16 ルーク、倉庫をもらう
「とりあえず、こんなところか」
『うん。だいぶ片付いたね』
俺は薄暗い倉庫の中で、コンテナの上に腰を下ろす。
目の前には、片膝を突いて静かに佇むラグナの姿があった。
屋根の隙間から差し込む一筋の日差しが、ラグナをライトアップするかのように照らしている。
先日の騒動の後、俺はジェトスに呼び出された。
もちろん事情聴取のためだ。
事件の経緯、魔導機至上主義集団『エクス・マキナ』に所属する、バドラスとその魔導機兵ゴランについて。
そして、ラグナについてだ。
前半は、淡々と事実とのすり合わせ確認だった。
大変だったのは、後半だ。
話題がラグナの事になると、ジェトスが目を輝かせて身を乗り出して聞いてきた。
「おいルーク! ありゃお前の魔導機兵なのか!? あんな機体、見たこと無いぞ!」
「ラグナは凄かったんだよ、お父さん! あのゴランを一撃で斬り伏せたの!」
「ほほう! もっと詳しく聞かせてくれ、ノア!」
……とまあ、こんな感じで、ラグナはどんな魔導機兵なのか、所有は国なのか個人なのか、実力はどの程度なのかと、根掘り葉掘り問い詰められた。
俺は事前にナイトと相談し、俺の国『地球』の実家で代々受け継がれてきた、家宝の魔導機兵という事にする、と決めていた。
性能については詳しくはわからないが、大昔に活躍した機体だと説明した。
そして、最後に今後ラグナをどうするつもりなのかを聞かれ、ファミリーが必要とするなら力を貸すと伝えた。
その結果――。
護衛依頼の報酬、バドラスの捕縛と魔導機兵ゴランの鹵獲の報酬。さらには、今後もファミリーの力になって欲しいとの話から、このラグナ用の倉庫を丸ごと譲り受けることになった。
「はあ……まったく。見てるだけなら手伝ってもらえないですかね」
俺は、ラグナの近くで目を輝かせている中年の男へ苦言を言う。
先程から掃除の邪魔なのだ。
「これはお前の魔導機兵なんだから、自分でやるのが筋ってもんだろう」
などと、一向に手伝う素振りを見せない。もちろんその中年男はジェトスの事なんだが……。
ここ最近、ジェトスは毎日のように倉庫に来てはラグナについて色々聞いてくる。
ノアに聞くと、どうやらジェトスは大の魔導機兵好きらしく。現在自分の魔導機兵をメンテナンスに出しているため禁断症状が出ているのだと、ノアが呆れ顔で教えてくれた。
「そういえば、バドラスの乗っていた魔導機兵はどうなったんですか?」
「ん? 今は国に証拠として提出中だ。調査が済めばファミリーに引き渡されると思うぞ。楽しみだよなあ」
「ええ、そうですね……。それと、この国の事を詳しく聞きたいんですけど」
俺の質問にジェトスはこちらを振り向き、大きなため息をつく。
「はぁ……ったく、チキュウってのはどんな辺境なんだよ」
(しかたないだろ、何千光年も離れた場所から来たんだから……)
俺は内心で反論する。
「まあいい。この国の名前は前にも言ったが『アルカディア王国』だ。現在はアルカディア十三世陛下が治めておられる」
「アルカディア十三世ですか」
やはり、王国というだけに王が統治しているんだな。
「そして、この国最大のファミリーの主でもある」
「最大のファミリーですか。ちなみに、この国にはファミリーは幾つ存在するんですか?」
「大小合わせれば優に百を超えると言われているな」
(百以上……この星渡りが百を超えるとは)
「百ですか!? そんなに……」
そこへ、扉を開けて一人の少女が入ってくる。
「ルークお疲れ様。はい、お弁当を持ってきたよ」
「いつも悪いなノア」
「お父さんの分のついでだから大したことないわ」
ノアがラグナの側にいるジェトスを見る。
「それに、お父さんが迷惑かけてるから……。もう、お父さん。仕事がたまってるって係の人が困ってたわよ! それじゃ、またねルーク」
そう言ってノアは、ジェトスの腕を掴み強制的に連行していく。
それを眺めながら、ノアが作ってくれた弁当のサンドイッチを頬張る。
「うん。美味いな」
ファミリーの農園で育てている『コッコ』と言う鶏の卵を使った、たまご焼きサンドだ。
俺はたまご焼きサンドをもう一口かじり、今後のことについて考える。
まずは仲間の情報と、アークの残骸を集める必要がある。
ランディとユーリがこの惑星に不時着している保証はないが、アークがあの状況ならこの惑星に不時着することを選んだ可能性は高いだろう。
もちろん、二人の他にもアークから救命ポットで脱出した人がいる可能性は高い。
「ナイト。何か新しい情報はないか?」
『残念ながら、今のところは無いね。この惑星に充満するマナの影響でビットの通信範囲が極端に狭まってるから』
惑星に存在する未知の粒子『マナ』について、改めて整理しておく必要がある。
この惑星の技術体系はマナと密接に結びつき発展してきた。
その代表例が魔導機で、マナをエネルギー源として動き人々の生活の一部となっていた。
魔導機を使うには契約が必要で、契約を必要としないものを魔導器と呼んでいる。
魔導器の種類は様々で、火を出すものから光や水を出すものまで様々だ。
『どうも、マナには電波を含めたエネルギーを吸収する性質があるみたいなんだ。その結果、ビットの行動範囲はラグナを中心とした、およそ半径百キロの範囲だからね。あと、マナの濃度によってはもっと狭まるよ』
「なかなかに制約が多いな」
『それと、シールドやエネルギー兵器を使用すると稼働時間が極端に短くなるから、ラグナが近くにいない時は注意してね』
マナについては、早急に調べて解析の必要があるな。
しかし、今回の戦闘でビットも一機破壊され、動かせるのは残り二機。修理するには資源が圧倒的に足りない。
それに、ラグナの能力も依然低下したままで、今のところは問題ないが今後あれよりも強力な敵が現れないとも限らない。
「課題は山積みだな」
『そうだね。少しずつ解決していくしか無いよ』
「ああ、そうだな」
◆
――とある、豪奢な部屋の一室に二人の男がいた。
一人は背もたれの高い細かな細工の施された椅子に座り、もう一人はその前に跪いている。
「バドラスが捕まっただと!? あいつにはゴランを与えてあったはずだが?」
椅子に座った二十代前半の男が、もう一人の男に、不機嫌そうに問いただす。
「それがどうも、シルフィードの魔導機兵にやられたようで」
問いただされた、もう一人のフードを深く被った初老の男が答える。
「シルフィードだと? ジェトスの奴か、忌々しい!」
「いえ、調べによりますと、最近入った新人にやられたようでして」
「新人だと?」
それを聞いた二十代前半の男の眉間にシワが寄る。
「それはどんな奴だ?」
「すみません。まだ情報が少なく」
「ふん、まあいい。バドラスごとき短慮な男が消えたくらいで計画に支障はない」
そう言うと男は、サイドテーブルに置かれていた、赤い液体をあおる。
「引き続き調査を進めろ」
「かしこまりました」
フードの男が頭をさげ部屋を退出するのを確認し、男が小型の端末を操作すると、空間にウィンドウが浮かび上がった。
そこに映し出されたのは、漆黒に煌めく幾千万の星々と、二隻の宇宙艦が衝突し大破していく姿だった。




