリーの事は詳しくないですけど?」
「もちろん、それはわかっている。だから今回はノアをサポートに付ける」
なるほど、それでノアを使いに寄越したのか。
「俺に手伝えることであれば構いませんけど。とりあえずは内容を教えてください」
「そうだな。では依頼内容はミラ氏から、説明をお願いしてもいいかな?」
「はい、わかりました」
ジェトスから促され、ミラさんは重そうな箱をテーブルに置き、中身を取り出した。
「まずは、これをご覧ください」
そう言って取り出されたのは、二リットル程度の大きさの円柱の筒だった。
(ナイト、これって……)
『うん、間違いない。統合体で使われてる予備のクォンタム・バッテリーだね』
(見た感じ、空みたいだな)
『つまりは、誰かが使用した可能性が高いね』
統合体の技術をこの惑星の住人が使えるとは考えにくい。
となれば、考えられるのは――。
銀河統合体の関係者が、この惑星にいる。
「この遺物なんですが、先日の『星降』から数日後、太古の森へ入った我が団の調査隊が偶然回収したものです」
シルフィードファミリーでも調査隊を出していたし、やはり結構な騒ぎになっていたらしいな。
「星が落ちたと思われる現場には凄まじい大穴があり、周囲の木々は黒く焼け焦げていたそうです。この遺物はそこで見つけたのですが――その付近で、奇妙な衣服を着た人物を見たというのです」
(なるほど、生存者の可能性は十分あるな)
「ですがその人物は作業員が近づくと、すぐに逃げてしまったと報告を受けています」
「逃げた人物の特徴はわかりますか?」
俺はいても立ってもいられず、思わず身を乗り出して質問をする。
「ええ。格好はオレンジの上下が繋がった服装だったそうです。ただ顔に関しては、変わったゴーグルを付けていて見えなかったらしいです」
統合体の服装でオレンジといえば整備士だ。
変わったゴーグルというのは、恐らく整備用のフェイスゴーグルだろう。
(確定だな)
「それで、改めて詳細な調査に向かったのですが……その調査隊からの連絡が途絶えてしまいまして。どうか彼らの捜索に、お力を貸していただけないでしょうか」
「でも、何故シルフィードファミリーに依頼を?」
「ルーク、それはね、グリミアファミリーが魔導機工房専門のファミリーだからよ」
ノアいわく、魔導機工房とはその名の通り魔導機を専門に扱う工房で、住民が普段から使う魔導器から戦闘用の魔導機兵まで幅広く取り扱うのだそうだ。そのため、捜索隊の人員が足りないのだという。
ちなみに、現在ジェトスの魔導機兵もここで整備中だ。
「お話はわかりました。しかし、俺たち二人だけでは流石に効率が悪いと思うのですが?」
「もちろんです。今回、グリミアファミリーからも三人の人員を用意します。ただ……その人員というのが、調査員ではなく職人なのです」
「職人の方なのですか?」
「はい。もともとグリミアファミリーには、調査を専門に行う団員はおりません。これまでも工房で使う資源を太古の森へ回収に行く団員を、調査員として派遣していたのです」
俺はそれを聞いて、ジェトスへ視線を向ける。
「まあなんだ……グリミアファミリーには、これまでも色々世話になっているしな……」
そう口を開いたジェトスは、なぜだかバツの悪そうな顔をしていた。
隣のノアを見ると、こちらは呆れたような顔を隠そうともしていない。
「どうでしょう? 引き受けていただけますでしょうか?」
ジェトスが俺の顔をチラチラと、期待の籠もった目で見つめてくる。
まあ、仲間を発見できる可能性もあるし、引き受けない手はないよな。
「わかりました、お引き受けしましょう」
「本当ですか。ありがとうございます!」
ミラさんがソファから立ち上がり頭を下げる。
俺も立ち上がり握手をして、今後の打ち合わせをしてから自分の部屋に戻った。
ベッドに腰を下ろし、天井を見上げる。
(ミラさんの話を聞く限り、アークから脱出した整備班の誰かなのは、ほぼ間違いないな)
『そうだね、それにアークの脱出ポッドは定員五名だから一人とは限らないよ』
俺はこの惑星に不時着して初めての有力な仲間の情報に、期待を膨らませていた。
◆
「それじゃ、行って来るね、お父さん」
「では、頼むぞルーク」
「任せて下さい。行って来ます」
二人乗りのアルヴェイルに、ノアと乗り込む。
上下二対の透明な羽が展開して、空へ飛び立つ。
今回の操縦は俺だ。
俺が一度見ただけで操縦を覚えてしまったことに、最初はノアは驚いていたが、最終的には「まあ、ルークだし」と呆れられた。
最近は俺がとんでも行動をすると、「まあ、ルークだし」で済ませるのがノアの反応として定着しつつある。
今回の依頼では、ラグナは置いてきている。捜索にラグナを連れ回すわけにもいかないからだ。
現在はサポートとしてビットを二機随伴させ、目的地のグリミアファミリーまでの距離遠いため、一機を中継基地として使用している。
「それで、ミラさん。合流する三人はグリミアファミリーで落ち合うんですよね?」
俺は並走する魔導機に乗るミラさんに、通信機越しに予定を確認する。
「はい、到着したらすぐに紹介します。それから……」
ミラさんが後ろに随伴するビットに視線を向ける。
「あれは、俺の魔導機兵の装備なので気にしないでください」
「はぁ……。初めて見る意匠の魔導機だったので、気になってしまい。すみません」
「いえ、確かにこの国の魔導機とは少々違いますからね」
その後もミラさんはチラチラとビットを見ていたが、職人の性というやつだろうか。
シルフィードを出発して二時間ほど飛行した所で、目的地のグリミアファミリーの星渡りが見えてきた。
「シルフィードに比べると、かなり小さいな」
俺の呟きにノアが反応する。
「うちが大きいのよ。シルフィードの大きさは、王国でも五本の指に入るんだから」
「シルフィードさんが大きいのは確かですけど、うちが小さいのは職人専門っていうのもあるんですよ」
「魔導機の職人は誰でもなれるものじゃないから、人数が少ない分、大きさは重要じゃないの」
ミラさんの説明にノアが補足する。
そして、俺たちはグリミアファミリーへと無事たどり着いた。




